10:00am/第一演習室
「はろーきょーちゃん。あーそびーましょー!」
「シネ」
「酷くない?」
残暑も漸く落ち着いた九月の終わり。
一人トレーニングに余念がない恭介の元に、弛い挨拶をしながら千紘が訪ねてきた。
「藤咲弟ならいねーぞ」
「知ってるよー、俺とはるちゃんの仲だもの!」
「シネ」
ウザい絡みをしてくる千紘に恭介は不機嫌を隠そうともせず、シッシッと犬猫を追い払うように手を振った。
「えーいいじゃん。きょーちゃんもわかちゃんとはるちゃんがデートに行っちゃってつまんないでしょ?」
「テメェと一緒にすんじゃねーよ」
あっさりと返した恭介の返答が期待外れだったらしく、千紘の方がつまんないとでかでかと書かれた顔で口を尖らせている。
「大体お前演習室出禁じゃねーのかよ」
「違うよー、トレーニング禁止なだけで、きょーちゃんからかいにくるのは自由なんだよー」
「倉持さん辺りに言って出禁にしてもらうか」
「みつるくんなら本気でやりそうだから止めて!」
真顔で、いいですね、と言って入った場合のペナルティまで決めてしまうところまで簡単に想像出来て、千紘は必死で訴えた。
先程まで何を言ってもへらへらとしていた千紘が漸く狼狽えた様子を見て、恭介は少し溜飲が下がった。
「用が済んだならさっさと帰れ」
「だからきょーちゃんと遊びに来たんだって」
「だから何でだよ。暇なら黒崎のとこに行けばいーじゃねーか」
「いやー、最近めっきりきょーちゃんとふれ合ってないなって思って」
恭介はトレーニングを再開すべく再び千紘を追い出そうとするが、千紘は全く出ていく気が無い様だ。
恭介の言葉を無視して演習室の隅に置いてあった椅子に座り、居座る体制に入っている。
「最近も何もテメェとふれ合った覚えはねーよ」
「えぇー? あんなに四人で仲良くふれ合ってたじゃん、忘れちゃった? それとも何? きょーちゃんはシュウとアキちゃんが居ないと俺とは遊べないって言うの?」
「殺人未遂をふれ合いと呼ぶとは知らなかったな」
楽しそうに話しだした千紘に、恭介は追い出そうとするのは時間と労力の無駄だと判断し早々に諦めた。
それに今の話を聞いて少し気になった事があったのだ。
「アイツはまだ見つからないのか?」
恭介の問いかけに、千紘は寂しそうに笑って肯定した。
「そうか……まぁアイツは殺しても死にそうにねーし、そのうち何事もなかったように帰ってくるんじゃねーの?」
一見冷たいように見せかけてその実心配と気遣いの隠った言葉に、何だかんだで優しいんだよな、と千紘は思った。
言葉にすると確実に否定と怒号が飛んでくるのはわかっているので決して言わないが、千紘は恭介のそういうところを気に入っているため、いくら邪険にされても決して恭介を嫌いになることはなくこれまで関係が続いている。
「何かわかったらきょーちゃんにもすぐ知らせるからね」
「いらねーよ」
「きょーちゃんも何かわかったらすぐ知らせてね」
「わかったらな」
「わかちゃんとはどこまでいったの?」
「シネ」
シリアスな話をしていると思えば再び恭介をからかい始めた千紘を、恭介はとうとう首根っこを掴んで演習室の外に放り投げ物理的に追い出した。




