表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

アレンの独白 1

本で書かれている様な「世界が色づき始めた」とか「希望の光が射した」とかそんな描写をする人の気持ちが、よく分からなかった。だって、世界の色はモノクロではないし希望という概念に光なんて無いのだから。ーーーーそう、思っていた。





俺自身の人生は人から見たら壮絶な方だと思う。実際そうだし、今の俺を作ったのだってこの過去が影響されていないかと言われると嘘になる。


よく思い出せば、俺は外に出るのを激しく嫌っていた。理由は単純で外には敵しかいないからだ。同年代の子供からはこの容姿でからかわれ、親以外の大人からは性の対象としてみられる事が多かった。子供の時の頭じゃ深くは考えられなかったけど、無意識のうちにその大人の視線が敵だと分かっていたから家から出ない事を自分を守ることに使っていたんだと思う。外で遊びたいなぁと思うことはあっても、外で遊んでいるみんなを見て羨ましいと思わなかったのは偏にアイリの存在のおかげだろう。俺には家まで来てくれる友達がいるって事実は思いの外他のものに対する羨望を無くしてくれた。


アイリとの時間は楽しくて、親以外の人と話さなかったから余り話すことが上手ではなかったけどアイリは聞き上手の話上手だったから話すのが苦痛ではなかった。他の人と喋るときはいつも何も言えずに、黙ってしまう俺が意見を言える唯一の相手だった。



だから、アイリと話していて俺は他の人もアイリと同じ感じで喋れるのではないかと思い始めていた時にあの事件が起こった。ーーー俺とアイリが10歳の時だ


事の発端はアイリが風邪をひいて家に来れないと知ったことだ。アイリは俺が風邪をひいた時に見舞いに来てくれたから俺も会いに行こうと思って両親に見舞いの品を頼んで家を出た。すると、途中で声をかけられた。普段だったら走って逃げていたがアイリのために何かできるといつもより気持ちが舞い上がっていたせいもあり、その男の頼みを聞いてしまった。





気がつくと俺は知らない部屋でその男に組み敷かれていた。最初は声を上げて助けを求めたが男に殴られたせいで完全に萎縮してしまった。そこから先はよく覚えていない。ただ分かったことが二つ。一つは俺は怖かった筈なのに確かに快感を感じてしまっていた事。そしてもう一つはその事実を襲った男に知られて淫らな言葉を散々言われ、俺が何よりも汚れた存在になってしまった事だった。



この時から更に俺は家を出る事が無くなった。大人を見る事が怖いって事もあったけど、何よりも汚れた自分を他人に見られるのがたまらなく嫌だった。



そして、アイリも来なくなった。当然だろう、こんな汚れた自分ではアイリにふさわしくない。いや、アイリに男の手で感じてしまった自分を見せたくないのが本音だ。会わない方がお互いの為だと思っていたのに俺は思ってた以上にアイリに依存していたらしい。




それから数日がたったある日俺はアイリに会いに家から出ていた。靴も履かずフラフラとアイリの家に行く様は気でも触れたように見えていたのか村の人は遠まきに見てたと思う。もしかしたら、声をかけてくれたのかもしれないが兎に角俺はアイリに会いたかった。この時は何でこんなにもアイリに会いたいのかわからなかった。



アイリの家に着いた時彼女は玄関の前にいた。彼女の顔を見て安心してしまい、力が抜けてしまった。

慌ててこっちに来て俺を支えてくれ、アイリを見るとその表情は心配そうな顔をしており、侮蔑の視線が感じなかったことに更に安心してしまった。



「アイリ…。ごめんね、来ちゃって。」

アイリにそう言うと彼女は泣き出してしまった。



「何で、アレンが謝るのっ?!アレンは何も悪くないじゃん!!悪いのはあのクソ男で…っ、守れなかった私だよ!!ごめん、ごめんねぇ…っ!」


泣きながら謝るアイリを見て胸が切なくなった。俺を抱きしめる腕も強くなって自分が今、内側も外側も汚れていることに気づいた。


「アイリ、俺汚れてるから。離して欲しい。君まで汚れちゃう…。」

今の俺が触ると触ったところから黒く汚れていく気がしてすぐに離れようとした。



すると彼女は更に力強く俺を抱きしめた。


「汚くなんかない!!アレンは綺麗だよ!アレンは綺麗で世界一かっこいいんだから!!」




この時に俺に希望の光が差し込んだんだ。そして、何でアイリにこれほど会いたかったのかようやくわかった。



俺はアイリが誰よりも好きだったんだ。だから、自分が汚い人間になってしまって侮蔑の目で見られるかもしれないけど会いに来たんだ。だって、会えない方がずっとずっと辛かったから。




それから俺はずっとアイリといる為に目標を立てる事にした。


まずは、安定した職について早くアイリを養えるくらいにならなくてはいけない。この村で早く働くより都市の学校に行って働く方がお金もいっぱい貰えるしアイリも働かなくて良くなるから家にずっと居てくれる。学校に行っている間に他の男に取られるとか我慢ならないから一緒についてきてもらおう。学校にいる間に異性として好きになって貰えば良いのだ。



自分の両親を説得してさぁ、どうやってアイリを連れて行こうと考えていた時アイリが家にやってきた。因みにこの時は14歳である。これまでの4年間の努力は割愛するが殆どアイリの事しか考えてなかった。我ながら物凄い執念だなって思う。



すると、小さな村のせいか俺が都市の学校目指しているってことが噂になるのが早かった為説得方法を考えている時にアイリが聞きつけてきてしまった。

すると、想定外の事が起きた。


「アレン、この村を出るんだよね?私も付いていく!」


「えっ、でもアイリ勉強嫌いでしょ?来てくれたら嬉しいけどつまんないと思うよ?」


アイリが勉強嫌いなのはこの4年で分かっていたので思わず本音が出てしまった。しまった、ここは誇張して言うべきだったか。


「それでも行く。勉強も頑張る。だって、離れたくないもん…アレンが好きだから…。」



最初、聞き間違いかと思ったけど俺がアイリの言葉を聞き流す筈がないのは自分がよく知ってる。


「えっと、つまり俺と恋人になりたいって意味で良いの?」



そう言うとアイリは悲しそうな顔をした。…何で?


「アレンが私をそう言う目で見れない気持ちもわかるよ。だから、私が学校に受かったら卒業する間だけでも恋人になって欲しい!!」


卒業するまで?何を馬鹿なことを言ってるんだろう未来永劫離す訳ないのに。


「嬉しいよ、ありがとう。一緒に合格出来るように頑張ろうね。」



こうして、後は卒業して結婚するだけになったはずなのに俺はかつてないほど絶望していた。どうやら俺の気持ちは届いてなかったらしい。

今はアイリに付き合わされているって思われているけどアイリが俺を好きだって分かってたから少しヤキモチを焼くくらいで済んでいたのに。ーーーなのに。




何で先輩に頼るの?俺を頼ってよ。俺はアイリしか見てないのに何で先輩なんかを見てるんだ。そもそも先輩は俺のことが好きみたいだったのにフッてからアイリへの接し方が変わっていた。あぁ、駄目だ。不安が何一つ消えてくれない。やっぱり



「1回何処かに閉じ込めて俺しか見えないようにしないといけないかなぁ…」


これは元々考えていた事だったが、アイリが俺に告白してきてくれたのですることを辞めていたのだ。ちょっとやりすぎかなって思っていたし。


ただ、先輩には聞こえていたらしく神妙な顔で俺を見ていた。その視線からはアイリの事を心配してることしか読み取れなくて俺のイライラを増幅させた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ