第十四話
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ。」
サンダーバードの突進を辛うじて避けたが、巻き起こった凄まじい突風によって俺達は尻餅をつく。
痛みを我慢してすぐに起き上がり、背中に番えていた弓矢を構え、サンダーバードに向けて放つ。
「そんな矢一本でどうにかなると思うのか?」
向かってくる矢に対してバサバサと羽ばたくサンダーバード。
だが、突風を受けても矢の勢いは衰えず、風を切り裂きながら飛んでいき、左羽に突き刺さった。
流石風切りの刃だぜ。
「グァッ。何だこの矢は。人間ごときが許さんぞ!」
大したダメージにはならず、むしろ余計に刺激するだけだった。
巨大な嘴で矢を引き抜くと赤い瞳でギロリと睨みつける。
空気を震わせるほどの咆哮を上げると、辺りに落ちまくる。
「キャアアアアアアッ。」
雷鳴の一つがレミィに当たり、彼女が倒れる。
彼女も俺と同様ローブの中に帯電性の鎧を着込んでいるから死ぬことはないと思うのだが。
「おい、大丈夫か。」
「お主も女と同じ目に遭わせてやるわっ。」
レミィに近寄ろうとした俺の頭上にも雷鳴が落ちる。対策してなきゃ即死だな。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
鎧を着込んで対策しても、電圧が高すぎて完全には防ぎきれない。体中に電流が流れ、全身が痺れ、俺もその場に倒れる。対策してなきゃ即死だな。
雨除けの黒ローブは焼け焦げ、雨が直接当たる。
だが途端に痺れが取れ、体が軽くなる。
俺はすぐさま立ち上がった。
「大丈夫ですかカリヤさん。」
レミィがかけよってくる。彼女が回復呪文をかけてくれたのだ。
「まだ生きておったのか。人間のくせにしぶとい奴らじゃ!!」
サンダーバードは再び雄叫びをあげ、その羽が青白い光を帯びる。まずい、また雷鳴だ。
あれを何発も喰らってちゃ身がもたないぜ。
俺はナップザックから人の頭ほどもある石を取り出し奴目掛けて放り投げた。
宙に浮かんだそいつをすかさず風切りの刃で貫く。
ドォーーーーン。
凄まじい音をたてて石が砕け、その欠片がサンダーバードの羽に深々と突き刺さる。
「グァッ。己こしゃくなっ。」
どうやら効いたようだ。こんなこともあろうかと用意しておいてせいかいだったぜ。爆弾石、それは激しい衝撃を与えると爆発する特殊な石だ。
攻撃手段は他にも用意してある。
「さあ、今度はこっちの番だぜ。」
ナップザックから今度は別の物を取り出す。両端が蛇の頭になっているロープを奴目掛けて投げる。
スルスルとそれは伸びていき、サンダーバードの巨大な図体を縛り付ける。
羽ばたけなくなったサンダーバードは地面に落下した。
絞首蛇。狙った獲物に巻き付き動きを拘束する。先程の爆弾石と同様、魔導具と呼ばれるものだ。魔導具の殆どは使い捨てのためコスパが悪いが、どうせこいつを倒せば10万ラピス手に入るので問題ない。俺は稼いだ金をこの魔導具にほとんどつぎ込んでいた。
なんせろくな攻撃スキルを持っていないのだから、こんな道具にでも頼らなければ仕方がないのだ。
「ウググ・・・・・クソッ人間め。」
サンダーバードが悔しそうに喚く。
「残念だったなサンダーバード。俺達の方が一枚上手だったということだ。」
動きを拘束されてる今なら近づいても怖くない。俺達はサンダーバードに近づいた。
「お前に恨みはないが、こっちも生きていくために必死なんでな。死んでもらおうかっ。」
俺は剣を頭上に構え、奴の頭に突き刺そうとした、だがその時だった。
奴の体が以前よりも急に強く発光し、たちまち拘束していた絞首蛇が焼き切れる。そして奴はトドメを刺そうとしていた俺に突進する。
「グアアアアアアアッッ。」
奴の雷を帯びた体に当たり全身が痺れる。そして奴の体に押されるがまま背後の木にぶつかり木が根元から折れる。
それでも勢いは止まらず二本、三本と木にぶつかり、ようやく解放される。
「ガハッ。」
大量の血を吐いた。
「ふぉふぉふぉっ。甘いな人間。我がこんな子供だましの攻撃でくたばるわけなかろう。」
サンダーバードは余裕そうに言うと、俺に見せつけるように悠然と空を舞った。
「これで分かったろう?お前達人間には全く勝ち目がないと。」
クッ、強い。強すぎる。流石高ランクの魔物。予想してたより10倍は強え。だが俺はここで負けるわけにはいかないんだっ!!!