9話
6時間後。
「はぁっ……はぁっ……やった……これで終わりか……」
死屍累々と積み立てられた鬼蟲の死骸の山を見上げて俺はぽつりと呟いた。
長かった……戦いがもう少し長引いていたらやられていたのは俺だったかもしれない。だが……。
「……ちょっと掴めかけてきた気がする……」
メル一族の特殊能力、加速のその先が見えかけてきた。
俺は剣を杖代わりにしながらぜーぜーと荒い息を吐く。
必ずこの力が5年後に控えている一族大虐殺を乗り切る鍵になる。
逆に言えばこの力をものに出来なければ俺に待っているのは死だけだ。
必ず……ものにしてやる!
俺は夜空に浮かぶ白銀色の月を見上げながら誓う。
そして……5年後、メル一族を滅亡に齎すたった一人の男の姿を思い浮かべた。
「必ず……生き残ってやるぞ……トゥーンランド王メル・ナルクから!」
トゥーンランド王メル・ナルク……それはメル一族最強にして、原作最強の男だ。
手に冗談みたいなサイズの槍、鬼神槍を携え、その一振りで山を消し飛ばすと言われている。
原作では一振りで山を3つ消しとばし、容易く噂を超えてきた正真正銘の化け物だ。
その最強っぷりは尋常ではなく、単騎で2つ国を滅ぼしたという武勇を持つ程だ。
戦いっぷりも凄まじく、鬼の形相で敵を屠る事から他国からは鬼神と恐れられている。
そんな男が自身のメル一族郎等、皆殺しにするのである。
実は原作でも何故自分の一族を滅ぼしたのかという理由は明らかにはされていない。
何故なら原作がまだ未完だからだ。
不思議な事に物語が終盤に差し掛かった際に連載がストップしてしまったのだ。
噂では病気になって原作者が死亡したなどと実しやかに噂されていたが、真相は分からない。
だから最後、主人公とメル・ナルク王がどうなったのかは分からないのだ。
だが今はそんな事は関係ない。
重要な事は世界最強の男が俺を殺しにくるという事実のみだ。
逃げる事も考えたが、原作では逃げた者もメル・ナルク王が一人一人、殺していた事からこの運命からは逃げられない。
どうにかして正面から突破するしかないのだ。
俺が持っている武器は原作知識とこの恵まれたメル・キヲラという優れた肉体のみ。
「メル・ナルク……こいつからは逃げられない……見ていろよ……簡単に殺されてたまるか。絶対に生き残って自由になってやる!」
俺は白銀色に輝く月を見上げてもう一度叫んだ。