12:30pm/別館屋上
『広報課の神谷さん、広報課の神谷さん、至急総務課倉持のデスクまでお越しください』
基本的に立ち入り禁止となっている別館の屋上で好物であるチョコチップメロンパンを齧りながら、春陽は目の前で楽しそうに話す男の顔を見て口を開いた。
今の放送が聞こえていないはずはないことは分かっているが、一応聞かずにはいられなかったのだ。
「……広報課の神谷さん、呼ばれてますよ?」
すると目の前の男、千紘はやはり分かっていたようで、ニンマリといたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「まぁまぁはるちゃん、せっかくの昼休みだよ? それにみつるくんの呼び出しなんて絶対ろくなことじゃないんだから」
至急と言っていたと思うのだが良いのだろうか、と春陽がパンを食べつつ考えていると、不意に屋上の扉が開いた。
千紘は扉に背を向けているため誰が来たかは見えない筈なのだが、彼の中の第六感のような何かで察知したようだ。
扉の方を向いて座っていた春陽には、不味いと顔に書いて固まった千紘とその後ろに無表情で立つ充が見えて、思わずヘビに睨まれたカエルの図が頭を過った。
「神谷さん、ちょっと話があるのでご同行願えますか?」
「……はぁーい」
相変わらず無表情で無感情にそう告げた充に、千紘は観念してひきつった笑顔で答えた。
「あぁ、申し訳ないのですが、藤咲さんもご一緒に宜しいですか?」
低姿勢で尋ねているように見せかけてその実有無を言わせぬ問いかけに、春陽は素直に頷いて肩を落とす千紘の後に続いた。