第十六話
「どうやら無事に依頼を達成したようじゃの。」
俺達は二人で御輿みたいに担いできたサンダーバードの翼をジョスターさんの前に降ろす。
「なんとかな。けどかなり骨が折れたぜ。」
俺は汗だくの額の汗を拭う。サンダーバードを倒すことばかりに気を取られて、倒した後どうするかは考えていなかった。まさかあんなにサンダーバードがでかいとは思いもしなかった。おかげでここまで運ぶのに苦労した。
爺さんにそのことを話すと少年のように興奮しながら聞いてくれた。
そして、俺に報酬の入った袋を投げ渡すとサンダーバードの翼を持って、嬉々として工房へと帰っていった。さっそく武器の作成に取りかかったに違いない。
「良かったですね。ちゃんと報酬が入ってるか確かめましょうよ。」
レミィが興奮しながら言った。
袋を開くと目を疑わんばかりの金貨が大量に入っていた。ちゃんと数えたわけではないが、これは確かに10万ラピスはあるだろう。
「ちゃんと入ってるみたいだ。」
「と、いうことは今夜は・・・・・」
「パーッといくか。」
「やったーっ。」
レミィが両手を挙げて喜んだ。
「とはいえまずは体を綺麗にしないとな。この格好じゃどこの店にも入れねーぞ。」
俺達は泥だらけの上に全身びしょ濡れだった。
「そうですね・・・・・。」
レミィは自分が今どんな格好をしてるのか認識し、恥ずかしそうに頷いた。
「かんぱーい。」
俺とレミィはグラスを鳴らす。グラスにはこの世界の酒が入っている。鮮やかな赤色をしていて実に美しい。
俺は未成年だがこの世界に俺の世界の法律や常識を持ち込んでも無意味なことだ。酒を飲もうがこっちじゃ問題にならんだろう。
周りにも俺と同じくらいの年齢で酒を飲んでる奴がいるし。
俺とレミィは同時にグラスをあおる。口の中に酒が入った途端、甘い香りがふわっと広がる。うまい。楽園にでも連れ去られたかのような気分だ。これが酒って奴か。こんな体験できるならこっちに来て良かったぜ。
俺とレミィはあれから宿で体を綺麗にし、いつもの服装に着替えてから店に行った。
普段は入らないような、外装からして高級だと分かる店に勇気を出して入った。
すると、優雅な音楽が出迎えた。店の奥に演奏隊がいて、こちらの世界じゃ見たこともないような楽器を鳴らし、見事な旋律を奏でている。クラシックなど聴かない俺でも分かる。これは上等な音楽だ。
そしてここは冒険者御用達の店なのか、周囲のテーブルには俺達のような鎧やらローブやらを纏った冒険者が楽しそうに話しながら食事をしている。だが、同じ冒険者の中でも俺達は浮いていた。
周囲の冒険者が着ている鎧やローブは俺達のものよりずっと上質で、仕草も優雅で品がある。間違いない、あきらかに高ランクの冒険者だ。
高級店なのだからそりゃそうだよなとは思う。
むしろ俺達が背伸びしてこんな場所へやってきただけなのだ。
だけどそんなことは気にしない。俺とレミィは次々と料理を頼み、周りの目も気にせず食べまくる。
高級な肉、魚、野菜、それらに思い切りくらいつく。
うめー。
俺達は至福の時を味わった。
「さて、明日からどうしますか?」
宿に帰るなり、レミィが聞いてきた。
「明日からは平常運転だな。流石にこんな身の丈にあわない仕事ばかりじゃ体がもたんしな。稼ぎはいいけど。」
今日の戦いで何度死にかけたことか。報酬は確かに良かったが、これを機にあまり無茶しすぎるのもよくないだろう。
「私もそれが良いと思います。無茶しすぎるのは良くないですし。」
レミィは賛成した。
「そーだな。ま、数日後には爺さんの作った強力な武器が届くだろうし、そしたら依頼も捗るだろうから、今度は少しランクの高い依頼をこなしていこう。」
そろそろ依頼のレベルを上げてもいいころだろう。いつまでも薬草取りとかやってられんしな。
「はい。それじゃあ明日も頑張りましょう。」
レミィは元気よく言い、部屋を後にした。
部屋の扉が完全に閉まるのを見て、俺は金貨の入った袋をあける。中身はざっと7万ラピス。今日だけで3万ラピスは使った。まあいいか。
後7万、何に使おうか。俺は金貨の使い道を考えながらベッドについた。
明日からいつもの日常に戻るのに、不思議と嫌気はしなかった。金に余裕があるからか。金に余裕が生まれると、気持ちにも余裕が生まれるって本当だったんだな。
俺はいつもより満たされた気持ちで眠りについた。
だがこの時、クィリナーレの街では既にカリヤとレミィの二人がサンダーバードを倒したことは噂として広まり、二人は冒険者達の間ではちょっとした有名人となっていた。このことが後に二人の間に波乱を巻き起こすことになる。
「なに?たった10万ラピスのためにサンダーバードを殺したじゃと!?」
「はい。あのカリヤという男、思ったより欲深い者のようですな。」
「これは思っていたより使えるかもしれぬの。」
「そうですね。奴の行動原理は物欲。自分が欲するもののためなら平気で罪のない魔物の命すら奪うけだもの。それが証明されましたな。」
「うむ。その方が利用しやすい。自身の欲に溺れたものの方が、清廉潔白を謳う勇者なんぞよりよっぽど操りやすいからのう。あのカリヤとかいう男には、これからも計画に邪魔な魔物を倒してもらうとするかのう。」
「それは聡明な判断でございます。」
「そうじゃろう。」
「ところで、女王陛下に献上したい品がございます。」
「何じゃ?」
「サンダーバードの翼で作った鎧でございます。」