第十九話
サンダーバードを狩ったことで俺の名声と悪名は街中に知れ渡り、知らない人からも良い意味でも悪い意味でも徐々に話しかけられるようになり、時折俺の部屋にも人が訪ねてくる。
「聞いたぜ。あんた金さえ払えば何でも珍しいもの取ってきてくれるっていうじゃねぇか。どうだ、報酬はたんまりやるから一つ頼まれちゃくれねぇか。」
無精髭を生やし、でっぷりと太った怪しげなおっさんだった。
「いや、俺あれから身の丈に合うような仕事することにしたんでそういうのはちょっと。それに頼むなら冒険者ギルドを通さないと。」
流石にあんな無茶な依頼をポンポン引き受けるわけにもいかない。それに怪しい依頼は引き受けるなってシャーリーさんから言われたし。
「堅いこと言うなよあんちゃん。ジョスターさんの言うことは聞いたんだろ?いくら貰ったんだ?それより三割増しで払うからよ。」
「それは例外でして、俺はもうこの手の依頼はなるべく引く受けないようにしたんです。それに今お金には困ってませんしね。」
俺は先日貰った金貨の入った袋を軽く縦に振ってみせる。ジャラジャラと金貨がぶつかり合う音が鳴る。
中にはまだ5万ラピスはあった。
「ケッ、ノリの悪いガキだぜ。こんなうまい話はないっていうのによぉ。まあいい、また来るぜ。今度は金に困って死にそうな時にな。あばよ!!」
話に乗る気がないと分かると男は悪態をついて帰ってしまった。
そして男と入れ替わりに今度はジョスターさんが現れる。
「ほっほっほっ。お前さんもすっかり有名人じゃのう。ほれ、例の品じゃ。」
ジョスターさんは一振りの剣を取り出すと、俺に渡した。
「これが例の剣ですね。ありがとうございます。」
手に取って見てみると、刀身がほんのりと青みを帯びており、柄は濃い青色。鍔は菱形で剣というよりは日本刀っぽい感じになっている。
「中々のできじゃろう。気に入ったか?」
「はいとても。」
「そうかそうか。じゃ、また用があれば来るからの。」
そう言ってジョスターさんは去っていった。
爺さんには悪いがもうあんなことはしないと決めたんだ。今度頼んできても断るからなと心の中で呟いた。
それはさておき、いい武器を手に入れた。これで俺も置物ではなくなるかな。
「何か退屈ね。」
依頼を達成し、外の草原で一休みしている最中
シェーラは岩に腰掛け頬杖をつきながらポツリと言った。
有り難いことに彼女は俺達の依頼に付き合ってくれている。プラチナランクの彼女からしたらブロンズランクの俺達が引き受ける依頼なんて簡単すぎてつまらないのだろう。
俺は新しい武器を手に入れて、もう置物ではないことを見せつけようとしたが、一体ずつ倒すよりやはり魔法でまとめて倒す方が効率がいい。
結局俺もレミィも置物であることには変わりなかった。
シェーラが入ったことでパーティー内のバランスは崩壊してしまった。今や完全に彼女の独壇場である。俺達は所詮彼女からおこぼれを貰っているに過ぎない。
「まあ、シェーラにとってはそうかもな。」
「ねぇ、もっとランクの高い依頼引き受けてみない?私がいるからどうせ死ぬことなんてないだろうし。」
依頼のランクが高いということは死ぬリスクや難易度が高いということを意味する。今よりも強い魔物とも戦うことになる。
だが、そうなったとしても今のままでは結局シェーラの強さに頼る未来しか見えない。
「それよりはまず、俺達が強くなった方がいい気がするけどな。」
「んーまあそれもそうね。」
「シェーラは強いからさ。俺達に稽古つけてくれよ。俺強くなりてぇんだ。」
「私もですっ。このまま足手まといのままでは私も気が気ではありませんから。」
レミィも立ち上がって言う。
「いいけど私の修行はキツいわよ。」
「構わないぜ。どんどん鍛えてくれ。」
「そう、そこまで言うなら・・・午後から早速始めましょ。」
「ええっ。午後から?明日からじゃないのかよ。」
「なーに寝ぼけたこと言ってるの。自分で強くなりたいって言ったんだからね。早く始めるにこしたことはないでしょ。」
「は、はい。」
シェーラは立ち上がり、岩の上から俺達を見下ろす。さっきまでとは顔つきが変わり、厳しい目で俺達を見つめる。
「それと、これからは私のことを師匠と呼びなさいっ。」
こうして唐突にシェーラの特訓が始まったのだった。