8話
「アイリス・フローラ!事件の容疑者として貴様を拘束させてもらう!」
あっという間に拘束されて私は今反省部屋にいる。正直全く意味が分からない。
そして、声高々に私を犯人にした男こそ今回の犯人である。
名前はグラハム・カリエ。ロイドのクラスメイトである。ロイドを神聖視しており、若干の…いや、かなり盲信的な性格だった筈だ。
そんな彼が何故悪魔を召喚していたのか、そしてその悪魔に何を願ったのかは結局証拠が出てこなくてモヤモヤしている。
ーーーこれで、何の進展もなければ私はこのまま事件の犯人として罪を被せられるだろう。ここまでの規模になっているのだから罰だって相当なものになるだろうと思う。筋書きが変わっている以上、絶対の安心なんて今は存在してない。
それでも、私がこうして落ち着いてられるのはアレンの言葉があるからだ。
『絶対に助けるから!信じて!!』
私が拘束されて連れて行かれる時悲痛な声でそう叫んだのだ。
その言葉を聞いてから不安なんて吹き飛んでしまった。絶対にアレン達はこの事件の犯人を捕まえてくれる。だから私も約束したのだ。終わったら、一緒にケーキ食べに行こうねって言ったら泣きそうな顔で笑ってた。
「本当にアレンは身内に甘いわよね…。そこも好きなんだけど。」
今は事件解決がする様に祈っていよう。そうすればいずれ来る別れを考えなくて済むから。
アレンside --------------------------------
授業が終わり、皆んなが楽しそうに寮に帰って行く姿が見えた。それはそうだろう。なにせ、事件の犯人が捕まったのだから明日からは元の平和な生活になると誰もが思っているからだ。実際の犯人はアイリじゃ無いのに俺ら以外に異議を唱える人がいないって言うのが腹ただしい。
「まぁ、明日から平和になるっているのは当たりだけどね。」
会長に指定した場所に行く。そこにはきっと犯人も居るはずだ。ガラッと扉を開けると会長に手伝ってもらって作った術式が発動していて犯人が拘束されていた。
「なんだ、もう発動してたんですね。ーーーやっぱり貴方だったか。」
その言葉を聞いて驚いていたのは会長だった。
「お前は知ってたのか。グラハムが何をしたのか」
最初から知っていたわけじゃない。アイリが拘束されてから死に物狂いで調べたんだから。
「可笑しいって思ったんですよ。いくら人に紛れる事が出来ると言っても完全じゃない。なのに探しても見つからないのは何故か?簡単な話、召喚した魔族はもうとっくにあちら側に帰ってるんですよ。」
高位の魔族は基本的に現界すると単独行動を好む。あちらからすれば、こちら側にいてなおかつ願いも叶えてやるんだから好きにさせろ、なスタンスだ。
そこまで言ったら会長もこの後のくだりが分かったのか何とも言えない顔をしていた。まぁ、術式が発動してるって事はそういう事だし。
「つまり、この人は魔族の人に教えを請うてから素早く撤退してもらい、魔法をかけた。だから俺たちはずっと悪魔が現界維持しているせいだと勘違いしてしまった。生命エネルギーを使って貴方は何をしようとしたか?恐らくですが、先輩に魅力の魔法をかけたんでしょう?ーーー最も、先輩には効かなくて無駄にエネルギーを垂れ流す結果になりましたが。」
すると、グラハムは口を開いた。
「ロイドがいつまでたっても私の気持ちを無視し続けるからだ!私はいつだって尽くしてきた!!なのに何故、私の気持ちに応えてくれないんだ!」
きっと、拘束される前もそんな言葉をかけられたのだろう。会長はただ黙って彼を見ていた。その表情には悲しみが浮かんでいた。ちょっと意味がわからない。
「会長、好意を向けられて邪険にできないのは結構ですが許すなんて選択肢が無いことだけは絶対に忘れないでくださいね。」
「あぁ、分かっている。ーーーグラハム、好意を向けられていた事に気付いてあげられなくてすまなかった。だが、お前の起こした行動は許されるものじゃないし、それをなんとも思っていないお前に嫌悪すらある。俺を思うのであれば二度とその姿を見せるな。」
本当は俺がもっとえげつない報復をしてやろうかと思ったけどさっきの言葉はこれ以上にないくらいの傷になるだろうから俺からはもう何もいう事はない。
会長がグラハムを先生達に引き渡すために出て行ったのでこの部屋で二人きりだ。こいつとじゃなくてアイリとが良かったなぁと思いながら近づいた。
「会長は貴方の行動に死ぬほど嫌悪してるけど、俺としては正直どうでもいいんだよね。君の気持ちが分からないでもないし。俺からしたらそう思うのは普通の感情だと思うよ。」
会長は少し恋愛を綺麗なものとして見てる気がする。寮でされた告白ははっきり言って恋に恋してるって感じだったのは記憶に新しい。
「だったら何故、私の邪魔をしたんだ…お前には関係ない話だったじゃないか…。いや、正直あの女じゃなくてお前を犯人にしようとしたんだが。」
そうだろう。こいつの話であれば会長に好意を抱かれていた俺が標的になる筈だった。アイリを選んだのだって最近会長の周りにいて気さくに話しかけているのが気に食わなかったとかだろうし、本当にどちらでも良かったんだ。恐らくは最終的に俺も陥れる算段だった筈だ。
俺はグラハムににっこりと微笑んだ。アイリからは天使が微笑んだようだと言われる笑みはグラハムですら少し目元に赤みがかっていた。
「お前が陥れようとしたのは俺の何よりも大切な宝物なんだ。言ったでしょ?気持ちが分からないでもないって。どんな手段を使ってもいいから早くお前に着せられた汚名を拭ってあげたかったんだ。だから、狙われている会長を囮に使った。こうすればお前は罠であっても来るでしょ?」
効果は絶大だったねーと笑っているとグラハムはわなわなと口を震わせていた。きっと、陥れる相手がアイリじゃなければあそこまで会長に嫌われる事なく済んだと理解したのだろう。
「そこまでする理由は本当にそれだけなのか?いや、理由が不十分とかではなくてだな…」
理由?そんなの決まってるじゃないか。
「アイリと一緒にケーキ食べに行こうねって約束したから。アイリが好きなケーキが売り切れてたらどう責任とってくれるの?」
理由を言ったら口をあんぐりと開けたまま呆然として、会長が先生達を引き連れて戻ってくるまで喋る事はなかった。