2:30pm/第三研究室
「あれ? 部屋が綺麗になってる」
千紘と春陽が揃って第三研究室に顔を出すと、秋也は驚いて目を丸くした。
「ガセネタだったのか?」
「違いますぅ! ものすごい大群を駆除してきたんだから! ねぇはるちゃん」
「確かにすごい数でしたね」
拗ねたように口を尖らせて抗議の声を上げるすっかりいつも通りの千紘と、その横で穏やかに笑う春陽を見て、秋也はとても嬉しそうに笑った。
「お疲れ」
「おー」
そんな秋也の態度に、千紘は照れ臭そうに返事を返した。
労いを込めて秋也が千紘と春陽の分のコーヒーも入れてくれたため、二人は今日の出来事を秋也に話して聞かせた。
「そういえばすみません。せっかく特別製で用意してもらったのに、この防護衣着てないんです」
春陽の申し訳なさそうな申告に秋也は目を丸くした。
「お前すごいな。度胸があるというか、無謀というか」
「あはは、やっぱり武装してる相手だとあの子達も警戒しちゃうかなって」
秋也の感心したような言葉に春陽は照れながらに笑って答えた。
「そういやお前ら報告書はいいのか?」
「みつるくんが書いてくれるらしいよー」
「あの人もなんだかんだ過保護だよな」
「優しいですよね」
まあ千紘に書かせるといつまで経っても提出せず催促を何度もしなければならない、という手間を考えて、自ら書いた方が早いと思ったという可能性もあるが、と秋也は思った。充は効率主義だ。
「そう言えば僕の前って倉持さんが千紘さんと組んでたのかと思ってたんですけど、違ったんですね」
会話の流れで何気なく春陽が言った言葉に、千紘と秋也はきょとんとした。
「え? そうだよ?」
「え? けど倉持さんは事件の直後に総務課に移ったって……」
春陽が充に聞いた話を思い返して戸惑っていると、二人は何かに気付いたらしい。
秋也はケラケラと笑いだし、千紘は憤慨した。
「確かにそんな時期もあったな」
「そうだよ! 聞いてよはるちゃんみつるくんは酷い人だよ! 上からの指示だからって傷心の相棒に何も言わずに勝手に移動しちゃったんだから!」
「倉持さんだからなー」
充の話を聞いた時、今の二人の関係を思い浮かべ、そのせいで関係が悪くならなかったようで良かった、と春陽は思っていたのだが、実際はやはり拗れていたようだ。
「けど、倉持さんも仕方なかったんですよきっと」
春陽がフォローすると秋也に、藤咲は倉持さんを美化し過ぎだ、と笑われた。
千紘もしきりに頷いている。
「仕方なかったらその後の俺の相棒かっさらっていかないでしょ!」
「……はい?」
相棒をかっさらうとはどういうことだろうか?
「こいつの倉持さんの後任の相棒、今の倉持さんの奥さん」
「そうだよ! 俺らと同期の岡辺楪ちゃんって可愛いこが相棒になる予定だったんだけどさ! 引き継ぎの時に運命だとか何とか言ってそのままプロポーズ! 家庭に入って欲しいとか言い出して、俺の相棒は!? って聞いたら自分が戻るって言いだして、結局上の指示無視で一週間で戻ってきたんだから!」
千紘の話を春陽は信じられなかったが、横で聞いていた秋也もあれは最高だったな、と笑っているし、千紘の冗談というわけでは無さそうだ。
「倉持さんって情熱的な人だったんですね」
「意外だよな」
「ってか奥さんはそのプロポーズ受けたんですか?」
「岡辺もなかなかに変わった奴だったからな。迷わず頷いてたぞ。何でもあっちもプロポーズされた瞬間に運命を感じたんだと」
「ステキな話ですねー」
「そうだけど! そうなんだけど!!」
「あー……確かに、そこはちょっと同情します」
「でしょ!?」
最近あまり味方についてくれなくなった春陽が同意してくれ、先程までの不機嫌そうな態度から一転、千紘はとても嬉しそうだ。
秋也も珍しくこの件については春陽と同意見らしい。
「藤咲、面倒臭い奴だけど、そいつのこと宜しくな」
「ねぇ、言い方」
「はい!」
「はるちゃん、面倒臭いは否定しよう!?」
無事に戻ってきたこの何でもない日常を、春陽は自分の手で守ることが出来た喜びを噛みしめていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。とりあえず3章終了です。
一応次の章+蛇足的な何かで完結予定です。
あともうちょっと、気が向いたらまた読んでもらえると嬉しいです。




