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1:00pm/東区農業用地

「着きましたよ」


 充が車を止めた場所は、農業用地というだけあり広大な畑が広がっていた。

 あまり野菜について詳しくない春陽にはどれが何の苗かはわからなかったが、きっと収穫が近いのだろうと思われるほど成長しているものも多く見られる。

 今これを青鬼に荒らされてしまえば、農家の人のこれまでの苦労が全て水の泡だ。


「目撃情報があった場所はここからまだ少し離れています。この先は車が入れませんので、少し歩きますがいいですね?」

「あ、はい。大丈夫です」

「神谷さんも、大丈夫ですか?」

「うん、いいよ。行こう」

 歪な笑顔でそう答えた千紘に充が心配するような視線を向けたが、結局そのままくるりと背を向けて、着いてきてください、と言って歩き出した。



 三人は畑から木の生い茂る林の中を進んで来たが、歩き始めて十分も経たないうちに林を抜けて開けた場所に出た。

 見晴らしはいいが、件の崖らしきものは見えない。

「この辺でいいでしょう。神谷さん、始めてください」

 充の指示に千紘は頷いて、何やら祈りのようなものを唱え始めた。

 その声に応えてか、先程までほとんど無風状態だった三人の周りに風が吹き出し、次第にうっすらと何かが千紘の前に集まり象を取り始めた。

 それは一頭の綺麗なチーターだった。

 春陽は初めて見るその光景に思わず見入ってしまったが、充は油断無く周囲を警戒し続けていた。


「来ましたよ」

 充の声に弾かれたように千紘と春陽は充の視線の先を追った。

 そこにはたくさんの青鬼がおり、こちらに向かっていた。

 事前情報では十五とのことだったが、少なく見てもそれより十は多いだろう。都合の悪いことに、すでにこちらに気付いているようだ。


 春陽は慌てて千紘の方を確認した。

 現在現れている神の使いは一体。

 それと姿を現しかけているモヤ状のものが一体。

 明らかに青鬼と接触するまでには間に合わない。形状から見てチーターは恐らく守護役ではないだろうと春陽は推測した。


 ならばせめて守護役の神の使いが姿を現すまで自分が神谷さんのことを守らなければ――


 そう思い、春陽は秋也にもらった武器を構えたのだが、後ろにいた充に強く腕を引かれ危うく大事な武器を取り落としかけた。

「逃げますよ」

「え? だって……」

 春陽が充の指示を受けて戸惑いながらもう一度千紘の方を見た。

 やはり神の使いは最初に現れたチーターしかいない。

「早くしなさい。死にたいんですか?」

 そう言うと充は春陽の返事を待たずに春陽の腕を掴んだまま駆け出した。



 千紘はホッとした。充はちゃんと春陽を連れて逃げてくれたようだ。

 鬼が姿を現してから、一気に恐怖が頭の中を支配した。

 全身の震えは止まらないし、祈りの言葉なんて既に満足に紡ぐことなど出来ていなかった。

 充はいつかちゃんと向き合えるように、と思っているようだが、そんなに簡単に克服出来るようなら苦労しない。

 今にも発狂しそうなこのギリギリの状況で千紘が何とか正気を保っていられたのは、自分の大事な人達を守らなければという切望が全てだった。

 その二人が無事に逃げてくれたなら、千紘の中に残る感情は一つしかない。

 千紘は素直にそのおぞましい感情に身を委ねた。

 心の中が恐怖で埋め尽くされていく。


「う、あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……!!」



「この辺でいいでしょう。離れ過ぎると反って危険ですから」

 充と春陽は車を停めた場所まで戻って来ていた。

 春陽は足の速さには自信があったのだが、充はそれ以上だった。

 春陽は充に腕を引かれていたのだが、途中からその速さに着いていけず半ば引きずられるようにここまで来た。

 多少息は上がっているがほぼ平然としている充を見て、春陽はインテリ系の見た目に騙されていたが、充も恭介並にチートだ、と確信した。


 春陽が充に対する印象を改めた時、先程逃げて来た場所から千紘の悲痛な叫び声が聞こえた。

「倉持さん! 今の……!」

「大丈夫です。心配いりません」

 焦る春陽に対して、充はいつものように冷静だ。

 しかしいつもは無表情の充には珍しくその眉間には深い皺が刻まれている。


「待っている間に、少し昔の話をしましょうか」

 そう言って、充が静かに話始めた。

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