12:00pm/???
「ふぇぇぇママぁ」
「大丈夫だよ、きょうすけ君。お姉ちゃんたちが絶対にママのところに帰してあげるから」
「いぃやぁぁ! すぐ帰るー!!」
「……困ったねぇ」
まるで酔っ払いの手土産のように運ばれて三十分。
春陽と若葉はショッピングモールからずいぶん離れた山奥にいた。
運ばれている間、何とか自分達の現在地を把握しようとうっすらと布越しに見える景色を見ていたが、途中から木々が生い茂るばかりで目印といえるようなものもなく、すぐに道などわからなくなった。
一緒に連れてこられてしまった子供、きょうすけは最初こそ恐怖で声も出ないような状態であったが、何度か鬼に攻撃されるうち、自分を包むこの布の中にいれば鬼が手出しが出来ないと理解して少し安心したのか、鬼が近くを離れた今は元気いっぱいに泣きわめいている。
「ありゃー、やっぱダメだ。藤咲くんのは?」
「僕のもですね」
端末にはっきりと表示された圏外の文字に、二人は揃ってため息をついた。
「まぁでも神谷さん達に渡されたGPSがあるので、きっと皆さんすぐ助けに来てくれますよ」
春陽に言われて、若葉は端末に着けたお守りの形のストラップを見た。
中に高性能なGPSが仕込まれているらしいが、若葉は恭介に着けとけと言われただけで、春陽に教えられるまでただのお守りだと思っていた。
更に言えば、今でも見た目こそ春陽のGPSと同じだけで、若葉は自分のそれは本当にただのお守りではないかと疑っている。
「……GPSまで圏外、なんてことはないよねぇ?」
「……。黒崎さんお手製なんで大丈夫ですよ、たぶん、きっと、おそらく」
若葉はふと思ったことをつるっと口にしてしまったが、思った以上に不安になり、言わなければよかったと後悔した。
春陽のだんだん自信がなくなっていく言葉にも絶望感がひしひしと漂っており、申し訳ないことをしたと更に少し凹んだ。
「三森さん、体の方は大丈夫ですか?」
春陽が若葉の様子を伺いながら、心配そうに尋ねた。
噛まれた直後と違い会話もスラスラ出来ており、一見平気そうに見えるが、額にはじわりと汗が滲んでおり、指先も微かに震えている。
「んー、だいぶ慣れてきたかなぁ。けど戦うのはちょっとキツイかも。弱っちくてごめんね」
若葉は自分の不甲斐なさに思わず泣きそうになり、何とか笑顔をつくったものの失敗して情けない顔をして情けないことを言ってしまった。
どうやら肉体的に弱っているせいで、精神的にも大分不安定になっているようだ。
「そ「おねえちゃんはつよいよ!!」」
若葉を元気付けようとした春陽の声を遮って、突然きょうすけが大きな声を上げたのに二人は驚いた。
そういえば先程から泣く声が聞こえなくなっていたと、その声を聞いて初めて春陽は気づいた。
「……強いかな?」
「つよいよ! だってきょーちゃんのことたすけてくれたもん! ちわわいえろーみたいでかっこよかった!」
「……なぁに? ちわわいえろーって」
「ヒーローだよ! ちっちゃいけどすごいあしがはやくてつよいんだよ!」
「そっかぁ」
さっきまで泣いていたのが嘘のようにきょうすけは楽しそうに喋っている。
キラキラとしたその瞳を見て、若葉は先程までひどく沈んでいた心がほんわりと温かくなったのを感じた。
「ありがとう、きょうすけ君」
「へへっ」
若葉が感謝を込めてきょうすけをぎゅっと抱きしめると、きょうすけも嬉しそうに笑った。
「さて、助けに来てもらうにしても、このままここで大人しくしてるよりは少しでも山を降りた方がいいと思うの」
「鬼が近くにいるかもしれないのに、動いたら危なくないですか?」
若葉の言葉に春陽が不安気にそう尋ねると、若葉は首を横に振った。
「端末が圏外ってことは、ここは相当山奥だと思うんだよね。だから助けに来てもらうのも時間がかかりそうだし、GPSも圏外って可能性も否定しきれないでしょ? 幸い今は近くに鬼の気配はないけど、恐らくここは鬼の巣の中。緑鬼は群れをつくる例が報告されてるわけだし、助けに来てくれた時に仲間が集まって来たら厄介になるから」
そう言って若葉は移動を開始すべく、きょうすけを抱えた。
「ちなみにこの布、何でこんな色なのか知ってる?」
若葉の問いかけに、春陽が若葉の腕の中のきょうすけを自然な動作で引き取って得意気に答えた。
「鬼は紫が見え辛いから、ですよね?」
「ちぇー、知らないと思ったのになー」
春陽にすんなりと答えられて若葉は不満そうに口を尖らせながらも、しっかりと近くに鬼の姿がないことを確認して三人はゆっくりと移動を開始した。




