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29話

「お前達には敵わないっ! 俺を置いてさっさと逃げろぉぉお!」


「そうはさせないわ」


本性を現した鬼愛羅は地面をドンッと踏み鳴らすと俺達の背後から無数の何かが現れ、俺達を囲む。


それはこの森に入った時に遭遇したタランチュラ型の鬼蟲の群れだった。


「なにぃっ! タランチュラ型の群れだと!? バカなっ! まさか最初のやつもお前の仕業か! 迂闊だっ

た!」


タランチュラ型の鬼蟲は普段群れる事はない。


数十匹のタランチュラ型を束ねる鬼愛羅の力量に俺は息を巻いた。


だが俺達を囲むタランチュラ型の群れは俺達を襲ってくる様子はないようだ。


どうやら俺達を逃さないようにする為のバリケードらしい。


飛んで逃げる事が出来るマルスとジル・ランドットには糸を吐いての迎撃を行うのだろう。


なるほど、よく考えられた布陣だ。


俺は素直に鬼愛羅へ賞賛の言葉を内心で送る。


しかし以前から対策を行っていたのはこちらとて同じ。


俺はマルスを横目で見た。


するとマルスは全ての毛を逆立てるように鬼の形相で鬼愛羅を睨んでいた。


既に龍人形態に変化し、鋭い牙を露出していた。


待て! まだ早いぞ! マルス!


俺は内心で叫ぶ。だがジル・ランドットが態勢を立て直すよりも早く、マルスは鬼愛羅目掛けて殴りかかる……

が。


「あなたの相手はまた後でね」


鬼愛羅は後ろに目が付いているかのように背後から殴りかかろうとしたマルスの刀を片手で掴み取った。


「な……なんだとぉっ!」


マルスは両腕の筋肉を隆起させて刀を鬼愛羅に振り下ろそうとしているが、鬼愛羅に掴まれた刀は一向に動かな

い。


龍人が持つパワーは人間を遥かに超えたレベルにある。


だがその圧倒的なパワーを持つ龍人でも鬼愛羅の前では赤子同然なのである。


そのままゆらりと鬼愛羅は刀を掴んでいる腕を振りかぶりながら、無造作にマルスの腹を殴った。


小さな少女が2mを越す龍人を殴りつける様は実に倒錯した光景だった。


ーーしかし


「がッはァッ!」


ドガンッッ!


マルスは鬼愛羅に殴られた瞬間、紙くずのように勢いよく吹っ飛び、岩盤に叩きつけられた。


その冗談のような吹き飛び方に俺は目を見開いた。


俺でも単純なパワーでは龍人形態のマルスには遠く及ばない。もちろんその耐久力も言わずもがなだ。そんなマル

スでも鬼愛羅のパワーには手も足も出ない。


……くそ……想像以上の化け物だ……。


俺は鬼愛羅の評価を2段階押し上げた。


あんな小柄な少女のどこにそんなパワーが秘められているというのだろうか。


いや、鬼愛羅に限っては外見など一切関係ない。


「な……なんなの……? どうしたのよ……テレサっ!」


ドロシーは現状が全く理解出来ていないようで恐怖に顔を歪めている。


「あはは、ははッははハッはは! どんな感じなのかしら? 今までずっと仲間だと思っていた少女に嬲り殺され

る気分わぁ?」


鬼愛羅は邪悪に顔を歪めて高笑いを続ける。


「ドロシー! そいつは最早イヴ・テレサなどではないっ! こいつは俺達の敵、鬼蟲だっ!」


ジル・ランドットは鬼愛羅に殴られた頬を抑えながら叫んだ。


思いの外、最初に貰ったダメージが尾を引いているようだ。


「そうよ……私こそが鬼蟲の王、鬼愛羅よ。といっても、もうすぐあなた達は私の餌になって記憶なんてなくなる

けどねぇ……この娘みたいに」


「キメラァァアアア! 貴様ぁぁぁ!」


崩れた瓦礫の中から現れたのは憤怒の怒りに包まれたマルスだった。



マルスは背中の翼をはためかせ、一直線に鬼愛羅へと向かうが、後方に控えていたタランチュラ型の鬼蟲が一斉に


マルス目掛けて糸を吐く。


「こんなもの……どけぇぇええ!」


マルスの強靭な肉体は例え、強力な糸を物ともせずに切り裂いて進む。


「ほぅ……流石は血統書付きのベル一族ねぇ。私の一撃にも物ともせずに突っ込んでくるとは。けど私の器ならそ

うでなくてはね」


だがマルスに絡みつく糸の量が増えるにつれてどんどんスピードが低下していき、やがて鬼愛羅の目と鼻の先で雁

字搦めになったマルスはピタリと止まった。


「く……くそったれがぁ……よくも……よくも……テレサを……許さねぇ……お前だけは絶対に許さねぇ……!」


身動きが取れないマルスに鬼愛羅は優しく微笑む。その笑顔はまさしく悪魔にふさわしい邪悪に満ちていた。


「許さない? だからなんなの? あなたは弱い。弱さは罪なの。強さこそが正義。悔しかったら私よりも強くな

りなさい。もっとも……そんな時間はもうないけどねぇ」


ガンッ!


邪悪に笑う鬼愛羅の顔にジル・ランドットの渾身の一撃が突き刺さった。


が、鬼愛羅の顔に叩きこまれた大太刀は薄皮一枚切った程度で、致命傷を与える事は出来なかった。


「この一撃でも全く通用しないのか……化け物め……」


ジル・ランドットは目の前の光景が信じられないとばかりに呆然と言葉を漏らす。


その瞬間、ドンッ! と鬼愛羅はジル・ランドットの横っ面を殴り、生贄の祭壇まで吹っ飛ばす。


「あははは、痒いわねぇ」


尚も邪悪に高笑いを続ける鬼愛羅の顔はさっきの一撃の影響なのか、ひび割れていた。


そこから次々と皮膚がめくれ落ち、鬼愛羅の真の姿が曝け出される。


上半身は普通の人間だが、下半身はカマキリ、3対の足はバッタの足のように逞しい。


さらには背中には甲虫の羽が付いており、尾には長くうねうねと動く触手がたくさん生えていた。皮膚は漆黒の肌

に覆われ、顔つきは非常に美しい女の顔をしている。


瞳は鬼蟲を象徴するような赤黒さで、俺達を睥睨していた。


その圧倒的な邪悪なオーラを滾らせるその姿は鬼蟲の女王にふさわしい。


そう、これが鬼愛羅の真の姿だ。


俺は身震いしながら鬼愛羅の真の姿を眺めていた。


真の姿を現した鬼愛羅を目の前にすると、その圧倒的な力がひしひしと伝わって来る。


ここまでの威圧はメル・ナルクに続いて二度目だ。


俺は己の全ての力が解放出来るように瞳に力を集中させていく。


全ての布石は置き終わった。


後は合図を待つだけだ。


ーーその瞬間!

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