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第十七話

 サンダーバードを狩ってから次の日、眠れる子鹿亭に行ってみるといきなり大勢の冒険者が俺達の元へ集まってくる。

「おおっ、お前がカリヤか。」

「あの幻の魔物、サンダーバードを倒したって本当か。」

「なあ、どうやって倒したのか教えてくれよ。」

「そもそもどうやっておびき出したんだ?」

「誰からの依頼なんだ?そんな依頼見たこともなかったぞ?」

そして質問攻めにあう。

「まぁまぁ、その辺は秘密ってことで。」

俺は適当にはぐらかし、人ごみの中を抜ける。

「私達、すっかり有名人ですね。」

レミィが困ったように言った。

今朝も俺達はギルドへ向かう途中、街の様々な人々から好奇の視線を向けられていた。

「そうだな。」

「でも、いつの間に噂が広まったんでしょう?秘密の依頼だったのに。」

それは言えてる。

「街中で運んだ時じゃないか。」

あのデカい翼を堂々と街中で運んでいれば多くの人の目に入るのは当たり前だ。噂になるのも仕方ない。

「大丈夫でしょうか?」

彼女は心配らしい。

「ま、大丈夫だろ。」

今のところ何も問題になってないから問題ないだろ。

 そして俺はいつものようにカウンターへと向かった。

「ちょっとあなた達、2、3日前から様子がおかしいと思ったら、まさかこんなことしてたのね!!」

行くなり受付嬢のシャーリーさんは言った。腰に手を当て、整った眉毛はつり上がり、明らかに不機嫌な様子だった。

「どうもお久しぶりでーす。」

俺はわざと何事もなかったように振る舞う。

「どうもシャーリーさん。今日もお世話になります。」

レミィも空気を読んで後に続く。

「そんな演技したって騙されないわよ二人とも。聞いたんだからね!!あなた達、サンダーバードを倒したんでしょう?」

シャーリーさんは興奮してカウンターから身を乗り出す。

「そうだったとして、何か悪いことでも?」

「あなた達、やるとしてもちゃんと仕事を選びなさいよ。ギルドを通しての依頼ならいいけど、個人が直接頼みに来るような依頼には怪しいものが多いの。お金に釣られてホイホイ怪しい仕事引き受けてたら、大変なことになるよ。」

「はぁ、そうですか。」

「誰に頼まれたのか知らないけど、今回の件はかなり際どいところよ。」

「際どい?どういうことですか?」

「ハァ・・・。どうやら事態の重さが分かっていないようね。いい、サンダーバードは昔からこの辺りでは空の神の使いとして神聖視されてるの。特に長生きしてる老人達からはね。魔物だけど人に害をなすわけでもないから、街の人々も姿を見つけても積極的に狩ろうとはしなかった。そうやってサンダーバードと人間の暗黙の共存関係が長い間築かれてきたの。その暗黙の了解をあなた達は破った。若い冒険者達の中にはあなた達をヒーローのように囃したてる人もいるけど、今回の件であなた達を快く思っていない人も少なからずいるはずよ。」

言いたいことは何となくわかった。

「つまり、俺達を迫害しようとする人が出てくるかもしれないってことですか。」

「そういうこと。今回はたまたま噂が耳に入ったから忠告してあげたけど、あまり度を過ぎたことをすると冒険者でいられなくなるからね本当に。」

シャーリーさんは本気で怒っている。俺達のことを思って。

「すいません。もうこんなことはしません。」

俺は頭を下げた。レミィも俺に倣って頭を下げる。

「まあ、分かればいいのよ。あなた達はまだ冒険者になってから日が浅いからその辺の事情は知らなかっただけよね。街の人には私の方から説明しとくから、しばらく真面目に働いていればそのうち失った信頼も取り戻せるわよ。数日間は辛い思いをすることもあるかもしれないけど頑張って。」

そう言ってシャーリーさんは微笑みかける。さっきまでの鬼のような顔がまるで嘘のようだ。その笑顔は一輪の美しい花のようである。

だが俺はその笑顔を素直に受け止めることができなかった。

サンダーバードが一部の人から信仰されているのは知っていた。知っていてやったのだから俺は既に彼女を裏切っている。

心の底から煮えるようにふつふつと罪悪感が湧き上がってくる。

「あら、別にいいじゃない。サンダーバードを狩っても。」

突然背後から声がした。女の人の声だ。

振り返ると腕を組み、壁に背を預けた謎の女がこちらを見ていた。彼女は魔女が被るような大きな帽子を被っており、格好そのものも魔女のようだった。

そんな彼女と目が合うと、ふふっと妖しい笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。

カツカツとハイヒールを鳴らし、妖艶な雰囲気を漂わせながらやってきた女は俺に顔を近づけるなり言った。

「あなたが噂のカリヤね。サンダーバードを倒したっていうからどんな男かと思えば、こんなに可愛い坊やだったなんてね。」

仕草も色っぽければ声も色っぽい。大人のお姉さんという感じだ。俺はその色気に思わずやられそうになる。背後から射貫くようなレミィの視線を感じる気がする。

「ちょっとシェーラさん。勝手に話に入らないで下さい。折角良い感じで話が纏まりかけたのに!!」

シャーリーさんは再び怒鳴った。

「そんなに怒らなくてもいいでしょう。たかが魔物一匹倒したくらいで大袈裟よ。」

シェーラという女性は言う。

「そんなことないですよ。第一あなたには関係ないでしょう!!」

シャーリーさんの機嫌が再び悪くなる。

「ハァ、これだから古臭い考えの人って嫌い。空の神の使いなんていうけどあんなのただの魔物じゃないの。ねぇカリヤさん。私あなたみたいな人好きよ。強くて、それでいて古い考えにとらわれない。」

「えっ。」

いきなりの告白に俺の時は止まった。

「カリヤさん、その人の言うことを聞いちゃダメですっ。」

「そうですよぅ。その人なんか怪しいですよっ。」

後ろで何やら女性陣が騒いでいるが気にならなかった。

「ねぇ、カリヤさん。私もあなたのパーティに入れて。」

なん・・・だとっ。

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