6話
メル一族は滅びの運命にある。これは変える事の出来ない確定した未来だ。
現在から5年後に必ずメル一族はたった二人を残して滅亡する。
それは隕石が直撃したとか強大な鬼蟲がメル一族の街を襲ったとかいうような壮大な話ではない。
原因はもっとシンプルだ。
皆殺しにされるのだ。
そう、全てのメル一族がたった一人の男の手によって。
最強の名を欲しいままにし続けた一族の運命はたった一人の男によって全て滅ぼされてしまうのである。
なんと皮肉なものだろう、と俺は5年後に控える原作でも有名なメル一族大虐殺の夜に想いを馳せながら、青空に浮かぶ綿のような雲を見上げていた。
ここは棋聖院と呼ばれる、現実世界では軍事学校に当たる学舎だ。
ここで将来、鬼蟲や他国の脅威から守る騎士を養成しているのだ。
俺は昼間この棋聖院で勉強し、夜は死海の森での修行と、二重の生活を送っていた。
そんなある日の昼休憩、俺は校舎裏でのんびりと一人で昼食を摂っていた。
ちなみに双子の妹であるゾフィーとは別のクラスだ。
とその時、目の前に黒装束の民族衣裳のような服を着た4人の少年少女が現れた。
またか……と思いながら俺は気だるげに目をやる。
「キヲラ……この一族の面汚しめが……!」
バキッという派手な音を立てて、俺は頬を殴られ、後方に倒れた。
殴られた頬を撫でながら睨みつける。
「何よ、その目は? あんたはメル一族の恥ずべき汚点。この棋聖院にいるだけでも怖気が走るというのになんなのその態度は? はんっ、汚らわしい」
黒装束に身を包んだ少女は艶のある銀髪を束ね、吐き捨てるようにして、そう言った。
後方に控える取り巻き達も、まるでゴミを見るような目で俺を見ている。
はぁ、と心の中で溜息を吐いた。なんなんだ? こいつらは? いきなり人の事を思いっきりぶん殴りやがって……と思っていたのは数ヶ月も前の事だ。
だんだんと分かって来たのだが、この世界はとにかく弱者には厳しい世界だった。
力の無い者は奴隷以下の存在だ。その理はこの棋聖院でも同じだった。
力無き者はとことん力ある者に酷使され、利用される。
この世界ってほんと世紀末だよなぁ、と内心嘆息する。そんな中、リーダー格の少女は言った。
「栄光あるメル一族にあんたみたいな弱者は必要ない。とっとと消えろ!」
そう吠えた途端、後ろに控えていた取り巻き達が一斉に俺をサンドバッグのように蹴り倒す。
俺は日本のドラマのワンシーンのようになされるがままだった。
そう、今俺の目の前にいるこの少年少女こそ、メル一族の俺と同期の者達だった。
特にこのリーダー格の見目麗しい少女は後のメル一族生き残りの一人だ。
この少女の名はメル・ドロシーといい、原作ではヒロイン的存在で性格は最悪だが、見た目だけはやたらに美しい。
……まぁ一族の滅亡の後にこの捻じ曲がった根性が修正されていくのだが。
俺は相変わらずサンドバッグのようになされるがままだった。
だが、身体的なダメージは少ない。
この体に生まれ変わって数ヶ月が経ち、想像を絶するような死海の森での原作知識を利用したレベルアップを図っているのだ。
他の者に遅れを取っているはずがない。
だが、現実世界でも平和に生きてきた俺はこの情け容赦のない同期達の仕打ちには耐え難いものがあった。
日本ではこんな風に殴られたり蹴られたりという経験はした事がない。
どうしてこいつらは他人にこんな酷い事が出来るんだろうか……と困惑しながらも耐え続ける。
なまじ優秀な身体のお陰で痛みは少ないが、何より心が痛かった。
と、そんな中、人気の少ない校舎裏に凛とした声が響いた。
「お前ら、何やってんだ!」
するとドロシー達はピタリと動きを止め、後ろを振り向く。俺もそれにつられて新たな闖入者に視線を向けた。
そこにいたのは輝くような黒髪を持つ精悍な顔つきのガタイの良い少年だった。
俺は表情を綻ばせながら少年を見つめた。