10:30am第二医務室
「やはり来てないですか」
「そうですね、もう一週間もどこに行ってるのか……」
準太が第二医務室の扉を開けると、渚と慎弥が何やら深刻な様子で話をしていた。
その様子に、ノックはしたのだが気もそぞろであったため、返事を待たずに開けてしまったのは不味かったと準太は慌てて謝った。
「あ、すみません! お邪魔しちゃったみたいで」
「構いませんよ。私の話は終わりましたから」
先程までの深刻なムードを霧散させ、特に気にした様子もなくいつものように穏やかに笑った慎弥に、準太はほっと胸を撫で下ろした。
「あ、そうだ。黒崎さんに頼まれたもの、今日の夕方には出来ると思いますからもうちょっと待ってくださいね」
「頼まれたもの?」
安心したところで思い出したことを慎弥に伝えると、想像とは微妙に異なる反応が帰ってきてあれ? と準太は首を傾げた。
「あれ? 違ったんですか? 出来たら二階堂さんに渡すように言われたのでてっきり二階堂さんが依頼されたのかと」
「因みに何を?」
「天体望遠鏡です」
準太の答えに慎弥は目を細めた。
「……他に何か言っていましたか?」
「えっと、凜ちゃんが喜ぶとかなんとか、後は……二階堂さん?」
その顔は笑顔だが、その目は全く笑ってはいない。準太は背筋にひやりと冷たいものが走り、何か不味いことを言ってしまったかと一度言葉を止めて慎弥の様子を伺った。
「後は?」
「……『明かりを忘れないように』と必ず忘れずに伝えるように、と」
秋也の伝言を聞き終えた慎弥の顔からスッと笑顔が消えたと思ったら、そのまま何も言わず足早に部屋から出ていった。
しばらく呆気に取られて慎弥の出ていったドアを見つめていた準太だったが、渚に用事があったのではないのかと尋ねられ慌てて意識を切り替えた。
「あの、今日はお手紙は……」
「あー、今日も来てないな」
渚の元に届くストーカーからの手紙には、どうやって調べているのかは不明だがいつも外で動いている職員達の動向が事細かに綴られている。
そのためもしやと思い準太はここ数日毎日渚の元を訪れているのだが、何故かその手紙は今ぱったりと途絶えていた。
「そう……ですか。いや、まぁ良いことです!」
準太は思わず残念そうな声を出してしまい、慌てて笑顔で付け加えた。
残念だと思ったことも、手紙が途絶えて良かったと言ったこともどちらも準太の本心だ。
「けどあんなに毎日のように来ていたものが急に来なくなるとちょっと何かあったのかと心配になるな」
「ストーカー相手に何言ってるんですか……因みにその手紙って過去に途切れたことってないんですか?」
相変わらずの渚を心配しつつ準太が気になったことを尋ねると、渚は少し考えてから口を開いた。
「……あぁ、そういえば一度だけあるな。その時もほぼ毎日来ていたものがある日ぱったり止んでね。たしか二週間くらいだったかな? その後はまた以前と変わらず……いや、少し変わったか」
「変わった?」
「少し品が良くなった」
「……というと」
「下ネタが無くなった」
「どんな手紙受け取ってたんですか!!」
あんまりな渚の答えに、これには準太も声を荒げずにはいられなかった。
「ははは、まぁそんな過激なものじゃなくてせいぜい可愛らしい程度だよ」
「だからもう少し警戒心を持ってくださいと……あぁもう!!」
だいぶいつもの調子を取り戻してきた準太に渚が安心したように笑っていたが、残念なことにそれに準太が気づくことはなかった。




