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7:50am/第三研究室

 準太は寒さで白くなる吐息を閉じ込めるように鼻まで上げていたマフラーを引き下げ、存外冷え性な彼を通勤中暖めてくれていた手袋を咥えて一気に引き抜いた。

 優秀なその手袋のお陰で指先は悴んでおらず、すぐにでも作業が開始出来そうだ。


 自身の仕事場である第三研究室の前にたどり着くと、その扉の前で一度立ち止まり、緊張の面持ちで扉に手を掛けた。

 しかし扉はガチャンと音を立てるだけで開くことはなく、準太は重い溜め息をついて鞄から鍵を取り出した。


 部屋の中はしんと静まり返っており、外と同じように冷えきっていた。

 心なしか準太には外よりこの部屋の中の方が寒いように感じた。



 本日の作業の準備をしていると程なくして扉が開き、準太は勢いよく振り返った。

 しかしそこにいたのは彼の期待した姿ではなく、がっかりしたのを隠すことなくその来訪者たちに挨拶をした。

「……おはようございます」

「おはよー。その様子じゃ、今日もシュウは来てないみたいね」

 準太の態度に苦笑しながら来訪者の一人、千紘は挨拶を返した。

「もう一週間も無断欠勤ですよ。家にも帰ってないんですよね? 一体どこをほっつき歩いてるんだか」

 言葉は悪いがその声には覇気がない。

 春陽は心配そうに準太を見た後、千紘に尋ねた。

「黒崎さんのご両親って今どちらにいらっしゃるんですか? そちらに会いに行ってるとか」

 秋也の両親は世界的に有名な研究者で、いろいろな国を転々としながら活動している。

「うーん、どうだろ? 俺もそれもあるかもしれないと思ってシュウのお母さんにも連絡してみたんだけど、向こうにもいないみたいだったよ。逆にシュウは元気かって聞かれちゃった」

 千紘の返事に、少し期待していた準太は肩を落とした。


「まあシュウのことだし、そのうちひょっこり帰ってくるよ。何かわかったら連絡するから、ちゅんたもあんまり思い詰めないようにね」

「……ありがとうございます」

 千紘のふざけたあだ名にも反応せず落ち込んだ様子の準太に、千紘と春陽は、元気出してね、とだけ残して仕事に戻っていった。


 いつも帰れと言ってもなかなか帰ってくれなかったのに、一週間も一体どこに行っているのか。

 準太は秋也が一晩中部屋に籠って彼の作った探査機で必死に誰かを探していたのを知っている。

 しかしそれが誰で、秋也とどんな関係なのかも知らないし、何となく聞いてはいけないような気がして聞いたこともなかった。

 恐らくそのことが関係しているのだろうと準太は直感的に思っている。

 準太は必死になるその秋也の姿を見て、気の毒だな、とは思っていたがやはりどこか他人事だった。

 今なら秋也の気持ちが良くわかるが、秋也のように夜通し探したりはしない。

 それはまだ一週間しか経っていないということもあるし、何より一番秋也と近い存在である千紘がそこまで狼狽えていないということが大きい。


 確かに自分は他人事のようにしか思えない冷たい後輩だったかもしれないが、何もその身をもって教えてくれる必要はないだろう。

 準太は今ここにいない秋也を思った。

 頭に浮かんだのは、やっとわかったか、とでも言いたげな飄々とした顔をした秋也で、準太は自分の想像だと知りつつも恨めしく思わずにはいられなかった。

 

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