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11:00am/天体観測場

 相原と話していると秋也の元にどこからか電話がかかってきて、何事か話した後、二人はここ数日の住居にしていた天体観測場にあるログハウスに戻ってきた。


「そういえば窓の修理の道具、買い忘れちゃったね」

「あぁ、大丈夫。もう必要ないさ」

 不思議そうに首を傾げる凜の見つめる先で、秋也が少し緊張した顔で外を見ていた。

「もうすぐ帰れる筈だから」

 何かを待つように遠く見つめる秋也に並んで凜も外を眺めた。




 しばらく待っていると遠くの方に二人分の人影が見え、こちらに近づいてきた。

 それは凜のよく知る人物で、凜がとなりを伺うと、秋也は息を飲んで食い入るように二人を見つめていた。

 二人がログハウスのだいぶ近いところまできたところで、秋也がふらりと窓辺を離れ外へ向かったので、凜もそれに続いて外に出た。

 こちらにやってきた人物――慎弥と千秋もこちらに気づき、慎弥は凜の元気そうな様子にホッとすると共に秋也を睨みつけ、千秋は秋也を見て目を丸くしていた。


「凜を返していただけますか?」

「返すだなんて! 僕らはただ仲良く天体観測をしていただけですよ?」

「そういう口上は結構です。七尾くんにあんな回りくどいメッセージまで伝えさせて」

「そうでもしないと、アンタはアキを連れてこないだろ?」

 ピリピリとした空気が二人の間に流れていたが、慎弥がちらりと凜の顔を伺った後、一つ溜息をついてその空気を霧散させた。


「久しぶり」

「アキ……!」

 やっと再開出来た片割れを秋也は思いきり抱きしめた。

「ちょっ、苦しいよ」

 背中を叩いて抗議の声を上げる千秋を離して、秋也は改めてその顔を見つめた。

 ついに見つけた、それも、ちゃんと元気な姿で。

 秋也はそのことに安堵と喜びでいっぱいになって思わず泣きそうになった。

「大きくなったねー! 男前度が上がってまぁ!」

「……なんでお前はそんなフツーなんだよ」

「えー? だって手紙、渡したよね?」

「は?」

「え?」

 ここで二人はお互いの認識が若干ズレていることに気がついた。

「慎弥さん、手紙、渡してくれたんですよね?」

「え? 渡してないですよ?」

「なんて!?」

「だって渡してほしいって言われましても私あの時黒崎さんのことなんて知らなかったですし、無理ですって言っていなくなられても困りましたから。『お預かりします』と言った筈ですが?」

 千秋は驚いているが、ようやく秋也は全てに納得がいった。


 正直千秋が元気だったことは嬉しいが、十年も連絡がなかった理由や再会時の淡白っぷりが自分の知る千秋のとる行動と思えなくて引っかかっていた。

 しかし彼女が今の状況を連絡していると思っていたのなら話は別だ。

 一人で黒鬼に会いに行ったことからも分かるように、彼女は人を信用し過ぎる。

 慎弥が手紙を渡していないなどとは思いもしなかったのだろう。

「あー……ごめんね?」

 今度こそ正しく状況を把握した千秋がとりあえず秋也に謝った。

「だからいつももうちょっと警戒心と猜疑心を持てと言ってるだろ」

「だからごめんってー」

 バツが悪そうに再度謝った千秋だったが、はたと何かに気がついて慎弥を見た。

「っていうかシュウが組織に入った時点で素性は分かってた筈ですよね? その時点で手紙を渡してくれればよかったのでは?」

「なにせ二年経っていましたからね。すっかり忘れていました」

 にこりと笑顔で慎弥は言ったが、秋也は絶対に面倒なことになるから渡さなかったのだと察した。


「で? なんで今まで帰って来なかったんだ?」

「あー……うん……そうだよね」

 慎弥に怯えるでもなく元気そうな千秋の姿に秋也は不機嫌そうに尋ねたが、千秋は困ったように笑って曖昧に答えにならない答えを返した。

 当然秋也がそれで納得するわけがなく、更に口を開こうとした時。


「私が悪いの」

 背後から聞こえたその声に、秋也は渋い顔をして口を噤んだ。

 秋也もその可能性を考えなかった訳ではない。

 しかし凜と過ごしている内に、凜も千秋と同じように被害者であってほしいと、そう思うようになっていた。

 振り返った秋也が見た凜は、悲しそうな、けどどこかすっきりしたような子供には似合わない笑顔をしていた。


「お詫びにもならないと思うけど、全てお話しさせてください」

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