3話
「ここが……俺達の家か……?」
トゥーンランド城から歩く事30分、メル一族の街の外れにある森の中へと入り、背の高い草を掻き分け、辿り着いたのはまさにボロ屋といってもいい程、年季の入った小屋だった。
俺は呆然としながらそのボロ家を見上げた。
森の中にあるためか苔やツタに覆われており、見るからに壁面はボロボロで、大きな穴が空いている箇所もあった。
控えめに言ってもやっぱりそれはボロ家だった。
「今更なぁーに、言ってんの。家があるだけでも十分でしょ。私達には父さんや母さんなんていないんだし……」
妹は目を俯かせて言った。
どうやら俺達には両親はいないらしい。
妹の様子から察するにあまりこの事についてはまだ深く聞かない方が良いだろう。
まぁ、住めば都とも言うしな。
中は外観に反して案外綺麗かもしれない。
「ただいまー」
そんな微かな願いも、今にも壊れそうな扉を開けると簡単に裏切られた。
天井からは眩い光が差し込み、床には雨受けと思しき入れ物が置いてある。壁にはシミが目立ち、綺麗とはとても言い難い。
……しかし、何故だろうか、こんなにもこの家はボロボロだというのに、少し懐かしいような、落ち着くような心地になるのは。
これもこの体になった変化なのだろうか。俺は洗面所へ行き、鏡を見ると……。
「……っ!」
驚いた。髪はやはり透き通るような綺麗な銀髪で、瞳はルビーのような朱色。目鼻口は整っており、妹の顔とそっくりだ。
背はかなり縮んでおり、年は10歳くらいか……?
やはり俺は日本にいた頃とは似ても似つかない風貌へと変化していた。
だが正直これについてはかなり喜ばしい。
何故なら前の顔よりも数百倍イケメンになっていたからだ!
前の顔の点数が45点だとしたらこの顔は950点くらいあるだろう。
少々、女の子顔ではあるが将来を大いに期待出来そうな顔だ。
元々メル一族は皆、容姿端麗だったのでこれは思わぬ副産物だ。……とそんな事よりも。
「お兄ちゃん、本当に大丈夫? なんでさっきから鏡なんかじっと見てるの?」
鏡を見ると心配そうな顔をしている妹が右端に映りこんでいた。
こうしてみると俺とこの妹はよく似ている。本当に瓜二つだ。そう、まるで双子みたいに……。
「……っ!」
その瞬間、俺の脳裏に電流が駆け抜けた。
そうだ! どうして今まで気が付かなかったのか! 今ようやく理解出来た。
「……家に帰ったら少し落ち着いてきたよ。ゾフィー。何か飲み物を持ってきてくれないか?」
「……うん! もちろん! でもよかった。お兄ちゃんが私の名前を呼んでくれて。名前なんだっけ? とか言われたらどうしようかと思っちゃった!」
そう明るい声で妹、いやゾフィーは台所へと向かっていった。
そこで俺はふぅ、と一呼吸する。そう、俺の妹になったこの少女の名前はメル・ゾフィーだ。
今が原作の7年前の世界だったからなかなか気付かなかったが、自分の顔を見てピンときた。
このゾフィーという少女は原作に登場する人物でかなり重要な位置にいるキャラクターなのだ。
メル一族の滅亡から生き残った二人の内の一人で、双子の兄を失ったという悲しみから闇落ちしてしまった憐れな少女……という設定だ。
そしておそらくはそのゾフィーの死んだ兄というのが……俺の事らしい。
「やっぱり俺……原作でも死んでるんかい!」
原作中ではメル・キヲラという名前は一度も出てこなかった。
それはメル一族滅亡の際に、多分に漏れず俺もしっかり死んでしまうという事なのだろう。……って事は。
「俺めっちゃモブじゃねーか! こんな死亡フラグだらけの世界でどうやって生き延びりゃいいんだよ!」
俺の悲痛な叫びがこだまする。
くそっ、せめて原作の主人公になってさえいれば……いや、無い物ねだりはよそう。
それよりも生き残る方法を考えねば……。このままだと何もしなければ5年後には勝手に死んでしまうのだ。
いったいどうすれば……………。いや、そんなことはとっくに決まっている。
強くなればいいのだ。この世界の強靭な死亡フラグをへし折れるだけの圧倒的な強さを身に付けさえすればいい。
どの道そうしなければ、例えメル一族滅亡から生き延びたとしても、主人公補正の無い俺など、その先であっさりと死んでしまうのだから。
「……強く……強くならなければ……」
幸い俺には原作という未来の知識があり、どのようにすれば強くなれるのかという知識も持っている。
そして幸運な事にこの身はこの世界で最も最優と謳われるメル一族だ。
鍛えさえすれば簡単に死ぬという事は無いだろう。だから……。
「俺は強くなって、必ず一族滅亡から生き残ってやる……!」
そう堅く決意すると……。
「はい、お茶だよ。お兄ちゃん。早く元気になってね」
俺は元気に微笑む純粋無垢なゾフィーを見る。
「か……かわいい…………」
俺は同時にゾフィーを守る事に決めた。