15話
メル・ナルクの時間停止のインターバルはおよそ5秒! それだけあれば十分だ!
俺は一旦距離を取り、大きく助走を取る。
視界の端で驚愕に目を見開いているゾフィーを捉えながら、微動だにしないメル・ナルク目がけて、神速の突撃を敢行した。
目に映る全ての光景が後ろに流れる。点と線しか存在しない世界。これこそが光速の世界。
その中で、俺はこの日の為に用意した対メル・ナルク用の特性レイピアを構え、驚愕に目を見開くメル・ナルクの右眼へ目掛けて力の限り、レイピアを突き刺した。
ガンッ!
骨を砕く音を確かに感じ取り、さらに抉るように掻き乱す。
「……ぐぅ……ぬぅ……!」
メル・ナルクの右目に突き刺したレイピアを素早く抜くと、がふっ、とメル・ナルクは大量の血を吐き出した。
くそ……頭ごと吹き飛ばすつもりで突き刺したのに、右眼だけしか潰せなかった……! なんて頑丈な奴だ……だが、手応えあったぞ!
俺は一呼吸入れる間も無く、それから続け様に刺突を繰り返す。
「はぁぁぁぁああ!」
メル・ナルクが動き出すまであと僅か! それまでに止めを刺す! 今ここで決めなければ死ぬのは俺だ!
俺は更に自身の速度を限界以上に加速させ、メル・ナルクを蜂の巣のように刺して刺して刺しまくる!
その時、とうとう鬼蟲を倒した時のような感触を確かに感じ取った。
届いたっ!
俺はメル・ナルクの心臓を破壊した手応えを感じ取る。
「………がっ……!」
メル・ナルクは吐血しながらまさに満身創痍といった風体で仰向けに倒れた。
身体中に風穴のような穴が開き、血で全身が真っ赤に染まっている。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……やった……」
俺は荒い息を吐きながら、倒れ伏したメル・ナルクを見届けた後、よろよろとゾフィーの元へと歩き出した。
ゾフィーは驚愕に目を見開いて俺を見ていた。
「……あなた……本当に私のお兄ちゃんなの……?」
ゾフィーの俺を見る視線は確かに恐怖の色が混じっていた。
「うん……今まで隠しててごめん。でも良かった……二人とも無事で……」
「……う、うん」
ゾフィーは戸惑ったように返事を返す。
そのよそよそしい態度に、俺は覚悟していたとはいえ、少なからずショックを受けた。
しかし……俺は辺りを見渡した。
そこに映るのは全て数千ものメル一族の屍の山だった。
血が川のように流れ出し、血の匂いが辺りに充満している。
今この場に立っているのは俺とゾフィーを含めて7人だけ。
如何に精魂が腐っていた一族とはいえ、この最期はあまりにも酷い。
メル一族も全てが悪だった訳ではないのだ。俺は死んでしまったメル一族に黙祷を捧げた。
運良く生き残っていたのは俺の後ろにいた人々だけだ。
生き残ったメル一族は皆、何が起きたのか理解出来ていないのか、辺りを呆然と見ているだけ。
……無理もないだろう。俺のように予備知識を与えてもらえなければ、こんな事態に対応出来る訳がない。
俺がこの場を切り抜けられたのも、原作という未来の知識があったおかげだ。
ただ単に俺は運が良かっただけなのだ。
俺はどこにいるかも分からない神に自分の悪運の強さを感謝したその瞬間ーーーー。
今まで感じた事がないくらい強烈な悪寒を背後に感じた。