第二十三話
「ゴホッ、グハッ、グオー。」
俺はマイコニドの足に蹴られ続ける。
クソッ、こうなったら………。
俺は息を止めて立ち上がり、剣を振り回した。
マイコニドの笠が宙を舞う。恐れをなした彼等は俺から離れる。
その間に胞子が舞っていない場所までダッシュする。
そして大きく息を吸い込む。新鮮な空気が肺を満たすと同時に、腹に激痛が走る。
くぅ、ここまでダメージを受けていたとは。レミィがいればすぐに治してくれるのだが今は生憎一人だ。改めて彼女の有り難さを知った。
マイコニド達は今の内に逃げようとやられた仲間を置いて逃げはじめた。
その中にはあの一際体が大きい個体もいる。
「待てェェェェェェェェェェェェェェ。」
痛みを堪えて俺は再び駆ける。ここで逃したら折角のチャンスが無駄になる。
絶対にあのデカい個体は発達した胞子核を持っている。
俺は再び駆ける。
そして、すれ違いざまに次々とマイコニドを切り裂いていった。
こうやって各個撃破していけばただの雑魚だ。
とうとうデカい個体の元まで辿り着いた。
「今度こそ逃がさねぇぜェェェェ。」
もう奴を守るものはいない。コイツが最後の一匹だ。
俺は渾身の力で一閃する。
ズパッと気持ちいい音と共にキノコの魔物は上下に真っ二つになった。
「ふぅ。」
額の汗を手で拭う。すぐに終わるかと思ったが案外手こずったな。
俺の周りにはマイコニドの死体?が大量に散乱している。
さて、お目当てのものはあるかな?
俺は最後に倒したマイコニドの死体に近づく。
確か胞子核は笠の下にあったよな。
大きな笠を頭から切り離してみる。丸い笠は中心部に胞子を出すための穴が開いており、その下に乳白色の球のようなものが付いていた。
「これか。」
俺はそれを手でもぎ取る。
それは直径10㎝ほどの大きさで、笠の部分と同じく穴が開いていた。その穴がまるで呼吸でもしているかのように縮小と拡大を繰り返している。どうやらまだ生きているようだ。
少々不気味だがこれが噂の胞子核か。
俺は試しに穴の部分を正面に向けて、空気砲の要領で押してみた。
すると、茶色い胞子が勢いよく飛びだした。
うおおおおおすげー。これがあればどんな厄介な敵だろうと眠らせることができる。
次に胞子核に月の光を浴びせる。
胞子核はそれに反応するようにドクドクと脈打った。
しばらく月の光を浴びせた後、俺は全身の痛みも忘れ、満足して宿に帰った。
そして次の日の朝。眠れる小鹿亭へ行くとなにやら騒がしかった。
「どうかしたんですか?」
俺は近くのテーブルに座っている冒険者に話しかけた。
「ほら見ろよコレ。酷いよな。」
手に持っていた新聞の紙面を俺に見せてきた。
その紙面の見出しには、
『クレベの森で大量のマイコニドの死体が散乱!!貴重素材乱獲が目的か?』
と書かれていた。クレベの森って昨日俺が行った所じゃん。じゃあこれって・・・・。
「これは酷いっすね。」
俺は冷や汗掻きながら適当に話を合わせた。
「酷いだろ?魔物だって兎に角狩ればいいってもんじゃねーんだよ。狩りすぎると生態系が壊れちまうし、数が減れば素材も取りにくくなる。有用な魔物はわざと増えやすいようにこちらから環境を整えたりもするんだぜ。」
「そうなんですね。」
「全く、どこの密猟者か知らないけど迷惑な話だ。マイコニドの体は食用にもなるし、胞子は毒だが一手間加えれば薬にもなる便利な魔物なのによ。」
「はあ、そりゃ勿体ないですね。」
「ああ。お前も気をつけろよ新人君。魔物はただ狩ればいいっていうもんじゃない。魔物と人間は緩やかに共生してるんだ。魔物を狩るときは必要なときに必要な分だけ狩るのが基本だ。」
熱く語る冒険者先輩。
そうなのか?他の冒険者は割と魔物を狩りまくってる気がするが。
「はい。肝に銘じておきます。」
そう言いつつも冷や汗が止まらなかった。
俺はどうやらヤバいことをやってしまったらしい。