12:30pm/北原森林東
「動いてやがる」
恭介がGPSで居場所を確認して眉間に皺を寄せた。
若葉達が自らの意思で動いたのならそれだけ元気だということで喜ばしいことであるが、鬼に運ばれているとなれば話は別だ。
秋也の見立てでは、二人は『巣』ではなく、食糧貯蔵庫に運ばれているのだという。
つまり、鬼に運ばれているということは、食糧としての役割を果たすときということだ。
唯一の救いはこちらに近づいている、ということだろうか。
「ああ、この速度なら問題ないだろ」
勝手に後ろからモニターを覗きこんできた秋也が事も無げに言った。
あまりに楽観的に見えるその態度に恭介はイラついた。
「可能性としては無視できねーだろ」
「あったとしても一割以下だ。準太じゃあるまいしそんな不運考えるだけ時間の無駄」
そう言いつつ自身が放り投げたバイクを回収し、秋也は真剣な顔で恭介を見た。
その様子に何を言われるのか身構えた恭介だったが……
「お前、三森に告白しねーの?」
「余計なお世話だボケ!!」
どいつもこいつも!!
今日は一体何だって言うんだ! とイライラしながら、恭介は自分のバイクを起こし本気で秋也を置いていこうと決意した。
勝手な行動を取ったことについては後で少々咎められるかもしれないが、秋也なら一人ここに捨て置いても全く問題ないだろう。
「何で?」
「あ゛?」
「何で言わねーの?」
どうやらまだ話は続いていたらしい。
イライラしつつも、特に言葉にからかう色が含まれていないことに違和感を感じて振り向けば、思いの外真剣な顔のままの秋也がいて驚いた。
「な、んでって……困るだろ?」
その衝撃で先程までのイライラはどこかに飛んでしまったが、突然の秋也の態度に戸惑いが隠せず、恭介は秋也相手にらしくない態度をとってしまい、それに舌打ちしたくなった。
「困る?」
どうやら返事を聞くまで諦める気がないらしい秋也に、本当になんなんだとうんざりしながら、ここまで話してしまったのだから、と恭介は半ばやけくそで質問に答えた。
「困るっつーか、迷惑だろーが。以前の俺ならまだ家柄っつー魅力があったかもしれねーが、今の俺にはそれもない。あいつにとってはただの意地の悪いクソみたいな先輩だ。そんな奴に言い寄られても迷惑以外の何物でもないだろ」
これで満足か、と秋也を見れば、明らかに不満そうな顔をしている。
そしてまたしても秋也は恭介にとって予想外のことを口にした。
「別にお前はムカつくけどクソではねーよ」
「は……?」
「あと、迷惑でもないだろ。少なくとも好きだと言われて、悪い気はしねーと思うぞ」
秋也が恭介に言ったとは思えない言葉のオンパレードに、恭介は言われたことを理解するのを脳が拒否しているようで、上手く反応を返すことが出来ない。
そんな恭介の態度に、自分でも可笑しなことを言っているという自覚があるのだろう秋也は一つ溜め息をついて、自嘲気味に笑った。
「居なくなってから後悔しても遅いからな」
その一言とその表情で、恭介は全てを理解した。
何て事はない。
彼はただ、彼と今はもう会えない人を、恭介と若葉に重ねているのだ。
恭介は呆れて笑ってしまった。
だってもし秋也が冷静であったなら、そんなこと考える筈がない。
何故なら彼らと恭介達とでは、関係性が違いすぎるのだ。
重なる訳がない。
それほどまでに、鬼に拐われる、という出来事が秋也にとってトラウマとなっているのだろう。
ならば今回自分が行くと無理矢理に救出部隊に参加したのは、過去の自分への罪滅ぼしか――
一度そう考えて、恭介はすぐにその考えを否定した。
秋也はそんな辻褄合わせで満足するような可愛らしい性格はしていない。
それよりも、恭介に若葉を迎えに行かせることで、恭介に自分と同じ思いをさせないようにしている、と考えた方が秋也らしい。
らしいのだが、秋也が恭介のために動いているというところが問題なのだ。
秋也は基本的に優しく、面倒見もいい。
ただし恭介以外に、である。
恭介に優しい秋也など気持ちが悪いし、調子が狂う。
だから、早く若葉を助けて、秋也も元に戻さないといけない。
全く世話の焼ける、と前を行く秋也の後ろ姿を半眼で睨んでから、恭介は秋也の背中をばしんと一つ叩いて、驚いて目を丸くする秋也を追い抜いて何も言わずに先へと進んだ。




