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36話



 鬼愛羅討伐の報はすぐにトゥーンランド中を駆け巡った。


特に鬼蟲の王として名高い鬼愛羅が棋聖院の生徒に紛れていたという事実はトゥーランド国民を震撼させた。


しかし災厄級の鬼蟲を討伐したという功績は中枢部にも認められ、俺とドロシーは新米の騎士としては異例の2階

級特進を果たした。


鬼愛羅を恐れていた人々は諸手を挙げて俺達を歓迎したが、俺の心が晴れる事はなかった。


どれだけ歓迎されようとも、昇進しようとも仲間達は帰ってこない。


その事実が俺の心を重くしていた。


俺は俯いていた顔を上げる。


目の前には俺がこの世界に来て初めて目にした巨大な建物……トゥーンランド城がそびえ立っていた。


そのあまりにも巨大な正門の前には鍛え抜かれた精鋭の門番達が一列になってこちらを見ていた。


その門番の中の一人が門の前で立ち尽くす俺を見て不審がったのだろう、油断なく俺を見つめながら近寄ってき

た。


目の前に現れた門番の背丈は大きく、筋骨隆々の体には無駄な脂肪が全くついていない。


流石は実力至上主義の国。半端な鍛え方をしていないと一目で分かった。


門番が威圧的な声音で俺に言った。


「おい、そこのお前。そんなところで何をしている……? お前……その白い髪はまさか……鬼愛羅を倒したという

メル・キヲ」


「……時間停止」


俺はまるで銅像のようにピクりとも動かなくなった門番を素通りして超人的な脚力で10mはある立派な門を軽々

と飛び越えた。


タンっと城の中庭に降り立つと多くの騎士達が不審人物がいないか巡回をしていた……が静止した時の中では俺を

見つけることは出来ない。


トゥーンランドの王位は世襲制ではない。トゥーンランドの王になる方法は極めてシンプルだ。


王を倒せばいい。


つまりは王を倒したものが新たな王となるのだ。


だから王を守る為の警備は極めて厳重でトゥーンランド城には常時千名以上の精鋭騎士達が近衛騎士として配備さ

れており、日夜不届き者の下克上に備えているのである。


普通ならば近寄る事すら憚られるトゥーンランド城でもこの俺の黄金の瞳を持ってすればフリーパスに等しい。


俺はトゥーンランド城の玉座の間に向かう道のりをまるでピクニックにでも行くかのような軽い足取りで歩いてい

った。


城内の螺旋城の階段でも、夥しいほどの騎士達が警備しており、玉座の間に近づくにつれて奴が発する圧倒的なオ

ーラがひしひしと伝わってくる。


……もうすぐか……。


俺はたらりと流れてきた汗を拭い、一旦時の静止を解いた


「な、なに奴! 皆の者! てきしゅ……」


時が動き出した瞬間、衛兵が俺に気付き、大声をあげようとするが、その前に再び時間を停止出せた。


……ふぅ、危ない、危ない。


俺は大声を出そうとした衛兵を拘束し、声を出せないように城外へと投げ捨てた。


しばらく階段を上へと上がり続けると、ようやく玉座の間へと至る門の前に着いた。


この門の前には衛兵はいないが、代わりに玉座の間から針を突き刺すようなプレッシャーを感じる。


……なるほど、こんなプレッシャーを毎日浴び続けるのは例え精鋭の騎士だろうが身がもたないだろうなと、ここ

に衛兵がいない理由が理解出来たところで、俺はいよいよ門を開いた。


ゴゴゴゴゴ……と重々しい音を立ててゆっくりと門を開くと俺は煌びやかな内装を誇る玉座の間を躊躇う事なく進

み、俺に挑発的なプレッシャーを与え続けていた張本人と対峙する。


黄金の細やかな技巧が張りめぐされた巨大な玉座に腰掛け、俺を睥睨していたのは、忘れもしないこの世界の最強

生物と謳われた男、メル・ナルク王だった。


メル・ナルクは俺を見て驚きもせずに言葉を発した。


「……よく来たな、小僧。いや、メル・キヲラ。余は貴様がここにやってくる事は分かっていた。余と決着をつけ

に来たのであろう?」


そう、俺はトゥーンランド最強の男、メル・ナルクと戦いに来たのだ。


本来の主人公であるマルス亡き今、この物語を紡ぐ者は俺しかいない。


俺自らが主人公になると決意した時、俺は一つの決心をした。


それは俺がこの世界最強の男、メル・ナルクを倒し、俺が新たにこの国の王になるという事だ。


そしてこの世界から実力至上主義という概念を無くすのだ。


この世界が危険きわまりないのは皆が皆、単純な力の強さしか重要視していないという点にある。


そのせいで文明が発達せずにいつまでも世紀末のような状況が続いている。


俺が真の自由を手に入れる為には俺が王となり、全てを変えるしかないのだ!


そう決意した時、気付けば俺はこの場に足を運んでいた。


「ああ、その通りだ、メル・ナルク。今こそ借りを返してやるぞ」


俺はじっとメル・ナルクの黄金の瞳を見つめながら答えた。


……流石だ。こうして向かい合っている間もずっと時を止めていられるとは……。


もしかすると前回戦ったメル・ナルクは全力ではなかったのかもしれない……。


たらり……と俺の頬に一滴の冷や汗が流れた。


「何時にもなく充溢したオーラ。どうやらあの時のお前とは随分違うらしい……よかろう。メル・キヲラ……。余に

お前の全てを魅せてくれ」


その瞬間、俺はドンッッッッ! という地響きを鳴らし、スカイブルーの炎で全身を炎上させた。身体中に力が溢

れ出し、メル・ナルクの圧倒的なプレッシャーを跳ね返す。


出し惜しみせず創造神・ホルスの力を呼び出して、俺はメル・ナルクに叫んだ。


「行くぞッ! メル・ナルクッ! お前の野望を打ち砕くッ!」


「来い、メル・キヲラ……!」


俺は神速の踏み込みで世界最強の男、メル・ナルクへと突撃した。


ーーこの瞬間、後に未来永劫語り継がれることになる覇王を決する運命の戦いが幕を上げた。




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