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9:00am/第三研究室

「おはよー」

「おはようございます」


 雲雀が出ていってから少しして、いつものように千紘と春陽がやってきた。

 秋也は三人が鉢合わせてしまい、二人のことを毛嫌いしている雲雀が物凄く嫌そうな顔になるところを想像し、雲雀のことを思い良かったな、と小さく笑った。


「ってかはるちゃん聞いて! シュウったらおんなじ家を出ておんなじ職場に行くのに、俺のこと起こしもしないで置いてくんだよ! 酷くない!?」

「え? うーん……神谷さんが起こしても起きなかったとかじゃなくて、ですか?」

「そーだそーだ」

 春陽の疑問に便乗して、秋也がやる気のない合いの手を入れた。

「嘘つけ! 起こしてもないだろ!」

「寝てたんだから分かんねーだろ?」

「百パーそうだと自信を持って言えるのにそれを証明出来ないのがツライ!」

 悔しそうに崩れ落ちた千紘見て、勝ち誇ったように秋也が笑っている。


「はるちゃんシュウがひどいよう」

 めそめそしながら千紘が春陽に泣きつくと、春陽はとりあえずそうですねー、と慰めた。

「鬱陶しいってハッキリ言って良いんだぞ?」

 心から憐れんだ顔で春陽を諭す秋也に、春陽は苦笑することしか出来なかった。



 暫くそうして遊んでいたが、嘆いていた千紘が突然けろりとして、コーヒー飲もう、と給湯室に向かったことでお遊びは終了した。

 春陽も最初の頃はこういった茶番のようなやり取りに戸惑ってあたふたしていたが、もうすっかり馴れたものだ。

 突然の千紘の奇行にも、飽きたのか、と落ち着いて流せるようになった。


「誰か来てたの?」

 自分と春陽のコーヒーを入れて戻って来た千紘が何の前置きもなしに秋也に尋ねた。

 不思議そうな顔をしている春陽に、コップが二つ洗ってあったから、と答えると、春陽もなるほど、と納得した。

「ああ、さっきまで西條が来てたぞ」

「ええ!? シュウとひーちゃんってそういう関係だったの!?」

 口元を手で覆い大袈裟に驚いてみせる千紘に、秋也はどういう関係だよ、と冷ややかな視線を送った。

「どういうってそんなのそういうカンケイに決まってるじゃん? おっとこれ以上は純粋なはるちゃんの前では言えないな」

 ニヤニヤと楽しそうな千紘を見て、秋也は呆れたように溜め息を吐いた。

「捻りがない。品がない。女性への気遣いがなってない。俺が今凄く不快。マイナス百点。だからお前はモテないんだ」

「それ今の話の流れと全く関係なかったよね!?」

 思わぬ形で強烈なボディブローを食らった千紘は涙目だ。

 更に春陽が、黒崎さん()モテそうですよね、と悪気なく追い討ちをかけてきた。余談だが春陽の見立ては正解である。


「あっ……あの、えっと、西條さんと仲が良かったんですね」

 無意識に止めをさしてしまったことに気付いた春陽が慌てて話を反らそうと、千紘がダメージを受ける原因となってしまった雲雀のことを尋ねた。

 春陽の言う仲が良いという言葉には千紘のように下世話な意味は込められていない為、秋也は答えを返すべく、素直に自分と雲雀との関係について考えた。

「そうだな、仲は……良くはないんじゃないか? 悪くもないが、ハッキリ言って関わりがない」

「あ、もしかして仕事の話だったんですか?」

「んー、いや? ただ雑談して帰ってったな」

 秋也の答えに春陽は首を傾げたが、秋也も俺にもよくわからん、と首を捻った。

「ああ、そう言えば話の流れで西條にお前の武勇伝について教えといたぞ」

「え? 武勇伝ってどれ?」

 全くピンと来ていない様子の千紘に、八年前の青鬼のやつ、と秋也が答えると、途端に千紘は顔を青くした。

「ちょっと、ひーちゃんに何て教えたの!?」

「何も。ただ保管庫の資料漁ってみろって教えただけだ」

「うあああああ!! それ絶対誤解されるやつー!!」

 頭を抱えて叫ぶ千紘に、ちょっとは敬われるようになるだろ、良かったな、と秋也が表面上はとても優しい顔で笑っている。

「八年前の青鬼?」

 話についていけない春陽が首を傾げているのに気付いて秋也が納得した様子で頷いた。

「そうか、八年前って言ったら藤咲はまだ小学生だもんな。よし、藤咲も保管庫の資料漁ってこい」

「あ、はい。行ってみます」

 話の内容が気になった春陽は秋也の言葉に素直に頷いて立ち上がった。

「待ってはるちゃん! 行かないで! 俺が話してあげるから! 待って待って! 行くならせめて俺も行く!」

 春陽の中で行かないという選択肢は存在しないらしく、神谷さんの話も後で聞かせてください、と既に保管庫へと向けて歩きだしている。

 それに止められないと判断した千紘は、せめて隣で誤解しないように丁寧に説明しようと春陽を追って慌てて部屋を出ていった。


「誤解、ねぇ?」

 秋也は千紘の言っていたことを反芻し、別に誤解でもないだろ、と思うと同時に、必死の形相でこちらに訴えていた幼なじみの顔を思い出し、凄い顔してたな、と一人可笑しそうに笑った。

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