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猫ならば好きと言えますか?  作者: しょんぐ
2/5

01 目覚めたら

「やっと産まれた。ワシに相応しい器よ」


 誰かの声が聞こえ、ふと半目を開ける。

 ベットの上、窓から差し込む光に目を細めた。ここは……どこだ? さっきの声は?


 俺は助かったのか?

 それより涼花は?

 俺が生きてるならもしかしたら、近くにいるかもしれない。


 探さなくちゃ


 涼花を探しに行こうとするが、手足がほとんど動かなかった。

 嫌な予感が脳裏に浮かぶ。

 あそこまでの出血だ、助かったとしても、後遺症が残ったのかもしれない。

 全身麻痺、上半身下半身の不随、次々と嫌な言葉が浮かんでくる。


 そうだったらこれからどう生きていこう…


 いや、最悪の展開を想像するのは、まだ早い。

 状況を確認しよう。

 少し考えると、自分の状況に違和感を覚えた。

 あれだけの事故だったにも関わらず、全く痛みがない。

 それに、テレビドラマなんかで見かける物々しい管も見当たらなければ、包帯を巻かれている感覚もない。

 そんなのあり得るだろうか?


 もしかしたら何年も昏睡状態だったのかもしれない。そうだったとしても、点滴等の措置がしてあって然りだと思うのだが。

 昏睡状態だったのならどのくらい寝てたんだ?

 入院費は誰が払った?


 ダメだ。


 考えれば考えるほど疑問が浮かび上がってくるばかりだ。

 もちろん答えてくれる人はいない。


 一人で唸っていると、誰かがこちらに近寄ってきた。

 声が漏れていただろうか、少し恥ずかしい。


「・・・・ ・・・・」


 誰かが笑顔でベットを覗き込んできた。

 何語だろう? 聞き覚えのある単語はひとつもなかった。

 もしかして、日本人じゃない?


 ぼやけて見えずらいが、ぼやけ眼でも整った顔立ちだとわかるくらいだ。相当な美女だろう。

 だがやはり、日本人ではない。

 それに、茶髪のロングヘアーの上で、時折獣の耳のようなものがピクピク動いている。


 可愛い。


 え? 獣耳? なんで?

 もしかしてハロウィンか? トリックオアトリートなのか?

 そんなことを考えている間にも、獣耳はピクピク動いている。


 あの獣耳どうやって動いてるんだ?

 滑らかな動きで、機械的な動きではない。

 ずっと見ていても、コスプレ特有のコレジャナイ感はなく、さもそこにあるのが自然といったような感じだ。


 そんなことを考えていると、彼女の手が伸びてきて軽々と抱き抱えられた。

 まじか? そんな軽々と?

 元々、ガッチリした体格ではなかったので、体重はそこまでなかったが、女性にこんな軽々抱き抱えられるというのは不思議な感覚だ。


 だれかに抱き抱えられるなんて、何年ぶりだろう。

 両親を失ってから多分そんな機会は、一度もなかった。

 こんなに安心するものだったのか。


 俺もどこかで母性というか、そんなものを求めていたのかもしれない。

 年甲斐もなく、少し泣きそうになった。

 一人で感傷に浸っていると、おもむろに彼女が服をたくしあげ、乳児に母乳を与えるような体勢になった。


 そして、それが姿を現した。


 あまりの衝撃に頭が真っ白になった。

 俺に吸えと?

 確かにさっき求めていたかもと思ったが、ここまでは求めてねぇよ!!


 彼女に抱かれたまま狼狽えていると、彼女はなにかを察したようで、俺をベットに戻した。


 しばらくして、彼女が哺乳瓶にミルクを入れて持ってきた。


「あう、うああ」

 訳(そういうことじゃねーよ!!)

 ヤベ、勢いでつっこんじまった。


 あれ?

 なんだ今の呻き声、俺が発したのか?

 自分が発した筈の言葉は、意味のない呻き声として発音された。

 どうやら俺は、話すこともままならないらしい。

 さっきの最悪の展開が現実味を帯びてくる。


 最悪だ……。


 哺乳瓶も大分渋ったのだが、それでも引かないし、今は自分で動くこともままならないので、仕方なく飲んでその日は寝た。


 一ヵ月が経った。


 一ヵ月経ってわかったことがある。

 結論から言おう。


 俺はどうやら赤ちゃんに生まれ変わったらしい。


 何を(笑)、と思う人もいるかもしれないが、別に頭がおかしくなった訳ではない。

 極めて正常だ。


 抱き抱えられた時に気付くべきだった。

 自分の体が異様に小さいということと、獣耳の違和感に。

 あの時は、とにかく抱き抱えられた事と、乳に気が向いていて、全く気付かなかった。


 今思い返してみると、全て納得がいく。

 つまり最初に見た獣耳美女は、俺の母親だったわけだ。


 あの獣耳は、天然だったのだ。

 何人か母親意外の人もベットをのぞきこんで来たが、例に漏れずみんな、猫や兎、熊のような、多種多様な獣耳が生えていた。

 生え際とかどうなってるんだろう? 是非モフモフしてみたい。


 おむつを替えるときに気付いたが、俺にも、人間にはある筈のない部位が付いていた。


 尻尾だ。

 猫や犬に生えているあの尻尾だ。

 人間の時は、どうなってるんだろう? と疑問に思ったこともあったが、いざ自分に生えたとなると、


 なんとゆうか、普通だ。

 普通ってどんな感じだよ!!

 と思うだろう、だがこれは、手があるってどんな感じ?

 と聞かれるのに等しいのだ。

 そんなの、最初から付いていて当たり前なので、聞かれても困ってしまうというものだ。


 そこにどうこうは、存在しない。

 まあ、俺の語彙力が乏しいのにも問題はあると思うが……

 少々話が脱線した感は否めないが、つまるところ、俺はゲームやアニメ等で見かける獣人に転生したらしい。

 全く納得出来ていないが、そう思う他ないので、無理やり納得する。


 俺はトラックに引かれそのまま死んだんだろう。

 なぜ、前世の記憶を引き継いでいるのかは謎だが、持っていて困るものでもないので、ありがたく頂いておく。


 それにしても、これからどうしよう……。

 どうするか即急に考えるべきなのだが、その前に一つ、どうしても気になって仕方ない事がある。


 涼花についてだ。


 あの事故で俺が死んだなら、十中八九、隣にいた涼花も死んだんだと思う。

 助かっていると思いたいが、死ぬ直前、最後に見た彼女は、到底助かるような状態ではなかった。

 もしや、涼花も転生したのだろうか?


 ケモミミ姿の涼花を思い浮かべる。

 可愛い×可愛い=超可愛いだ。

 ケモミミ涼花。

 一回だけでも、生前に拝んでおきたかった。

 ひとしきり悶えた後、現状を整理する。


 何で転生したんだ?

 わからない。


 何で獣人なの?

 わからない。


 ここは、どんな世界?

 わからない。


 畜生、現状を整理したら、俺の分かる事って、転生したって事と、獣人ってこと意外なんもわかんねぇじゃねえか!!

 いやいや、よく考えろ。

 順を追って考えていくんだ。


 さっきのなぜ転生した? とか、それこそ心理だ、中学生の時考えがちだった何故俺は生まれたんだろう? みたいな、痛い疑問と大差ない。

 まず、俺は死んで、獣人に転生した。

 

 じゃあ涼花は?

 

 まず、生死が不明だし、転生の原理が全くわからない。

 絶望的だ……。


 転生していたとしても、記憶がないかもしれない。

 すごい絶望的だ……。


 転生していて、記憶があっても、意思疏通いしそつうが出来ないかもしれない。

 とてつもなく絶望的だ……。


 ダメだ、もっとポジティブに考えよう。


 もしかしたら、転生していて、記憶があって、意思疏通ができるかもしれない。

 この世界のどこかで、同じタイミングで産声を上げたかもしれない。


 とてつもない可能性だな……。

 でもその可能性はゼロじゃない、その可能性がほんの少しでもあるなら、


 探そう。どうせ一度無くした命だ。


 いつまでかかってもいい。

 それで死ぬなら悔いはない。



 今度こそ、涼花に想いを伝えられるように。













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