11:30am/総務課事務所
「あぁ、お疲れ様です」
「お疲れさまー。ゆずちゃんは平気?」
「ええ。お陰様で熱も退いて、もうすっかり元気ですよ」
「そっか。良かった」
伝達事項があるということで呼び出された筈だが、千紘の振った話題に文句の一つも言わずに相槌を打つ充に春陽は首を傾げた。
いつもの充なら、そんな話をしている場合ではないでしょう、と軽く嗜めた後、懲りない千紘にペナルティをちらつかせる、という流れがお約束だ。
溺愛していると噂の娘の話題だからかと初めは思ったが、良く見てみると、春陽には充がいつもの無表情ながらどことなく元気がないように見えた。
今回の呼び出しと何か関係があるのだろうか?
「でちゃった?」
「……二度とないことを祈っていたんですが」
千紘の主語のない問いかけに、充は静かに頷いて肯定した。
それを聞いて千紘は困ったような、諦めたような顔で仕方ないなぁ、と呟いた。
ふいに充が春陽を見た。
その目は真剣で、切実に何かを訴えているように春陽は感じた。
「鬼の目撃情報がありました。今回は神谷さんにその駆除にあたってもらうことになりました」
「え? っと……ちょっと待ってください。神谷さんが、駆除に行くんですか? 対策課の方じゃなくて?」
「ええ」
春陽の困惑した問いかけに充は頷いた後、今度は千紘の方を見た。
「能力のこと、藤咲さんには?」
「ちょっとだけは話してあるよ」
「貴方にしては良い判断です」
「もっと誉めていいのよ?」
「調子に乗らないというのなら考えましょう」
「あ、なら無理だね」
いつものように軽口を叩きあっている二人だが、やはりいつもと少し様子が違うようだ。
充が言う能力とは、恐らく神の使いのことだろう。
その会話を横で聞きながら、春陽は嫌な予感がじわじわと胸に広がっていった。
充が再び春陽の方を向いた。
「今回の目撃情報は青鬼です。場所は東区の崖の上。そこから農業用地へと進行中とのことで、数は現在確認出来ているだけでも十五」
「十五!?」
春陽は驚いて思わず声を上げた。
群れを成す緑鬼ならそれほど珍しくないが、青鬼は基本的に群れは作らない。
「相手は青鬼です。群れを成して何をしようとしているのか判らず危険な上、数も相当多い。十五はあくまで目撃された数ですので、恐らくそれ以上でしょう。それで一刻も早く確実に手を打つため、神谷さんに任せるように、と上から指示がありました」
「りょーかい。いやー、頼りにされてるね」
冗談を言う千紘に充はやはり何も言わず、けれど何かを言いたそうな顔で見つめている。
そこで漸く春陽は充が千紘のことを心配しているのだと気がついた。
「藤咲さん、貴方は今回神谷さんのサポートとして同行してもらいます」
「サポート?」
春陽は神の使いという存在は知っているが、それがどんなものかは知らない。
サポートと言われても何をすればいいのか見当もつかなかった。
「今回は私も同行しますので、時間もないですし向かいながら説明します。黒崎さんにも連絡を入れていますから、必要なものは準備してくださっている筈です。それをもらって正面の駐車場に来てください」
充が同行してくれると聞いて、春陽は安心した。
メインは千紘で、そのサポートのみとはいえ、自分だけでそんな大変な仕事が出来るのか全く自信がなかったからだ。
春陽だけではなく、春陽の隣に立つ千紘もほっとしているのが分かった。
みつるくんやっさしー、と少しいつもの調子を取り戻した千紘に対し、いいから早く行く! とこちらもいつもの調子を取り戻しつつある充に促されて二人は部屋を出た。




