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30話


「うぉぉぉおおおお!」


異様な雄叫びを上げながらマルスがタランチュラ型の鬼蟲が吐いた糸を全て引き千切って鬼愛羅の目の前に飛び出

した。


そしてマルスは腰に差していた黒く鋭い突起物を鬼愛羅の胸目掛けて突き刺す。


「ふふふ……あなた程度では無駄だと言って……ぐ、ぐぁぁああ! な、なんだこれはぁぁあ!」


マルスが渾身の力を込めて突き刺した得物はやすやすと鬼愛羅の体を切り裂いた。


「こ、これはぁぁあ! ダンゴムシ型の外殻! なぜあなたがこれを持っているのぉお!」


そう、俺はこの瞬間を待っていた。


昨日マルスに真実を打ち明けた際に俺はマルスにダンゴムシ型の外殻から作ったレイピアを渡しておいたのだ。


全鬼蟲の中で最も硬い硬度を持つダンゴムシ型の鬼蟲の外殻は鬼愛羅の外殻を突破する。


原作から知ったこの知識を利用して俺はチャンスを伺っていたのだ。


この瞬間こそ、鬼愛羅の気を削ぐ最大のチャンスだ。


マルスは俺を見て小さく頷いた。


ーーその瞬間!


俺は一気に力を爆発させて、瞳を黄金に輝かせた。


「時間停止!」


全ての音、声、振動、動き、モーメント、ベクトルがゼロになる。


全ての物体は等しく動きを止め、俺はこの世界の支配者となる。


ドロシー、マルス、ジル・ランドットはもちろん、猛威を振るっていた鬼愛羅でさえも時間の流れには逆らう事が

出来ない。


この時間停止に抗う事が出来るのは同じ力を持つ者だけだ。


「はぁああっ!」


俺は世界を支配出来る5秒という時間を最大限に利用して動き出す。


愛用のレイピアをマルスの手から取って、後方に控えていた数十匹のタランチュラ型の鬼蟲を一気に殲滅してい

く。


奴らの弱点は八つの赤黒く輝く瞳だ。この瞳を一度に全て潰すとこいつらは死ぬ。


タランチュラ型の鬼蟲は、実はメル一族には相性の良い相手なのだ。


そして時が動き出すギリギリに、俺は全てのタランチュラ型を倒し、鬼愛羅の目の前に立った。


くっ……時間がない……!


俺は悔しさで歯ぎしりしながら鬼愛羅の心臓部分をレイピアで深く突き刺した。


その瞬間、無敵の時間が終わりを告げる。


「がぁあっハァッ……!」


鬼愛羅は心底信じられないとばかりに血を吐きながら目を見開いて俺を見つめる。


後ろに控えていた全てのタランチュラ型の鬼蟲が力を失ったようにその場に崩れ落ちた。


「……キヲラ……これがお前の力か……凄まじいな…………やったのか……?」


固まっていたマルスが急に目の前に現れた俺に驚愕して呟く。


俺はすぐさまレイピアを鬼愛羅から引き抜いてマルスに言い放った。


「マルス! 鬼愛羅から離れろ! 奴は死んじゃいない!」


「な……なにぃっ!」


すると鬼愛羅はドシンッと後方に倒れ、呆然としながら俺を見つめている。


致命傷ではないにしろ、ダメージはかなり与えられたようで鬼愛羅の体からは紫色の体液が胸から流れ出ていた。


俺も時間停止後の影響で一歩もその場から動く事が出来ない。


鬼愛羅はしばらく呆然と俺を見た後、顔を突然醜く歪ませて高笑いを上げ始めた。


「ガぁっ……はぁっ! はぁ、はっはっはっはっはははははっはハハハハハハァー! あなた……その眼……ずばら

しいぃっ!」


俺は突然の鬼愛羅の奇声に面食らい、後ずさりしようとするが時間停止の影響で体が動かない。


……なんだこいつは……? 腹が貫通してるってのに笑っていやがる……!?


「ほじいぃ……欲しいぃ! 絶対ぃ! 手に入れてヤルぅう! それは……わたしのよぉ!」


すると鬼愛羅はむくりと立ち上がり、ダメージなどまるで無いかのように力強く俺に手を伸ばしてきた。


……まずい! まだ反動で体が動かないっ!


だがしかし、


キンッ!


鬼愛羅の鋭い爪とジル・ランドットの持つ大太刀が俺の目の前で鍔ぜり合った。


「おい! キヲラ! お前、後で説明しろよ!」


ジル・ランドットは汗を顔に張り付かせながら鬼愛羅と対峙する。


……助かった……流石は精鋭の騎士、状況を全て把握出来なくとも最善の行動を取るあたりは流石だ。


「お前は……邪魔よッ!」


「がぁッ!」


ブゥンッ! という轟音を響かせて迫ってきた殴打がジル・ランドットのこめかみを直撃する。


これはまずいっ! もろに入ったぞ! 


ジル・ランドットはまるで皮切りの石のように地面を何度も跳ねて瓦礫に激突し、やがて静止した。


……すまない、教官! 俺は心の中で謝り、動かせるようになった体を加速させて、光速の世界に入る。


「ちぃっ! やはり速いわねぇ!」


俺はレイピアを握りしめて、縦横無尽に鬼愛羅の周りを撹乱するように移動する。


鬼愛羅のパワーはマルスを軽く凌駕するほどに優れているが、スピードはそれほど速くはない。


いや、十分に速い部類ではあるのだが、時間を超越する程のスピードを持つ俺の敵ではない。


そこが鬼愛羅よりも圧倒的に俺が優れている点だ。


俺はレイピアを掲げ、鬼愛羅の肩、胸、腹、足、手、腕を光速で突き刺していく。


「ぐぅぅうううっ! これがメル一族の力ぁ……素晴らしいっ……素晴らしいわぁっ!」


鬼愛羅は俺に為す術もなく串刺しにされているというのに気味の悪い笑い声を上げる。


……ああ、こいつは正真正銘の救いようのない化け物なんだなと肌で実感する。


「これよ……このプレッシャー! この圧力っ! これこそが、かつて完膚なきまでに敗北を喫したメル・ナルク

の立つ領域! 他のゴミどもとは違うわぁ!」


なおも鬼愛羅は俺に有効打を打てずに串刺しにされ続けているが、痛みをまるで感じていないように嗤い続ける。


「無駄よぉ! 私の命は今まで吸収・融合した人間の数。その数は軽く万は超えているわ! 私を滅ぼすつもりな

らそのレイピアで1万回刺してみなさいぃっ!」


俺は冷静に思考を回転させながら作戦を練る。


そう、鬼蟲の王、鬼愛羅の最も厄介な力はその不死身さにある。


鬼愛羅は1度や2度殺したぐらいでは死なないのだ。


奴を倒すには特別な葬り方が必要だ。もちろんその対策はある。


その為の5年間でもあったのだから。


「くくく……まさかメル・ナルクの娘が虎の子だと思っていたのに、まさかメル・キヲラが神の子だったとはね

ぇ。とんだ役者がいたものだわぁ……! ……それにしても」


急に鬼愛羅は真顔になり、後方で怯えながらこちらの様子を伺っていたドロシーを見つめた。


鬼愛羅は頬を膨らませた瞬間! ペッ! と何かをドロシーに吐いた。


真っ直ぐにそれは高速でドロシーに向かって行く。


……まずい! あれは酸の弾丸だ! ドロシーでは避けきれないっ!


俺は急いで鬼愛羅への攻撃を中断して、ドロシーの元へ向かうが間に合わないっ!



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