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猫ならば好きと言えますか?  作者: しょんぐ
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03 三年の成果

 獣人に転生してから、あっとゆう間に三年がたった。


 俺は、一人で歩けるようになり、話せるようになった。

 話せるようになった事で、ある程度、情報を得ることができた。

 俺はどうやら、とてつもなく裕福な家に生まれたらしい。


 五年前、人族と獣人族に起きた戦争、獣人間戦争、終結の立役者。

 バルドラ・マクビレン


 獣人族の救国の英雄。

 この名前、どこか引っかからないだろうか?

 特に、マクビレンの部分。

 そう、俺のこの世界の父親だ。先の獣人間戦争の影響で、もう何年も家に帰っておらず、俺も会った事はない。


 エレシアが、度々お父さんのどこがかっこいいやら、少し抜けてるのが可愛いやら、緩んだ顔でのろけてくるので少しウザかった。


 俺が生まれたのは、獣人族の英雄の家系らしい。

 代々、獣国を武力と知力で引っ張ってきた名家、マクビレン家の長男だった。


 これはヤバイ、早速、涼花を探すという目標が危うい。

 何がヤバイって、まず長男というのがヤバイ。

 多分、家を継ぐ流れになるよな……。

 この先成長して、マクビレン家を継いでいる俺の姿が容易に想像できてしまう。

 しかも、とてつもなく位の高い名家だ、この家を継がずに、涼花を探しに行くには、どうすればいいだろうか?

 全く考えつかない。

 どうしよう……本当にどうしよう……。


 それともう一つ悩んでいる事がある。


 一年前にさかのぼる。


 俺は、前に一度魔力を操っていて、メリルが真っ青な顔をしていたことがある。

 そのことについてメリルに聞いてみた。


「幼い内は、加減がわからないので、魔力の制御ができず、魔力暴走を起こしてしまう可能性があります」

「起こすとどうなるの?」

「体内の魔力が制御できなくなり、体がはじけ飛びます」


 グロッ

 はじけ飛ぶって、内臓とかもろもろ飛び散るって事だよね、想像して少し気分が悪くなった。

 俺は、結構危険な事をしてたらしいです。

 まあ、実際は、魔力枯渇の症状が出た段階でほとんど魔力は使えなくなるから、それでもなお魔力を注ぎすぎた場合、体内で魔力が暴走するらしい。戦時中は、わざと自分の魔力総量以上の魔術を使って、自爆なんてのもあったらしい。

 物騒な事考えるもんだ。


 だが、それは逆に考えると、魔力枯渇の症状が出れば、魔術を使うのをやめればいいってことだ。あの一件以降も俺は、魔力枯渇を一日一回味わっている。勿論、魔力量向上の為だ。


 しかし、やり方を少し変えた。強化魔術の初歩である魔力纏。魔力を可視化するのではなく、体の一点に集中させ、纏わせるイメージで放出する。

 しかもこれなら、外見にも出ない上に、可視化よりも早く魔力を消費できるので、効率よく出来て、エレシアやメリル、リーナが来ても続行可能だ。


「よし、やるか」


 今日の分の魔力を消費するべく、足元に魔力を収束させる。

 およそ二分程で、有り得ない頭痛に襲われる。普通の赤子だったら。号泣ものだが、精神年齢的にはもう二十近いので、どうにか食いしばって耐える。毎回涙が滲んでくるが、どうにか耐え切って、今日のノルマ達成だ。

 俺が落ち着きを取り戻すと


「そうじゃ、その調子じゃ。その調子でわしに相応しい器に成長せい」


 魔力量向上に努め出してから、時々変な声が聴こえるようになった。

 しかし、何処にも姿は無く、しかも、俺以外には聞こえていないらしい。

 別に害はないので、あまり気にしていないのだが、多分普通ではないので、小さな悩みの種だ。


 そういった小さな悩みはありつつも、俺は、一年間魔力纏を使い続けた。

 毎日魔力枯渇を起こしていると、少しずつ魔力纏の持続時間と纏える範囲が大きくなっていった。一年経った今では、全身に魔力纏を行った状態で十分以上行動できるようになった。しかし、未だ魔力枯渇の頭痛には慣れない。というか、あれは誰でも悶絶すると思う。

 自分で行なっている努力はそのくらいなのだが、半年くらい前から、メリルとリーナによる一般教養の訓練が始まった。


 まずは、文字の読み書き。本を読んでいる時点で習得済みである。

 俺が、教えられてもいないのに三五文字全てをスラスラ紙に描いている時、二人は驚きを通り越して、キョトンとしていた。横で、エレシアが天才やら秀才やら騒いでいて、リーナに注意されていた。

 それならばと、今度は数字についてリーナが話し始めた。

 これも既に習得済みである。俺はリーナが話し終わると同時に数字を全部描き終えた。


「あの、エレス様。何故文字も数字も解ってらっしゃるんですか?」

「メリルとリーナが、本読んでくれたから」

「それで覚えたと?」

「うん」

「そうですか……。エレシア様、先ほどはすいません。この方はまごう事なき天才です。マクビレン家はこの先は安泰ですね」

「当たり前でしょう。私の息子よ」


 親バカ二人の完成である。

 そう言って、エレシアが抱きついてきた。本当に幸せそうな顔をするので、俺も、恥ずかしさはありつつも、されるがままだ。

 その後、足し算や引き算、掛け算、割り算と、馴染み深い計算も出てきたが、高校生まで向こうで生活していた俺にとっては、まあ、今更である。


 九九の六の段辺りから、メリルが涙目になり、


「なんで、九九まで完璧にわかるんですかー!!」


 と喚いていた。リーナも割り算以降は


「もう私に教えられる事はありません。数字については、免許皆伝です」


 と言っていた。

 ちなみに、エレシアは割り算が少し怪しかった。なまじ魔術がなんでも担ってくれるせいで、所々文明レベルは低いのかもしれない。


 文字と数字についてはそんなこんなで、ある程度スキップして、俺はこの世界の情勢や歴史。この世界特有のものについて教えてもらうように頼み込んだ。勿論魔術についてもだ。

 メリルは、絵本や昔話を使って、分かりやすく教えてくれるし、リーナはなんか中学の授業を思い出す様な硬い感じの教え方だったが、基本的に教えるのが上手で、内容がスッと入ってくる。まあ、民族間の話になった時のみ、感情がたかぶるのか、少々口が悪かったが……。

 特に人族の話の時は酷かった。開口一番に、


「あいつらはクズです、生物としての最低限の知能すら持ち合わせていない、猿です」


 と言っていた。獣人族は代々人族と犬猿の仲らしい。

 少し前にも、戦争があり、やっと最近和解条約が結ばれたばかりだという。しかし、未だ深い確執がある。

 何より、リーナの言動がそれを物語っている。人族の時も酷かったが、基本的に獣人族は他種族に対して、あまり友好的では無いらしい。身内びいきの精神が強いのだろう。

 遥か昔に獣から派生した種族の為、縄張り意識が高く、警戒心が強いという特性を持っているそうだ。


 他の種族では、大陸で一番人口が多い人族。次いで、獣人族、

 手先が器用で、力が強いドワーフ族。山間部に集落をもつエルフ族。そして、並外れた魔力値と魔力適性を有する魔族。この五種族が神によって知能を与えられ、創造された創世の種族と言われており、その五種族をベースに派生した種族がちらほらいるといった感じらしい。


 魔術については、基礎中の基礎である魔力の可視化から魔力総量の増やし方など、本で仕入れた内容を復習する感じだった。だが、こればっかりは、あまり使っているとことが悟られるとヤバいので、おとなしく話を聞いている。

 まあ、毎日魔力枯渇してますなんてバレたらエレシア辺りは卒倒すると思う。

 それくらい、魔力枯渇は危険な事だと何度も念押しされているくらいだ。

 しかし、属性魔術の授業は楽しかった。リーナは水の精霊。メリルは火の精霊と契約しており、リーナは水の中級魔術を扱え、メリルは何と、上級魔術を使えるらしい。

 俺がメリルが魔術を使うたんびに凄い凄い言っていると、調子に乗ったメリルが魔術を撃ちまくって、リーナに雷を落とされていた。


 そんなこんなであっという間に俺は、三歳になった。

 ある日、朝起きると、いつもに無く屋敷の中が慌ただしかった。

 ドアの向こうで、せわしなく人が行き来している。

 気になったので部屋から出ると、メリルがせかせかと料理を運んでいた。


「エレス様、おはようございます」

「おはようメリル、何してるの?」

「はい、今日旦那様が帰ってくるんです。ああ、エレス様にとってはお父様ですね」

「おとうさん?」


 ああ、お父さんね……って、え!? お父さん?

 てことは、今日家に帰ってくるの? そうか……今までお父さんに会ったことがなかったから、何となくスルーしていたが、帰ってくるのか。

 獣人の英雄が帰ってくる訳だ。


 お父さんか、抵抗あるなー、初対面だよ。なんて呼べばいいんだろう。

 まだ三歳だからパパ? いや無難にお父さん? 変化球で親父?

 いや、親父は通じないかもな。


 そんなことを考えながら、メルリの後について食堂まで歩いていく。

 食堂は、きれいに飾り付けられ、テーブルには、ところ狭しと料理が並んでいた。


「エレス、おはよう、今日お父さんが帰って来るのよー」

「おはよう、ママ」


 エレシアがいつもハイテンションだが、それに輪をかけてハイテンションだ。三年も会っていなかったら、そりゃテンションも上がるよな。

 無邪気なエレシアの笑顔を見ていると何となく自分まで嬉しくなる。


 すると、リーナが食堂の扉を開けた。


「旦那様が帰られました」


 お父さんが帰って来たみたいだ。

 さあ、お父さんと初めての対面だ。



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