第二十四話
俺は魔物と冒険者の共存について熱く語る人からさりげなく離れ、シャーリーさんのところへ向かう。
するとシャーリーさんも珍しく新聞を読んでいた。しかもその手が震えている。
「うううううう・・・・。」
「ど、どうしたんですか?」
顔を上げたシャーリーさんは涙ぐんでいた。
「可愛い可愛いマイコニドちゃんが昨夜何者かに虐殺されたんですって。ううー可哀想。ねぇ、あなたもそう思うでしょう?」
思わない。それに愛嬌はあったけど可愛いというほどだろうか?と思ったが言わない方が良いだろう。言ったら殺されそうな気がする。
「そうすね。魔物とはいえここまでされる理由もないですし。犯人は憂さ晴らしでもしたかったんでしょうかね?」
「そうだとしたらかなり酷いわ。こんなことする人は人間じゃないわ!!」
シャーリーさんは力強く訴えた。いや、そこまで言うことか?そもそも彼女は普段魔物討伐の依頼を受け付けて、冒険者に斡旋しているのであまり言えたことではないと思うのだが。
「気持ちは分かりますけどシャーリーさんってこんなに魔物に感情移入しちゃうような人でしたっけ?」
彼女だって仕事柄間接的にだが魔物を殺しているわけで、それがどうしてこんなに感情的になるのか不思議でならない。
「いや、普段は違うけどマイコニドちゃんだけは特別なの。マイコニドちゃんは私のアイドルなのっ。あの白くスベスベした肌、丸い足でテケテケと歩き回る姿、ああもうっ全てが最高!!こんな可愛い生き物他に見たことないわ。」
シャーリーさんは突如目を輝かせてマイコニドの魅力についてあれこれ語り出した。
真面目な人かと思っていたらまさかこんな意外な嗜好を持っていたとは驚きだ。
さて、そろそろ特訓に向かうか。午前中に依頼をいくつかこなそうと思ってたけどやめた。今日は修行に専念しよう。
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俺達はいつもの草原に集合した。
「それは面倒臭いわね。魔物なんかに感情移入するなんてどうかしてるわ。魔物は所詮魔物。私達人間からしたらただの敵であり、倒すべき存在でしかないのに。」
今朝の話を師匠にすると、師匠はこう答えた。
流石師匠だ。完全に割り切っている。俺は今日初めて居心地の良さを感じた。実を言うとさっきまで周りが自分を否定しているような気がしていたのだ。
「あの、カリヤさん・・・もしかしなくても昨夜の件はあれ、カリヤさんの仕業ですよね?」
横からレミィが話しかけてくる。
「そうだよ。それがどうかしたのか?」
「ということは何かレアアイテムを手に入れたんですか?」
「ああ、これだよ。」
俺は懐から例の胞子核を取り出す。
「ひぃっ、ちょっと気持ち悪いです。」
レミィは半歩後ろに下がった。
「なあーにこれ?」
逆に師匠は興味津々で顔を胞子核に近づける。
「これはマイコニドの胞子核といって、中には生物を眠らせる強力な胞子が入ってるんだぜ。」
「ふうーん。」
師匠はまじまじと乳白色の玉を見つめる。
そうだ、まだコイツの威力を試してなかったな。丁度いい、師匠で試してみるか。
俺の悪戯心に火が付いた。
丁度噴出口を覗いていたのでバフンと押し込み胞子を噴出させた。
「うっ・・・・パタッ。」
胞子をダイレクトに吸い込んだ師匠はそのまま倒れ込んだ。やったぜ。あの師匠を眠らせた。
「それっ、お前もだっ。」
俺はレミィにも胞子を噴出する。
それを見てレミィはさっと後ろに避けた。チッ、素早い奴め。
俺は即座にもう一発追撃をかました。今度はちゃんと吸い込んだようだ。
レミィが気を失ったように倒れた。
よっしゃっ。これは使える。俺は掌に乗せた胞子核を見ながらニヤつく。
やっと実用的なレアアイテムを手に入れたぜ。コレさえあればどんな敵だろうと簡単に無力化できる。
「あーはっはっはっはっはっ。」
そう思うと笑いが止まらなかった。
「あーはっはっはっはっはっはっはっはっ・・・はうあっ!?」
笑ってる最中に撒き散らした胞子を吸い込んでしまい、俺は激しい睡魔に襲われた。
しまった。そう思いながらも俺は瞼を閉じ、地面に倒れた。