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12:30pm/正面駐車場

「遅い」

「すみません!」


 千紘と春陽の二人が駐車場に着くと、既に充が車にエンジンをかけて待っていた。

 充の苦言に春陽は慌てて謝罪したが、千紘はらしくもなく黙ったままだ。

 その様子に充は一つ溜め息をついて、説明するので藤咲さんは助手席へ乗ってください、と言い、自分は運転席に乗り込んだ。



「藤咲さんは神の使いについてどこまで知っていますか?」

 前を向いたまま充は春陽に問いかけた。

「ええと……神の使いはこの組織が出来る前の唯一の鬼への対抗手段で、この世の生き物ではなく、ごく一部の神社に仕える人間のみが使役出来るもの、です」

「それは一般常識レベルのことです。他には?」

「え」

「他には?」

「……それしか知らないです。すみません」

 助手席で縮こまる春陽をちらりと見て、そうですか、と感情のない声で充は言った。

「そういうのは知っているうちに入りません。……目的地までに説明しきれますかね?」

「……すみません」

 そう言った後、充はちらりとバックミラー越しに千紘の様子を確認したが、やはり何も言わなかった。

 いつもならここで、話したんじゃなかったんですか? 等の小言の一つでも出てくるのに、と思い、車内に流れる微妙な空気に春陽は居心地の悪さを感じた。

 まさかいつもハラハラしながら見ている充の説教が恋しくなる日がくるなんて思いもしなかった。


「まず、神の使いは何故そう呼ばれているか知っていますか?」

「え? ()()使()()じゃないんですか?」

「そう勘違いしている方が多いのですが、実際は違います。神の使いは、正しくは()に仕える者()使()()魔、つまり神職従事者、神社の人間の使い魔です」

 なるほど、と春陽は真剣な顔で頷いたが、実際はその二つの間にどれだけ違いがあるのかよく分からない。

 しかしそんなことでいちいち躓いていたら確実に目的地までに話は終わらないだろうと話を進めてもらうことにした。


「では次の質問です。藤咲さんは、神の使いが何か知っていますか?」

「それは、生物としてってことですよね?」

 春陽の確認に充は頷いた。

「ええと、この世のものではないって言われてるんで、見たこともないような姿で、何か分からない物質で出来てる生物、だと思ってました」

「どちらも違います」

 バッサリと否定されて春陽は少し凹んだが、どうやら充は怒ってはなさそうなので内心安堵した。

「ああでも、少しは合ってるかもしれないですね。神の使いは何かしらの鳥獣の姿をしています。それはこの世に存在する生き物の姿ですが、この世のものではないと言われている所以は、彼らが実体を持たないからです。いえ、実体がない、と言うと少し語弊がありますね……彼らは微粒子の集合体であり、それらの微粒子は一つ一つ個別のものです。それらが集まってそういった実在の生物の姿に見せているだけなので、微粒子個々で考えると見たこともないような姿、という表現もあながち間違ってはいないですが」

 淀みなく紡がれる充の言葉に、春陽は全くついていけず頭の中には大量のハテナマークが飛び交っている。

「え、ええと、つまり……?」

「つまり、そうですね……パズルをイメージしてもらえば分かりやすいでしょうか? 完成形には私たちの良く知っている生き物が描かれていますが、実体はそこに描かれている姿ではなくピースの一つ一つの方で、描かれている絵の生き物な訳ではない」

 今度の説明は春陽でも理解することが出来た。


「要するに、神の使いは小さな生き物の集団ってことですか?」

「そうとも言えますし、そうではないとも言えます。彼らの元となる微粒子はそこら中に漂っていて、それらに意思があるかは実のところはっきりと分かっていません。彼らは使役者の呼びかけに応じて集合体として姿を現し、一つの個体として意思を持ち、使役者の命令に従います。その何処からともなく現れ、役目が済んだら消えていく姿がこの世のものではないと評される所以です」

「はぁ」

 分かったような、全く分からなかったような。

 春陽は何とも頼りない返事を返す事しか出来なかった。


「さて、ここからが本題です。今話した神の使いは、いわばエネルギーの塊です。丸ごと飲み込まれてしまえばどうなるかはわかりませんが、基本的に鬼から危害を加えることはまず不可能です。と、いうことは、青鬼たちはどういった行動にでると思いますか?」

「えっと、本体が攻撃出来ないなら……使役者を狙う?」

 大分充との問答に馴れてきた春陽は、今度の質問には割とすんなりと答える事が出来た。

「正解です」

「じゃあ今回の僕の役割は鬼から神谷さんを守ることですか!?」

 確かにそれは()()()()だが、春陽が思い描いていたものより大分荷が重い。

「違います」

「へ?」

 間髪を容れずに返ってきた予想外の答えに、春陽は間抜けな声をあげた。

「普通の使役者に対するサポートならそれで正解ですが、神谷さんにはそれは必要ありません。彼は守護役の神の使いも使役しますので」

 それを聞いて、春陽は今度こそほっと胸を撫で下ろした。

「良かったです。流石にまだ青鬼と一人で戦う自信は無くて」

「流石に入って一年目の、ましてや広報課の()()()新人にそんな危険なことはさせません」

 充の淡々とした、けれど何処か呆れたような言葉に、春陽は自分の勘違いが恥ずかしくなり笑って誤魔化した。

「あはは、ですよね。けど神の使いって一人で何体も使役出来るものなんですね。僕は何故か勝手に一人一体なのかと思ってました」

「いえ、通常の使役者ならその通りです」

「え?」

「藤咲さん、貴方はもう少し人の話を注意深く聞くようにお願いします」

「うっ、すみません」

 充の指摘に思い当たることが有りすぎる春陽には謝ることしか出来ない。

「先程申し上げた通り、普通の使役者に対するサポートなら、使役者の守護が正解。つまり普通の使役者には、守護役の神の使いなんていません。彼らは基本的に一人一体の神の使いを使役しますので」

「え、そうなんですか? じゃあ二体も使役出来る神谷さんってすごい人なんですね」

「いえ、違います。神谷さんが使役する神の使いは五体。……神谷さんと、亡くなった家族の数です」

 春陽は息を飲んで思わずバックミラー越しに千紘を見た。

 千紘は相変わらず不気味なほど静かに、ずっと窓の外を眺めている。


 暫く春陽は何も言えず黙っていたが、ふと大切なことを思い出して充に尋ねた。

「あの、じゃあ結局サポートって何を……」

 春陽の質問に、充は困ったような顔をして口を開いた。

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