第十五話
ここまで来て死ぬわけにはいかねぇ。俺は何としてでもあいつを倒さなきゃいけねぇんだ。
レミィがすかさず回復呪文をかける。たちまち体の痛みが消えた。
俺はすぐに立ち上がる。
「何度も何度もこざかしいのぅ。まずはその小娘の方から始末してくれるわっ。」
サンダーバードは踵を返し、レミィの方へと向かう。
急いで俺はナップザックから次の魔道具を取り出す。
野球ボールほどもある植物の種を投げつける。
しかしそれはサンダーバードの鉤爪に蹴られ、虚しく地面に落ちた。
「馬鹿め。いまさらそんな攻撃効かぬわ。」
サンダーバードは悠々と笑い、レミィに近づく。
「やめろっ。」
間に合ってくれと俺は祈る。
「死ねぃっ。」
雷鳥は鉤爪に雷を纏わせ、レミィに対して引っ掻く。
「きゃっ。」
レミィは素早くしゃがみ、その頭上を大きな鉤爪が掠めた。
勢い余って横の木にぶつかり、雨が降っているにも関わらず木が燃えた。
「雷はなにも落とすだけではないのだぞ。その身に纏えば体自体が武器となる。」
自慢げにサンダーバードは語る。そしてすぐさま二擊目を放とうとする。だが、その時。
「グオッ。」
サンダーバードの足に巨大な樹の根が絡まり、奴の動きを止めた。
「何だこの木は?これでは身動きがとれん。」
雷鳥は木の根から逃れようと必死にもがく。
その間にレミィは奴から離れた。
どうやら間にあった。
それは植えた途端急成長する木の種。その名もジャクーの豆の木。
この木は大地のエネルギーを急激に吸い取り、周囲の木々を枯らしてしまう上、魔力の高いものをも取り込もうとする厄介な性質を持つ。
だが、それ故にこの場では魔力の高いサンダーバードに絡みついたのだ。
「よう、お前の相手は俺だよな。」
俺は奴の前に回り込む。
「ウヌゥ。人間ごときが。」
サンダーバード憎そうにこちらを見つめながら未だに拘束を解こうとしきりに暴れ、放電もしているが、魔力をも養分に変える木の根に吸われてしまう。
奴が放電するたびに根が太くなっていく。
かなり高かったから使いたくはなかったんだが、正解だったな。
「どうやら形成逆転だな。いくぞっ。覚悟しろっ。」
俺は剣を構え、ジャクーの木の根を駆け上がる。
「やめろやめろやめろやめろやめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉー。」
サンダーバードが恐怖の声を上げる。
「あばよサンダーバード。お前に罪はないが死んでもらうぜ。」
サンダーバードが最後の抵抗に体内に今までにないほどの電流を発生させる。
だがそんなの今更怖くねぇ。
所詮コイツは雷を発生させるだけしか能がない。
「うおらぁぁぁぁぁっ。」
俺はビビることなく奴に突っ込み、頭上から剣を振り下ろす。
奴の右翼と胴体が離れた。奴の体が地面へ落下する。
すかさず俺はもう一方の翼を切り落とした。
「グァァァァァァァッ。」
地面に落ちた雷鳥はあられも無い姿となった。
楽になれるよう奴の心臓に剣先を突き刺す。
「グギャァァァァァァァァァッ。わ、我を殺してただで済むと思うなよ。グハッ。」
捨て台詞を残してサンダーバードは絶命した。
ザーザーと雨の降る音だけが聞こえる。雷崩山の主はたった今死んだ。だが、罪悪感はない。
「これで良かったのでしょうか?」
レミィがしんみりとした様子で言った。
「まあ可哀想ではあるが、仕方ないさ。さあて、これがサンダーバードの羽か。」
地面に落ちたサンダーバードの羽はまだ雷を帯びているのか青白く発光していた。
死ぬ間際に雷を放とうとしたからだろう。放出されるはずだった雷の力が翼の中に残されている。
そういえばじいさんが雷を放つ直前に倒せって言ってたな。すっかり忘れてたぜ。でもまあこうして条件も達成できたし良しとするか。
俺は地面に落ちたサンダーバードの翼から羽を何本かとって懐へ入れた。このくらい良いだろう。
希少なサンダーバードの羽は俺にとってはレアアイテムだ。
しっかし、この大きな翼をどうやって街まで持って帰ろうかな。
俺達は頭を抱えた。