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12:00pm/食堂

「貴女それ本気で言ってるんじゃないでしょうね?」

「はぇ?」

 若葉の話を聞いた雲雀の訝しげな問いに、意味がわからないという顔をした若葉を見て雲雀は信じられないという顔をした。

 それに困惑した若葉が一華に助けを求めたが、一華も雲雀と同意見のようで何も言わずに苦笑した。



 いつものように昼までトレーニングルームで汗を流した後、若葉は一人食堂に向かった。

 そこでちょうど一華と雲雀の姿を見つけて、一緒にお昼をとることにした。

 悩みも解消し、運動もし、スッキリとして機嫌の良い若葉に、もしや恭介と何か進展したのでは、と一華がさりげなく話を振ったところ、進展どころか振り出しより後退したような話を聞かされたのだ。

 その結果が雲雀の冒頭の台詞である。


「仮にも一年半、諏凰の相棒やってきたんでしょ? そろそろあの人の性格くらい把握しなさいよ」

 溜め息をつきつつ言う雲雀に、ふむ、と若葉は恭介の顔を頭に思い浮かべた。

 若葉の頭の中の恭介は不機嫌そうな顔か凶悪そうな顔かの二択である。

「まず、あの人が黒崎さんと罰ゲームのある賭けなんてすると思う?」

「確かに」

「それにそんな子供染みた罰ゲームの内容に同意すると思う?」

「確かに!」

「しかもあのバカ真面目があの状況でそんなことすると思う?」

「確かに!!」

「大体その時返事はいらないだの今までと変わるつもりはないだの言ってたんでしょ? それじゃ罰ゲーム自体成り立たないじゃない」

「確かにー!!」

「……貴女ねぇ」

 あっという間に百八十度考えを改めた若葉に、雲雀は頭痛がして米神を押さえた。

 こんなに単純でこの子は大丈夫だろうか?


「まぁまぁ、雲雀ちゃん落ち着いて。若葉ちゃん、瀬戸さんの幼なじみの雲雀ちゃんがこう言ってるし、私も瀬戸さんとは短い付き合いだけど嘘とか罰ゲームとかっていうのは考えられないなぁ。あの時の瀬戸さんの雰囲気は嘘を言ってる感じじゃなかったと思うし」

「じゃあ、嘘っていうのは……」

「いつまでも挙動不審でぐるぐるしてる誰かさんの為に決まってるでしょーよ」

「えー……私なんかに瀬戸さんが気を使うかなぁ?」

「だ、か、ら! あの人は貴女のことが好きなんだって言ってるでしょうが!」

 雲雀の地を這うような低い声に若葉は目をぱちぱちと瞬かせた後、漸く思い出したようで、一気に赤くなった顔をテーブルに突っ伏しながらあうあうと唸りだした。

 その様子を見て、漸く理解できたか、と雲雀はふん、と鼻をならした。


「誤解が解けて良かったねぇ。にしても雲雀ちゃん、随分瀬戸さんのこと良く分かってるのね? もしかして瀬戸さんのこと好きだったりして」

 一連の流れを優しく見守っていた一華だったが、ふとある可能性が頭に浮かんで冗談めかして雲雀に尋ねた。

 一華としては友人の恋のチャンスを後押ししようと思っていたのだが、雲雀の返答次第ではその計画を見直さなければならない。

 一華の問いに雲雀は一瞬きょとんとした後、大変不愉快そうに顔を歪めた。

「…………あの人が虎並みに巨大な猫を完璧に被っていて、私がまだ世間知らずの馬鹿な子供だった頃にちょっとね。けど大昔の話だわ」

「え!? そうなの!?」

 雲雀の衝撃のカミングアウトを聞いて、唸りながら突っ伏していた若葉が勢い良く顔を上げた。

「へー! そうなんだー! そう言えば雲雀の恋バナって聞いたことないね! ね、ね、瀬戸さんの何処が良かったの? やっぱり顔? 今は? 今も好きだったりするの?」

 人の恋バナとなると途端に興味津々に尋ねてくる若葉に、雲雀は隠しもせず面倒臭そうな顔をした。

「だから大昔の話だって言ってるでしょう? それに根本的な部分は変わってないにしても、再会した当初は態度が違い過ぎて良く似た別人かと疑うレベルだったのよ? 今も、だなんてあり得ないわ」

 何だかんだ律儀に答えてくれる雲雀に若葉は更に質問を続ける。

「じゃあさじゃあさ、今は? 今は好きな人いないの?」

「あ、それ私も聞きたい」

 キラキラと瞳を輝かせて尋ねてくる若葉に、ついには一華までが便乗した。

 その質問に何故か今朝会いに行った彼が頭を過ったが、無い無い、と雲雀は自己完結した。

 幸いにもそんな思考は目の前の二人には伝わらなかったようで、いないわ、という雲雀の答えに一様につまらなそうな顔をした。


「ちなみに、参考までに、その、雲雀が好きだった頃の瀬戸さんってどんな感じだったのかなーって」

 先程までと違い若干聞き辛そうに目を泳がせながら尋ねる若葉に、雲雀はおや、と思った。

 雲雀の好みについて知りたいのならそんな微妙な聞き方をせずとも堂々と、それこそ先程のように嬉々として聞いてくる筈だ。

 恐らく若葉が気になっているのは過去の恭介の方で、それを雲雀の恋愛話が気になるから、と周りに――或いは自分にかもしれないが――言い訳しながら尋ねているのだろう。

 本当に分かりやすい子だこと、と雲雀は微笑ましく思いながら、それに気付かぬ振りをして質問に答えてあげることにした。


「そうね……私が会うのは大体がパーティーの場だったんだけれど、諏凰は常に人に囲まれていたわね。礼儀作法は完璧、頭も良くて顔も良くて社交的、真面目なんだけど適度に冗談を言えるような……」

 雲雀が特徴を挙げていく度、聞いている二人の表情が微妙なものになっていく。

「なにそれアニメかドラマのキャラクター?」

「もしくはどこぞのアイドルかな? どう考えてもダウト」

「煩いわね! 私だって今言いながらそう思ったわよ! けどあの人はそれを他人に違和感と思わせないように自然にやってのけてたのよ。貴女たちも実物見たら間違いなく騙されるわよ」

 僅かに顔を赤らめて言う雲雀に二人は顔を見合せた。

「確かに瀬戸さんなら出来そうかも」

「ちょっとその感じ見てみたいわね」

 一転して羨ましそうにする二人に、雲雀はホッとすると同時にちょっとした優越感を覚えた。

「まぁ諏凰はあの頃は家の為に無理矢理作ってたんでしょうから、元々今の方が素なんでしょう。もしあれが素だったとしてあのまま成長してたら……」

 そこで不意に雲雀が言葉を止めた。

「? どうしたの?」

「……いえ、想像したら嫌味な大人になってたわ。今の諏凰で良かったんじゃない?」

「えー? そうかなー?」


 今の話の流れで何故そんな結論になったのか納得がいかず首を傾げる若葉だったが、雲雀はそれどころではない。

 先程思い出した昔の猫を被った恭介が素で、もしそのまま成長していたら――そして想像した結果が、そのまま今朝の秋也に重なった。

 分かりやすい子はどっちよ、と雲雀は誰にも気付かれないように、一人内心で頭を抱えた。

「あ、じゃあさ」

 一華が良い事を思い付いたとばかりににこにことして若葉の方を向いた。

「もし瀬戸さんと雲雀ちゃんが付き合うって言ったらどう思う?」

 雲雀はそれを聞いて嫌な顔をしたが、一華の意図がわかった為言葉を飲み込んだ。

 一華としては雲雀に嫉妬しないだろうかとの期待を込めた質問だったのだが。

「瀬戸さんに私の雲雀は渡さない」

「逆でしょ」

 大真面目に答えた若葉に、当事者にされたはずの雲雀は思わず溜め息と共に突っ込まずにはいられなかった。

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