第五話
一体どこまで続くんだ・・・・。
坑道の奥はさらに道が枝分かれしていて進む度に不安になってくる。
そして標的と中々出会えない。あれからストーンイーターに2匹遭遇し、倒したもののそれからはいくら進んでも全く遭遇する気配がない。
悪戯に時間だけが過ぎていくのに俺は焦りを感じ始めていた。
もっと効率よく獲物を狩ることはできないものか。そう考えていた時、ヒック、ヒックとすすり泣くような声が聞こえてきた。
女性の声みたいで、丁度この奥から聞こえてくる。誰かいるのかと思ったが、こんな使われてない寂れた坑道に人間がいるとは思えない。
新手の魔物か?そう思い俺は警戒しながら先に進む。
だが、奥に居たのは魔物ではなかった。かといって人間というには少し違う。
それは少女の姿をしているが、赤い頭巾を被った頭からは獣のような耳が生え、尻からは狐の尾のようなものが生えていた。所謂獣人という奴だろう。RPGの世界ではお馴染みの種族である。
その獣人の女の子が地面に膝をつけて泣いている。そしてその子の周りには4匹のストーンイーターが彼女を囲み、今にも襲いかからんとしている。
「おい、大丈夫か?今助けるからな!!」
俺は急いで彼女の元へ駆け寄ろうとする。
「助けないでください。放っておいて!!」
しかしそんな俺を彼女は静止する。そして次の瞬間ストーンイーター達が彼女に一斉に襲いかかる。
「いやっ。やっぱり助けて下さいっ。」
少女が必死に叫ぶ。
どっちだよ。ツッコミながらも最初からそのつもりだった俺は既に少女と魔物達の間に割って入っていた。
そしてがむしゃらに剣を振るい少女に襲いかかろうとしていた魔物達の頭を片っ端から叩き落としていく。
「うおりゃーっ。」
さらに慣れた手つきで腹を切り裂いていく。3匹も倒したから要領が大体分かってきて俺の動きは随分と無駄がなくなっていた。
ものの見事に真っ二つになったストーンイーター達は緑色の液体をまき散らしながら地面に伏していった。
グロテスクな光景が広がる中、俺は剣で魔物の切断面を広げ中を覗いていった。しかし案の定期待したものは出てこなかった。
「やっぱねーな。」
やはりそう簡単に見つかるものではないようだ。嘆息しながら俺は少女の方に振り返る。
少女はまだ怯えていた。
「た、助けてくれてありがとうございます。でも、私に関わらない方がいいですよ。」
少女は俺を見ると恐る恐る答えた。
「どうしてだ?」
「私、ある魔神から呪いをかけられてしまって・・・。人間の貴方には分からないでしょうけど、魔物をおびき寄せるフェロモンのようなものを体から常に放出するようになってしまったんです。だから私の行く先々で大量の魔物が現れるようになってしまい・・・・・。」
「それで皆に迷惑かけないようにこんな場所に引きこもってたのか。」
「はい・・・。住んでた村も追い出されてしまって・・・・。」
それは中々ハードな過去だ。
できれば何とかしてやりたい所だが、魔物をおびき寄せてしまうのでは一緒にいるのも大変な気がする。
ん、いや、待てよ、場合によっては使える。魔物をおびき寄せるということは効率的に狩りが行えるということじゃないか!!
「なあ、もし行くところがないんだったら俺と一緒にこないか?」
「えっ?」
少女は意外そうな顔で俺を見る。
「俺、レアハンターやってんだ。つってもまだ駆け出しだけどな。俺の側でなら魔物をおびき寄せる呪いというのも迷惑にならないどころか有効に役立つぜ?」
レアハンター、自分で言うとなんか恥ずかしいな。
「レアハンターってなんですか?」
「魔物を倒しまくってレアなアイテムを手に入れまくる職業のことさ。レアアイテムを手に入れるには魔物を狩りまくらなきゃいけねーからな。そのために、お前の呪いは役に立つ。」
「そうなんですか。でも、本当に私なんかを連れていいんですか?」
少女は目を輝かせながら俺を見る。
「さっきからそう言ってるだろ。」
俺は少女から視線を逸らしながら言う。
「あっ、ありがとうございますぅっ。私、レミィって言います。これからお願いします。」
少女はぱぁっと花が咲いたような笑顔で立ち上がり、俺に顔を近づける。彼女の透き通った瞳がこちらを覗く。
その拍子に俺の鼓動は早くなる。実はこうして女子と話したことはあまりないのだ。
「お、俺は狩谷雅人だ。よろしくな。」
「カリヤマサトさんですか。変わった名前ですね。よろしくお願いしますっ。」
先程までの陰鬱な雰囲気はどこへやら、彼女はすっかり元気になっていた。
元々はこういう性格だったのだろう。
「それじゃ、早速役に立って貰うぜ。」
その後レミィと俺は坑道の比較的道が開けた場所まで歩き、そこでレミィと二人で待った。この場所で大繁殖しているというストーンイーターを。
しばらくすると白い芋虫のような魔物が続々と至る方向から集まってきた。その数ざっと20匹。うっひょー。これは効率がいいぜ。
俺は出てきた芋虫共を片っ端から切り刻んでいく。
しかし目当ての物は出ない。
再び集まるのを待つ。
そして狩る。
集まるのを待つ。
そして狩る。
集まるのを待つ。
そして狩る。
集まるのを待つ。
そして狩る。
集まるのを待つ。
そして狩る。
「ねぇ、カリヤさん。一体いつまで狩るつもりですかぁ。」
レミィは退屈し始めていた。それもそのはず。正確な時間は分からないが、多分数時間は経っているはずだ。
「いつまでだって?そりゃ出るまでよ。」
俺は答えたが正直体力的にも精神的にも限界が近づいていた。
これまでに狩ったストーンイーターはざっと数えて500匹。そろそろ出てもいい頃だろう。
まあ、俺にとっちゃこんな作業、日常茶飯事だ。だが、いざ自分の体でやってみると結構キツい。だがここまできて諦められるかってんだ。
自分で檄を入れ再び集まってきた芋虫軍団相手に俺は斬りかかる。
単純作業を繰り返し、苦痛を感じ続けていると、その苦痛がある時から快感に変わる時がある。それがハイって奴だ。
俺にもそのハイになる瞬間がとうとう訪れた。
「フゥーッ。」
俺の一閃で芋虫共は真っ二つになっていく。同じ魔物を狩り続けたおかげで、奴の動きを完全に把握でき、一発で急所である腹を切り裂けるまでに成長していた。
気持ちィィー。これがレベルアップするってことかい。
この調子でさらに魔物を倒しまくり、倒した魔物の数が1000を超えたとき、遂に待ち望んだ瞬間が訪れた。
最後に倒したストーンイーターの腹の中から、赤い宝石のような六角形の綺麗な石が出てきた。
「おお~、これが噂の凝血石か。やっとお目にかかれたぜ。」
拾い上げるとそれは本当にあんな気色悪い魔物の腹の中で精製されたものかと思うほど透き通り、美しい。
「私にも見せてください。」
レミィが駆け寄ってくる。
「ああいいぜ。」
俺は彼女に凝血石を手渡した。
だがその瞬間俺の視界が眩み、体から力が抜けていく。
しまった。体を酷使しすぎたか。
俺はそのまま意識を失った。