1:00pm/第三研究室
「うわ、何かあったんですか?」
部屋に入った若葉の第一声がそれだったのは仕方ないだろう。
秋也としては片付けたつもりだったのだろうが、実際は瓦礫を部屋の隅に寄せて、床を軽く掃いたのみであり、元の状態とは程遠い。十分事件の後だ。
「ああ、ちょっと失敗してな。まあ気にすんな」
その甘い笑顔に思わず騙されそうになったが、抉れたテーブルが視界に入りハッと我に返った。ちょっとの失敗とは。
「あの、よかったら片付け手伝いますよ?」
「お、いいのか? 正直このままじゃ確実に準太に怒られるからどうしようかと思ってたんだ」
「そういえば七尾さん、お休みしてるんでしたね」
若葉は元気になって戻って来た途端この惨状を目の当たりにするのは可哀想だと思い、軍手とごみ袋借してください、と言って腕捲りをした。
一方秋也は若葉の今思い出したというような反応を見て、朝も雲雀が同じような反応をしていたなと思い、思わず笑ってしまった。
不思議そうな顔をする若葉に、秋也は何でもないと言って若葉に言われたものを用意しに奥へと入っていった。
「ふいー、こんなもんですかね?」
「おー、綺麗になるもんだな」
よく意外だと言われるが、父子家庭で育った若葉は家事は得意だ。
特に掃除は割りと好きで、思わず熱中して黙々と隅々まで綺麗にしてしまった。
「いや、助かった。俺じゃこんな綺麗に出来ないからな。尊敬するわ」
「いえいえ、こんなことくらいしか出来ませんから」
「そんなことないし、家事が出来るってことも凄いことだと思うぞ」
恭介には褒められることはほぼないので、秋也の手放しの賛辞に若葉は照れて反応に困ってしまう。
けれど嬉しくないわけではないので、素直に受けとることにして、ありがとうございます、とお礼を言った。
「そういえば、何か用事があったんじゃないのか?」
「へ?」
秋也の問いかけに、若葉はきょとんと何のことかわからないという顔をした。
そして少し考え、あぁ! と漸く掃除に夢中になりすぎて忘れていたこの部屋を訪ねてきた理由を思い出した。
「そう! 私黒崎さんに聞きたいことがあって来たんです!」
「聞きたいこと?」
秋也は反射的に聞き直したが、大体は予想がついた。
若葉が秋也に尋ねたいことなんて、恭介のこと以外に思い付かない。
「黒崎さん、瀬戸さんと賭けってしました?」
案の定、若葉の聞きたいことは恭介のことだった。
しかし、若葉の言う賭けには心当たりはない。
「あいつが俺と賭けをしたって言ったのか?」
秋也の問いかけに、若葉は控えめに頷いた。
「賭けをした、というか、こないだの……こ……アレは罰ゲームだって」
「あのヘタレが」
秋也は若葉の言葉を聞いて呆れた声をあげたが、目の前の若葉を見て、まぁ恭介がそう言ったのもわからなくもないか、と思った。
あれから秋也は恭介と若葉が一緒にいるのを見ていないが、千紘から様子は聞いていた。
秋也に告白について確認するだけでもこの様子であるし、恭介に対しては相当挙動不審なのだろう。
正直この展開は秋也も予想外だった。
秋也はどう答えようか、と一瞬考えたが、若葉の顔を見て直ぐに答えを決めた。
「賭けなんてしてないぞ」
その答えを聞いて、若葉はほっとした顔をした。心なしか少し嬉しそうにも見える。
「やっぱり瀬戸さんの嘘なんですね! ありがとうございます。あ、こんな下らないことでお仕事中にお邪魔してすみません」
「いや、こっちこそ本当に助かった。準太が本気で怒ると面倒臭いんだ」
秋也の言葉に若葉は笑って、もう一度お礼を言って嬉しそうに帰って行った。




