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1:30pm/東区農業用地

「結果として、私は黒崎さんの防護布のお陰でそれ以上怪我を負うことなく神谷さんを気絶させることに成功しました」

 そこまで話をして、充は先程千紘を置いてきた方向を見た。

「さて、そろそろ戻りましょうか」



 先程とは違い、二人はゆっくり歩いて千紘の下へと向かった。

 無言で歩きながら、春陽は充から聞いた話を思い返した。


「……あの、聞いてもいいですか?」

「どうぞ」

「倉持さんは、いつから総務課なんですか?」

「事件の直後、上から怪我が治るまで一時的に総務課に移るように、と指示がありました。勿論鬼に相対する仕事を避ける為、という理由もあったんでしょうが、一番の理由は広報課は外に出る仕事がメインですから体裁が悪かったからでしょうね」

 春陽の質問に、充は淡々と答えた。

 その声には指示を出した上への不満も、仕事を変わった後悔も無いように春陽には聞こえた。


 やがて先程青鬼と遭遇した開けた場所が見えてきた。

 千紘の姿はまだ見えない。

 充や千紘を信じていない訳ではないが、もしかしたら鬼に殺されてしまったのでは、という僅かな不安が春陽の胸に浮かんだ。

 少し早足になりながら春陽が元の場所に戻ってくると、先程迫ってきていた青鬼達が束になって倒れているのが最初に目に入った。

 思った以上に数が多く、もしこれが襲ってきていたらと思うとゾッとした。

「藤咲さん」

 充に促されそちらを見ると、虚ろな表情で俯いて、膝を抱えしゃがみこむ千紘の姿があった。

 その周りには五匹の動物たちが彼を守るように寄り添っている。

 鷹、狼、ヤマアラシに狐――最初に現れたチーターは、千紘の一番近くに座っている。

 どうやら春陽の予想と裏腹に、充の言っていた守護役の神の使いはあのチーターだったようだ。

 それにしても……


「あの、気のせいかもしれないですけど……彼ら、倉持さんをものすごく警戒してません?」

 充が動く度に、五対の目が油断なくその動きを追っている。

「どうやらそうみたいですね。以前神谷さんを気絶させるときに思いきり鳩尾を殴ったのを覚えているのでしょう。大惨事にならないように頭や首を狙わないように気を使ったつもりだったのですが」

「それは伝わらないと思います……」

「そうでしょうか? まあ私が警戒されていても大した問題ではありません。さあ、貴方の仕事です。頑張ってください」

「はい……とりあえず、倉持さんはあまり彼らを警戒させないように、出来るだけじっとしていた方がいいかと」

 彼らの反応を楽しむかのように右に左に無駄に移動する充に、春陽は見かねて注意した。

 意外と倉持さんは天然なのだろうか、と若干失礼なことを考えながら、充が大人しくなったことで少しほっとしたように見える彼らの様子を観察した。

 千紘に近付かない限り、彼らの方から襲ってくることは無さそうだ。

 特にチーターは、ずっと千紘の近くで頬を舐めたり、肩にすり寄ったりしており、まるで慰めているかのようだ。


 その様子を見て、ふと春陽は以前千紘の言っていた言葉を思い出した。

 千紘は、彼の家族の最期を知らないと言っていた。

 鬼が怖い、と言っていたが、何故怖いと言っていた?

 ――何故神谷さんは鬼が残らず倒れた後もあんなに辛そうなのか?


「もしかしたら……」

 春陽はゆっくりと千紘に近付いた。

 その様子に充が咎めるように顔をしかめた。

「藤咲さん、防護衣を着てください」

 充の指摘に春陽は苦笑して首を振った。

「きっとそうすると警戒されてしまうから」

「しかし、危険です」

 充は彼らが防護衣を警戒するきっかけを作ったのが自分だと自覚があるためか、心なしか言葉に力がない。

「上手く説明出来ませんけど、きっと大丈夫です」

 今回の防護衣は対神の使いの特別製として準備してもらったものだったのだが、春陽は警戒されたくないから、と頑なに譲らない。

 充は千紘が以前、はるちゃんはああ見えてけっこー頑固なんだよ、と言っていたのを思い出して溜め息をついた。

「……絶対に油断しないように。いいですね?」

「はい!」



 春陽は出来るだけ彼らを警戒させないように、ゆっくりと千紘に近付いた。

 視線は感じるが、まだ敵視はされていない。

 もしや相手にする価値もないと思われているのだろうか、と少し卑屈な考えが頭を過ったが、そんなことはない、と自らの考えを振り払った。


「神谷さん」

 ある程度距離を残したところで春陽は一旦足を止めて千紘に呼びかけた。

「神谷さん、もう大丈夫ですよ?」

 春陽の呼びかけに反応はない。

 春陽は少し迷って、再び千紘に声をかけた。

「千紘さん」

 それまで無反応だった千紘の肩がぴくりと動いた。

 春陽はほっとして言葉を続けた。

「千紘さん、もう大丈夫ですよ。僕も、倉持さんも、貴方が守ったんですよ。東区の人たちも、彼らの大切な畑も、千紘さんのお陰で、千紘さんがいたから無事だったんです」


 千紘が顔を上げて春陽を見た。

 その顔は不安気で、まるで親に叱られた子供のようだと思った。

 春陽は再び千紘に向かって足を進めた。

 ついに春陽は千紘の目の前にたどり着き、その目の前にしゃがんで視線を合わせた。

「自分を責めないでください。千紘さんのお陰で、誰も傷つかなかったんです。だから、一緒に帰りましょう」

 そう言って春陽が千紘を抱きしめると、うん、と小さく頷いて、千紘も春陽を抱き返した。

 千紘に寄り添っていた動物たちは、静かに空気に溶けていった。

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