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1話 

 っておいおいおい……ちょっと待て。


俺は仕事帰りに漫画を買って、家で煎餅齧りながらゴロゴロ見ていたはずだ。


それがなんだよ、この状況は。


その時読んでた漫画の登場人物が今まさに目の前にいるんだが……。


おかしい。これは夢か? 


俺はバチンと両手で頬を叩く……痛い。


どうやら夢ではないらしい。


俺は恐る恐る自分の掌を見た。



「え? なんか俺の手、妙に小さくないか? それに背も大分縮んでいるような気が……」


その時、俺の横から気遣うような声が聞こえた。



「お兄ちゃん大丈夫? 様子が変だよ?」


「えっ?」


俺は呆気にとられて横を見た。


するとそこには俺の事を心配そうに見つめる10歳ほどの小さな女の子がいた。


髪は輝くような銀髪で目はルビーのように真っ赤だ。


それはまるで10歳にして将来美しく成長する事を約束されたような美を持つ少女だった。


本来ならば異質なはずの髪と目の色もこの少女から違和感は感じず、むしろ神秘的な神々しさを放っている。


俺は一瞬、惚けて呆然とした。



「か、かわいい……」


「え? なにいってるの? お兄ちゃん?」



不思議そうな目で見つめてくる謎の少女に俺は慌てて取り繕うように言った。



「あ、いや何でもない……。お兄ちゃん、どうやら疲れちゃってるみたいだ……ええっと今日は何の為にここへ来たんだっけ?」



「ほんとに大丈夫? さっきからお兄ちゃん変だよ?」



小さな女の子は俺の瞳を覗き込むようにして言った。


その鮮やかな朱色の瞳からは心配の色が見えた。ま……まずい。


思いっきり怪しまれている。


だが現状確認が最優先事項だ。


まずはここがどこなのかはっきりさせなければならない。


しかしなぜだろう、とてつもなく嫌な予感がするのは……。



「もぅ、ここはトゥーンランド城庭園だよ。それに今日はナルク様の即位式じゃん。お兄ちゃん昨日あんなにはしゃいでたでしょ。メル一族で初めて国王が誕生するんだって」



「……っ!」


少女の言葉に衝撃を受けた。


まるで横っ面を不意に思いっきりぶん殴られたかのようだ。


……トゥーンランド……ナルク……メル一族……間違いない。


やはりここは漫画、トゥーンランドの世界だ。


何をどう間違えたのか俺は漫画の世界へ入り込んでしまったらしい。


それに今のこの状況から推測するに……いや、やめてくれ……それだけはあってはならない……。



「な、なぁ……妹よ……お兄ちゃんの名前をフルネームで呼んでみてくれないか?」



「ええ!? お兄ちゃん、ほんとに変だよ……? 昨日変なものでも食べた?」



「お願いだ……一度でいいから呼んでくれ……」



この小さな少女に不審に思われている事は、今はどうでもいい。


それよりも確かめなければならない事がある。額から汗が滴り落ちた。


少女は俺の並々ならない様子に気付いたのか、おずおずと口を開いた。



「もぅ……我が名はメル・キヲラ! いずれ世界最強の騎士になる男だ! っていつもバカみたいに騒いでるじゃん」



「はっ……はは……はははは! そうだったな。メル……キヲラ……だったな……」



俺は力なく笑った。


だが心中ではあまりにも深い絶望に襲われていた。


悪い予感が見事に当たってしまったのだ。


そして今の少女の言葉で俺は自分が置かれた正確な状況を理解した。


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