2話
「ここで彼女とデートってか?良い身分だな、クロード。」
窓から夕日が差し込む図書室で彼は不敵な笑みを浮かべながらアレンの肩に手を置いた。
「…っ!違います。彼女とはデートでは無く勉強会をしてるんです。」
ーーー何で、そんな言い方をするの?私とそう言う関係だって思われたくないから?
「分かってるよ。お前の事だ、テストも近いから教えてやっていたのだろう?本当にーーー優しい奴だ。」
「…先輩に褒められるなんて珍しい。明日は嵐が来るんじゃないですか?」
そう言いながらもその表情は優しげで、私は最近は見てない顔をしていた。
そうだ、ここで感じた違和感から私の悲劇は始まっていたの。
ーーー以上が修羅場コースに乗っかってしまう初めての恋愛イベントである。ここはアレン視点では無くアイリスの視点で描かれている女性の共感を狙ったと思われるシーンである。因みにこれを見た時はアイリスに全く共感出来なかったのはいい思い出です。
主人公の恋路を邪魔する当て馬女のアイリ、もといアイリス・フローラは今、初めての修羅場イベントに遭遇してしまった!ーーー筈なのだか、
「で?どうしてそんな話が出たのかな?俺たちって何で別れないといけないの?」
さっきから彼の相手の攻め様であるロイド・ルイーツァをガン無視で話している。あれ?この人と図書室で出会うイコールイベントの筈なのに全くそう言う雰囲気が出てないぞ?さっきから意識を自分に向けようとして話しかけているが最早、気付いてないんじゃないかと思うくらいの勢いである。正直彼が可哀想で見ていられない。
「えっと、そんな事より会長が話しかけてるから聞いてあげようよ。大事な要件かもしれないでしょう?」
いや、さっきから聞いてる限りじゃアレンの気をひく為の会話なのでこれと言った要件じゃないのは分かってるけど、圧がかかったアレンから逃げられるのなら最初の修羅場イベントは喜んで受けるとも。実際修羅場イベントって言ったってここから始まるよーっていう感じだからいくらだって修正が効く。
「先輩の話は後で聞くからいいよ。今は君の要件の方が大事だよ。」
あっ、あーーー!!キュンってした!今、すっごくキュンってなったーー!キリッってしながらこのセリフて私を悶え殺す気なの!?好き。
何とかポーカーフェイスを保っていると会長も悶えていた。貴方もかい。
「ねぇ、さっきから先輩の方を見過ぎじゃない?さっきも気にかける様な事言ってたし。俺と話をしてるんだよね?ーーーもしかして、先輩を好きになったとか?」
あらぬ誤解!!いや、別れ話して相手気に掛けてればそう思ってしまう…のかも?いやいや、あれは、気に掛けた内には入らないでしょう!?もしこれが気に掛けたに入るなら知り合い全員に気があることになってしまうよ!?
私がパニックを起こしていると何を誤解したのか私に話しかけなかった会長が申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「悪い、お前の気持ちには答えられない。俺にはもう心に決めた奴がいるから。」
そう言って彼はアレンの方をちらりと見た。因みにアレンは未だに会長の方は見ていない。
あらぬ誤解!!(2回目) そしてアレンはいい加減に会長のこと見てあげてよ。未来の彼氏をそんな扱いでいいの?いや、この二人は互いに皮肉を言い合ったりはするからもうこれでいいや。会長がいるし、はっきりと言った方が自覚するだろう。
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。アレンこそ他に……好きな人が出来たんじゃないの?」
そう、あのアイリスが違和感に気づくイベントの前からアレンは会長にーーーロイドに惹かれていた筈だ。
あの図書室での会話はアイリスには出さない優しく甘やかな雰囲気を彼女は感じ取るイベントなのだから。
やっぱり覚悟してたとはいえ、言葉にすると結構キツイなぁと思っていると、そっと私の手をアレンが両手で包み込んでいた。
「そっか、アイリはそんな事思ってたんだね……そっかそっかぁ。」
アレンを見るとさっきの怒っていた顔が嘘みたいに引っ込んでいた。しかも、慈愛の表情さえ浮かべていた。
「アイリがヤキモチ焼いてくれるなんて…故郷じゃなかったから凄く嬉しい。もう、これだけでこの学校に来た意味があったとさえ思えてくるよ。」
小声で言ってたので上手く聞き取れなかったが、良くないことは確かだろう。だって隣の会長の表情がこの世の終わりみたいになってるもん。
そんな事は御構い無しとでも言うようにニコニコしていて、やっとアレンは会長の方を向いた。いや、今は駄目でしょ、会長…満身創痍だよ…。
「そういえば何か御用ですか、先輩?…あれ?先輩顔色が悪いですよ。早く部屋に戻られてはどうですか?」
心配してあげてるなら連れて行ってあげなよ、未来の彼氏を労ってあげて。後から、絶対にややこしくなる事案だから!
「アレン、会長を寮の部屋まで連れて行ってあげよう?この状態じゃ辿り着く前に倒れちゃうよ。ね?お願い。」
流石に、自分の好きな人へのガン無視による精神ダメージの所為で学校で倒れるなんてことが起きたら目も当てられない。この寮での帰り道までにお互いの誤解を解いて貰いたい。もし、この出来事のせいでアレンが会長に惚れている事を自覚したとしても悔いはない。
私の考えが伝わったのかアレンは優しい微笑みをこちらに向けた。ーーー今、場違いかもしれないが金髪碧眼の可愛い系って笑うと天使みたいだね。
「分かった、会長は俺が責任もって部屋まで送り届けるよ。アイリを一人で帰らせるのは心苦しいんだけど…この埋め合わせは必ずするから。」
「あはは、アレンってば律儀なんだから!一人で寮の部屋くらい帰れるよ。だから、気にせずーーー」
「ん?何か言ったか?」
「ァ、いえ、何でもないです…。」
さっきの言葉の何処に怒る様な事が?そう思いながらアレン達を見送って自分の寮へ足を進めた。
翌日、私はきっと、アレン達に何か進展があるかと思い身構えたがびっくりするくらい何もなくアレンと普通に登校した。この時も何か言いたそうにしてるとかも微塵も感じなかった。
お昼休みにご飯を食べ終えて職員室まで先生に頼まれてたプリントを出した帰りに昨日のことを考えていた。
「もしかして、会長は何も言わずに部屋で休まれたとか?」
普通にありえる。というより、もしかしたら思った以上に会長の具合が悪かった点が濃厚である。
そんな事を考えながら歩いていると前から誰かが歩いて来ている事に気がついて前を見ると考えていた人の登場に顔が思わず引きつってしまった。
しかも、私に気づくと早足でこちらまで向かって来て私の腕をつかんだ。
「アイリス・フローラ。少し話がしたいから来てもらうぞ。」
えっ、来てもらうぞって何処に行くんですか?そもそも此処で用事は済まないんですか?とか色々と思うところはあったが、
「はひ、行きます。」
ワイルド系イケメンに凄まれてそんな言葉を言えるほど私の心臓は強くなかった。