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34話

「ここは……?」


俺は気付けば真っ白な空間の中にいた。


地面は無く、まるで水の中に漂っているような不思議な感覚に陥る。


……これが無重力ってやつか? あれ? 俺は確か鬼愛羅と戦っていたはずじゃ……?


俺はのんきにもそんな事を考えていると目の前に、あの紅い鳥が現れた。


紅い鳥の黄金の瞳はじっと俺の瞳を見ていた。


「私は創造神・ホルス。この世界を創った者だ」


「しゃ……喋った……!? それにこの世界を創っただって!?」


俺は驚愕に目を見開いた。


紅い鳥の口は全く動いてはいないが言葉が直接頭に流れ込んでくる。


これがテレパシーって奴か……?


「そう、私ともう一柱の神がこの世界を作り上げた。メル・キヲラ……君をこの世界に送り込んだのもこの私だ」


「な……なんだって!?」


再度驚愕に包まれる。今こいつはなんと言った? こいつが俺をこの世界に送り込んだだって!?


「そうだ。私は日本で過労死寸前だった君の魂をこの世界のメル・キヲラの魂と融合させたのだ。君の中には確か

にメル・キヲラの魂が根付いている」


「……っ!」


そうだったのか! という事はゾフィーの言っていた事は正しかったのか! 俺はメル・キヲラを殺したわけでは

ないと知り、安堵した。


「勝手な事をして申し訳ないと思っている。だが君は私の想像以上の働きを見せてくれた。私はずっと君を見てい

た。黄金の瞳を覚醒させ、あのメル・ナルクからも生き延びた君の姿を。どうしても手助けしたくなってね。君の

目の前に現れたのだ」


「……創造神・ホルス……ゾフィーを助けてくれた事にはとても感謝してる……でもどうして俺だったん

だ? どうして日本からわざわざ非力な人間をこの世界に送り込む必要があったんだ? 俺はどうしてもそれが知

りたい」


そう、こんな危険な世界に勝手に俺を放り込んだ事に恨みがない訳ではないが、この神はゾフィーを救ってくれ

た。それだけでお釣りがくる。それに……。


創造神・ホルスは少し間を置いて問いかけてきた。


「君は……日本で漫画“トゥーンランド”を見た事はあるか?」


「そりゃあ、もちろんだ。全部見てなきゃ、俺なんかがここまで生き残れてないさ」


そう、あの漫画の知識があったからこそ、俺はここまでやってこられたのだ。


学生時代、勉強せずに漫画ばっかり読んでて本当に良かったと今なら思う。


「メル・キヲラ……その……ん…………“トゥーンランド”は面白かったか?」


何故か創造神・ホルスは少し言い淀んで問いかけてきた。


その言い方に俺は若干訝しむ。


「ああ、本当に面白かったよ。リアルで美しい絵に生き生きとした魅力的なキャラクター達……。あの漫画と共に

青春を歩んできたんだ。思い出がたくさん詰まった最高の作品だ。でもまさか“トゥーンランド”の世界に俺が行く

ことになるなんて思いもしなかったけどな」


俺は苦笑いをしながらホルスに答えた。


あれほどの作品を書き上げられる作者はそれこそ本当に“神”だろう。


今、作者は行方不明になっており、連載が最終回間近でストップしているが……。


「その言葉を聞くとやはり本当に嬉しいな。ありがとう、メル・キヲラよ。これで日本に戻ったら心おきなく続き

を描けるというものだ」


「……っ! 続きを描くだって!? そ、それじゃあ、あんたはまさか……!?」


「そう……私は漫画“トゥーンランド”の原作者の一人……作画担当だ」


「……っ!?」


作画担当の原作者だって……!? そういうことか……! だから日本では作者が行方不明で連載ストップしていた

のか……! 


それにしても……。


「なんで原作者がこんなところにいるんだよ!? ていうか早く日本に帰って続きを描いてくれよっ! 日本国民

がどれだけあんた達の作品を心待ちにしてると思ってんだよ! ……後でサインください……」


俺は思わず叫んでしまった。


「続きを描きたいのは山々なんだが……私達は一人でトゥーンランドを描いていた訳じゃないのだ。原作担当の奴

が、突然続きが書けないとゴネおってな……いやはや、申し訳ない……サインは後でやろう」


原作担当がゴネていた……? ということはまさか!


「原作担当もこの世界にいるのか!?」


「ああ、その通りだ。そこでメル・キヲラ……君に頼みがあるのだ。原作担当の奴に、私の代わりに喝を入れてや

ってほしいのだ」


「お、俺が……あんたの代わりに……?」


「ああ、私がいくら言っても奴には何も響かなかった。だがこの世界で、全力で生きてきた君なら……私達の作品

に並々ならぬ想いを抱いている君になら……奴の心を動かす事が出来るはずだ」


「なるほど……だからあんたは俺をこの世界に呼んだのか」


「恥ずかしながらその通りだ。メル・キヲラよ……あの馬鹿を宜しく頼む。私の力も君に預けよう。持っていくが

いい」


その瞬間、ホルスは俺の体に力を注ぎ込み始めた。


……っ!? こ、これは……すごい……力が漲ってくる!?


「私の力はまさしく作画担当の名に相応しい力だ。あらゆる生物に生命を与え、死をも司る究極の力。創造神の力

に驕る事なかれ」


創造神・ホルスの言葉と共に凄まじい力の奔流が俺を襲う。


それと同時に生と死を司る力の本質を俺は理解した。なるほど、これは絵を描く事で世界を作り上げる作画担当に

ぴったりの能力だ。


「……分かった。創造神・ホルス。俺が原作担当に喝を入れてやるよ。……奴には借りがあるからな」


「……! キヲラ、君は原作担当の正体が分かっているのか?」


「大体だけどな。……それにしてもこの力は万能だが、唯一出来ない事があるんだな」


俺はこの力を全て理解出来た事で気付いてしまった。


「……ああ。既に死んでしまった者は生き返らせる事は出来ない」


「……そうか」


それは既に死んでしまったイヴ・テレサ、ベル・マルス、ジル・ランドットは蘇生出来ないという事。俺は拳を強

く握りしめた。


「メル・キヲラ、君ならとっくに気付いているとは思うが最後に一つだけ言っておく。この世界はもはや、“トゥー

ンランド”ではない。この世界はとっくに私達の手から離れ、新たな物語が始まっている。それは君が紡ぐ物語だ。

君の思う通りに生き、私達にその生き様を魅せてくれ。君がこの物語の主人公だ!」


創造神・ホルスの全てが俺の中へと入っていき、消えた。


「ああ、分かっている。見ていてくれ、原作者」


この世界に降り立った当初はこの世界に送り込んだ者を恨んだ。


でも生き生きとした素晴らしいこの世界にいつの間にか俺は夢中になり、楽しんでいた。


いつの間にかこの世界が好きになっていたのだ。


だからせめてもの恩返しだ。


もう一人の原作者に喝を入れに行くとしよう。俺はもう一人の原作者の姿を思い浮かべた瞬間ーー再び目映い光に

包まれた。




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