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10:30am/第二医務室

 第二医務室に再びノックの音が響いた。まるでドアを殴っているかのような些か元気の良すぎるそれは、顔を見ずとも来訪者が誰なのかを渚に伝えてくれた。


「おはよーございます! 五十鈴さん、急患です!」

「だから一華、これくらいほっとけば治るわよ」

「ダメよ! 破傷風になったらどうするの!?」

「わ、わかったから! 近い近い!」


 一方がもう一方を引き摺るように勢い良く入ってきたのは、対策課の藤咲一華(ふじさきいちか)西條雲雀(さいじょうひばり)だった。

 どうやら怪我をした雲雀を一華が無理矢理連れてきたようだ。


「藤咲、西條、入り口でいちゃついてないでさっさと入って来い」

「い、いちゃついてなんてないわ!?」

「はーい」

 渚の呼び掛けに顔を真っ赤にして抗議の声をあげる雲雀に対して、一華は気にする様子もなく渚の元へ向かう。置いていかれる形になった雲雀は慌てて一華の後に続いた。


「あれ? 春くんおはよー。え、どうしたの? まさかどこか悪いの!?」

「おはよー一華ちゃん。違うよ、神谷さんとちょっと休憩してるだけだよ」

「あ、すいません神谷さん気づかなくて! おはようございます!」

 一華はそこに春陽の姿を見つけて嬉しそうに話しかけたが、すぐにここが医務室ということを思い出し顔を青くした。

 しかし春陽の言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした後、今度は千紘の存在に気付いてなかったことに気付き慌てて挨拶をした。


「はよー。相変わらずいっちゃんははるちゃんしか見えてないよね」

 からかうように千紘が言うと、一華は照れるどころか、だって可愛いでしょう? と千紘に同意を求めてきた。

 それを横で聞いていた春陽だけが可愛いという言葉に一人嬉しいような悲しいような複雑な表情を浮かべている。

 一華と春陽は同じ孤児院育ちで、姉弟のように育ったらしいが、実際の姉弟ではない。藤咲は孤児院の院長の姓だ。


「で? 今日はどうしたんだ?」

 一華が春陽に夢中で放置された形になってしまい、一人不満そうにしていた雲雀に渚が尋ねた。

「あ、ちょっと手をカッターで切ってしまって……でも本当に大したことないので大丈夫です」

 先ほどと違い冷静さを取り戻した雲雀が少し言い難そうに答えると、渚は雲雀の手を取って傷口の様子を観察し、顔をしかめた。

「相変わらずひーちゃんは不器用だねぇ。まぁシュウほどじゃないけど」

「ひーちゃん呼ぶんじゃないわよ脳ミソふわふわ男」

 横で話を聞いていた千紘が話かけると、間髪を容れず雲雀から辛辣な台詞と蔑んだような視線を寄越された。

 それに対し千紘は相変わらず酷い、と如何にも傷付きましたと言わんばかりに泣き真似をし、春陽は自分が言われた訳でもないのにびくりと肩を震わせた。

「雲雀ちゃーん、失礼でしょ?」

 一華に窘められ雲雀は一瞬しまったという顔をしたが、そいつが失礼なのが悪いのよと言ってそっぽを向いた。


「あ、そういえば! 昨日の保育園でのお話、すっごい楽しかったです! 流石神谷さん!」

 雲雀の態度に困ったような顔をしていた一華だったが、昨日のことを思い出したらしく、ぱっといつもの明るい顔に戻り千紘に楽しそうに告げた。

「ありがとー! ところでいっちゃんは何で昨日保育園にいたのかな?」

「そんなの春くんの勇姿を見るために決まってるじゃないですかー」

「一華ちゃん、サボりは駄目だよ……」


 一華の言葉をきっかけに再び話題は昨日の話になった。

 春陽は何故か保護者に混ざって一華が居たように見えたのだが、どうやら気のせいではなかったようだ。

 春陽の記憶にないだけで孤児院の子が通ってたのかとも思ったが、一華は保育園の子ではなく十八歳の弟を見に行っていたらしい。



「よし、もういいぞ」

「ありがとうございました」

 一華が千紘たちと盛り上がっているうちに、雲雀の治療は終わったらしい。

「あ、ごめん雲雀ちゃん。春くんがいたからつい……ちゃんと治療してもらった?」

 渚の声でここに来た目的を思い出した一華は慌てて雲雀の元に戻り、綺麗に消毒され絆創膏の貼られた手を念入りに確かめた。

「おー、藤咲。ご苦労だったな。今回も結構深く切ってたのに放置しようとしたみたいだし、西條は怪我を甘く見すぎる傾向にあるようだから、これからもちゃんと見てやってくれるか?」

「任せてください!」

 元々孤児院の中でも年上の方で面倒見の良かった一華は、渚の頼みにしっかりと頷いた。


「あ、そういえばそこの二人。さっき倉持さんが探してたわよ?」

 渚の言葉に少々ばつの悪そうにしていた雲雀が、何やら思い出したようで春陽と千紘に楽しそうに教えてくれた。

 雲雀は、春陽のことは一華を取られるためあまり好きではないし、千紘のことは生理的にあまり好きではない。

 そのため彼女が楽しそうということは、十中八九二人にとっては楽しくない話である。

 思わず千紘は顔をひきつらせた。

「それで、ひーちゃんは何て答えたのかな?」

「もちろん、心当たりを何点か教えてあげましたわ。ここも含めてね」

「はるちゃん、行くよ!」

「え、ちょ、神谷さん!?」

 言うが早いか、千紘は渚に挨拶をしてさっさと部屋を出ていってしまった。

「あの、五十鈴さん、ありがとうございました! じゃあ一華ちゃんまたね! 西條さんもお大事に」

「またいつでもおいで」

「またねー」

「ま、精々頑張りなさい」

 慌ててみんなに挨拶をした後、春陽も千紘を追って騒がしく出ていった。

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