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35話

「……はっ……!」


俺はゆっくりと目を開いて己の姿を確認した。


全身がスカイブルーのような青白い炎に包まれ、陽炎のように揺れていた。


全身に力が漲るように溢れ出し、創造神・ホルスと一つになった一体感を感じる。


体は重りから解き放たれたかのように軽く、底知れない開放感を感じる。


「メル……キヲラァ……! そ……その姿……ま、まさか神を手懐けたとでも言うの……!? 有り得ないぃっ!」


鬼愛羅は俺の姿を見て恐れを抱いたのか、後ずさりをした。


鬼愛羅に捕縛されているドロシーも俺の姿に驚いていた。


「キヲラ……ついにやったのね……」


鬼愛羅に囚われ、苦しそうな表情を浮かべるドロシーを見て、俺は内心で呟く。


……時間停止……


全ての動きが停止し、全ての物体がまるで彫刻のように固まる。


最初は苦労していた時間停止も今では手慣れたものだ。


いや……これはホルスと融合した事が原因だろう。


もはや何秒……いや何分でも時を止めていられそうだ。


俺はゆっくりと鬼愛羅の元へと近付き、鬼愛羅の腕を斬りとばす。


あれほど頑丈だった鬼愛羅の体を紙のように易々と斬り飛ばせた事に俺は驚く。


どうやら身体能力も以前とは比べものにならない程、向上しているようだ。


俺はドロシーを受け止めると、片手で思いっきり鬼愛羅の腹を殴りつけた。


ーーそして時は動き出す。


「うがぁッハァッ!」


ドンッ! と野太い音と共に鬼愛羅は吹き飛び、クレーターの外まで吹き飛んでいった。


ドロシーはその光景を見て目を丸くする。


「キヲラ……あなた……一体何をしたの……?」


「時を止めて思いっきり殴っただけだ」


「……殴っただけって……。それにしてもキヲラのその青い炎の身体……全く熱くないわ……いや……むしろ暖か

い……」


俺はドロシーに向き直って言った。


「この身体は生と死を司るらしい。仲間には安らぎの生を与え、敵には地獄の死を与える。ドロシー、今から鬼愛

羅にトドメを刺してくる。マルスや教官の仇を……いや、鬼愛羅に殺された全ての人達の仇をとってくる。見守っ

ていてくれ」


ドロシーは俺の黄金の瞳をじっと見て言った。


「……ええ、キヲラ! あんたの持てる全ての力を使ってあんな奴、ぶっ倒しちゃいなさい! この私、メル・ド

ロシーが許可するわ!」


……鬼愛羅を倒すのにドロシーの許可がいるのか……と俺は思わず苦笑いしたが、ドロシーらしいふてぶてしい言葉

に自然と笑みが浮かんでくる。


なぜだかこれからはドロシーと仲良くやっていけそうな気がした。


「……ぐっ……ぅぐぅ………メル・キヲラァ……! 貴様一体何をしたァ……! 一気に数千の命が死んだ……! 有

りえないぃっ!」


腹を押さえて蹲る鬼愛羅を俺は見下ろし、冷徹に告げた。


「お前は無慈悲にたくさんの命を奪いすぎた。イヴ・テレサもベル・マルスもジル・ランドットもお前の道具では

ないっ! 俺が神に成り代わって裁きを下す! お前に与えるのは永遠の死だ!」


俺は蹲る鬼愛羅に右手を翳した。今から解放する力は禁忌の力だ。


容易く乱用すれば世界の滅亡を齎すだろう。


だが鬼愛羅という化け物は邪悪そのもの。放っておけば世界が邪悪に染まるだろう。


「ぐぅっ……いったい何をする気……? だがこの私は不死身っ! 何をしても無駄よぉっ!」


鬼愛羅は俺を力の限り睨みつけて、叫んだ。


確かに鬼愛羅は不死身に近い。だがどんな生物にも死は訪れる。


俺はただ絶対の死を鬼愛羅に与えるだけだ。


「メル・キヲラが鬼蟲の王・鬼愛羅に絶対の死を与える!」


その瞬間ーードンッッッッ!!! と地面が陥没し、空間が鬼愛羅を押しつぶした。


これはかつてハチ型鬼蟲の大群を瞬殺した技だ。


一瞬で大群を圧死させた恐るべき力。


俺は鬼愛羅に対して全力で力を行使する。


「ぐ……グググ……な、なんの……こ、これしきィ……これ……しきの技で……この私を倒せる……と…………っ!? 

な、なんだァ! これはァ……わ、私の命が……命が……つ、潰されていくだとォ……!?」


鬼愛羅は空間の圧迫から必死に逃れようともがくが……。


ドンッッッッ!!! ドンッッッッ!!! ドンッッッッ!!! ドンッッッッ!!!


と立て続けに起こる隕石の衝突のような衝撃に飲み込まれ、為す術なく潰され続ける。


鬼愛羅の手足は原型がなくなるまで潰され続けていた。


「わ……わたひの……いのち……がァ……! 百万の……いの……ち……がァ……! キ……キヲラァァァアアア

ア!!!」


鬼愛羅は力の限り叫び続ける。


だが俺は力を緩めない。圧力を与え続ける。


すると鬼愛羅に変化が起こった。鬼愛羅は潰される度に姿をサソリ、ムカデ、クモ、ハチへと変化させた。


……これは……まさか戻っているというのか……? かつて古に融合した鬼蟲達の姿へと……!


俺にはどんどん鬼愛羅の命が削られているのがよく分かる。


如何に不死身といえど命に限りがあるのなら全部潰せばいいだけの事。


創造神・ホルスからもらった力を使えば容易い事だ。


そしてーー幕切れは呆気なかった。


俺は鬼愛羅の命が元のオリジナルだけになった瞬間に力を止めた。


地面はまるで地割れが起こったように陥没しており、この場に起こった凄まじさを物語っている。


「鬼愛羅の正体は遥か昔に絶滅した最古の鬼蟲……三葉虫の鬼蟲だったか」


クレーターの中心にいたのはゴキブリのような蟲……三葉虫だった。


足をピクリとも動かせない程、弱った鬼愛羅は赤黒い瞳を点滅させている。


もう一押しで滅せるだろう。


「……キヲラァァ! 貴様は……わたしのものだァァァアアアアアア!!!!」


しかしその瞬間、鬼愛羅は最後の力を振り絞って俺に飛びかかってきた……が。


「…………時間停止」


ザシュッ……!


時が動き出した時には鬼愛羅の瞳がレイピアに貫通していた。


「………お、おの……れ………キ…………ヲ……ラ……………」


最後にそれだけを言い残し、鬼愛羅の瞳が完全に輝きを失った。


流石に最後の執念には驚いたが、たった今、鬼愛羅の命が永遠に消え去った事を確認した。


俺は静かに目を瞑り、創造神・ホルネスティの力を手放した。


「……ぐぅっ!」


力を解き、姿が元に戻った瞬間、凄まじい反動が俺を襲う。


指先一つ動かせなくなり、俺はその場に横たわった。


「ど、どうしたのっ……キヲラっ……!」


後ろで俺を見守っていたドロシーが慌てて近づいてくる。


「……どうやらさっきの力を使うと反動で動けなくなるらしい……。うぅ……全く体が動かない……」


ドロシーはほっとしたかのように胸をなでおろし、顔をニヤリと歪ませて言った。


「そうなんだ。じゃここに置いといたら危険だし、私がおぶってあげよっか?」


「い、いや……それは男として……もうちょっと休ませてくれよ。そしたら動けるようになるはずだ……」


「いやーでもこのままここにいたら鬼蟲にたかられるわよ? なーに恥がしがってんのよ!」


「いや、ドロシー。わざとやってるだろ! っておい、ちょ、こらっ!」


ドロシーは横たわる俺をひょいっと背中に背負って嫌らしく笑った。


「ほーらほら、怪我人は大人しくしなさいってね! それじゃあ帰るわよっ!」


「お、おーいっ! やっぱ恥ずかしいって……でもドロシー。ちょっと待ってくれないか?」


「……? どうしたの? まさか鬼愛羅がまだ生きてるの!?」


「いや……奴は完全に死んだ。……ただ……鬼愛羅に殺された三人を弔ってやりたいんだ」


ドロシーは俯きながら小さく呟いた。


「……そうね。私達が今生きているのも、みんなのおかげだもんね……」


俺はかろうじて動けるようになった体で、3人の墓を作った。


ジル・ランドットの大太刀とマルスの刀を墓標に立てて祈りを捧げる。


マルス……教官……テレサ……すまない。俺はみんなを助ける事が出来なかった。


祈りを捧げる俺にドロシーがポツリと問いかけてきた。


「ねぇ……キヲラの力でみんなを生き返らせる事が出来ないの……?」


俺はギリッと歯を食いしばって答えた。


「俺の力ではみんなを生き返らせる事は……出来ない」


俺は創造神・ホルスの言葉を思い出した。


ーー既に死んでしまった者は生き返らせる事は出来ないーー


その言葉が胸を締め付ける。


しかしドロシーは俺に思いがけない事を言った。


「確かにみんなはもう二度と帰って来ないわ……。でもキヲラは私を救ってくれた。キヲラがいなかったら私はと

っくに鬼愛羅に殺されていた。あなたは私を救ってくれたの! だから……それを忘れないで……」


俺はハッとしてドロシーを見上げる。


そうだ。俺はドロシーを救う事が出来たのか……。マルスやジル・ランドットが死の間際に託した想いを俺は守る

事が出来たんだ。


「そう……だな。これ以上暗い顔してたらあいつらに怒られるな……。ドロシー、トゥーンランドへ帰ろうか」


俺の言葉にドロシーは輝くような満面の笑みで答えた。


「うん!」


そのあまりの眩しい笑顔に俺は少し見惚れる……が。


「……ごめん、ドロシー。ちょっとまだ動けないからおぶって帰ってくれないか……?」


よくよく考えたらドロシーを一人でトゥーンランドへ返すのはあまりにも危険だ。


ドロシーは獰猛な鬼蟲に打ち勝つ実力はまだないのだから。


俺は恥を忍んでドロシーに頼むと、何やら勘違いしたドロシーは嫌らしくニヤリと笑いながら言った。


「あれー? あたしに負ぶってもらうのは恥ずかしいんじゃなかったの?」


「う、動けないんだからしょうがないだろ! い、嫌だったら別に置いて帰ってくれて構わないけどさ……」


「い、嫌じゃないからっ! わ、分かったわよっ! おぶって帰ればいいんでしょ! そんなの朝飯前よっ!」


ドロシーは顔を赤くして食い気味に言った。


何だか表情を慌ただしく変化させるドロシーを見ているとついつい笑みが溢れてしまう。


「ありがとう。それじゃ、帰ろうか。俺達の街、トゥーンランドへ!」


俺は進むべき道を得た。


主人公亡き今、これからこの物語がどう進むのかは分からない。


だけど今度は俺がこの物語の主人公になって前向きに進んでみよう。


真の自由はもうすぐそこだ。




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