4:00pm/対策課事務所
対策課事務所では、少し珍しい光景が広がっていた。
「酷いですよ瀬戸さん! 何で置いて行っちゃうんですか!」
「あー悪かった悪かった」
「全然心が込もってないですー!」
若葉が恭介を責めるといういつもと立場が逆転している二人に、対策課の面々も面白そうに成り行きを見守っている。
そんな部屋に春陽が扉をノックして入って来たのだが、喧騒に紛れてしまい誰にも気付かれることはなかった。
春陽は仕方なく近くにいた対策課の男に声をかけた。
「あの、すみません。瀬戸さんいらっしゃいますか?」
「おー、広報の。残念だが瀬戸は今取り込み中だ。まぁすぐ終わるだろうからもうちょい待ってな」
そう言って男が指差す方向を見て、春陽はなるほどと納得した。
「瀬戸さん、この間はどうもありがとうございました!」
漸く若葉が落ち着いてきた頃合いを見計らって春陽は恭介に声をかけた。
「あ? ああ、藤咲か。アイツ一緒じゃねーだろうな?」
嫌そうに顔をしかめる恭介に春陽は苦笑して僕だけですと答えた。
「それとあの時も、ありがとうございました。ずっとお礼が言いたかったんです。僕が今ここにいるのは、瀬戸さんのおかげだから」
「は?」
恭介は春陽が何のことを言っているのか分からないようだ。
それもそうだ。もう九年も前の話であるし、春陽にとっては衝撃的な事件だったが恭介にとっては日常茶飯事だったはずだ。
春陽は少し考えた後、イタズラっぽく笑って言ってみた。
「『ねーちゃん』を今度こそ守りたいので」
「は……」
恭介は春陽の言葉の意図を正しく理解して一瞬目を見開いた後、どこか嬉しそうに小さく笑った。
「ならとりあえずアイツだけは見習うなよ?」
「それを言われたの二回目です」
そう言って苦笑すると、春陽は報告書が残ってるのでと言って部屋を出ていった。
「瀬戸さん、藤咲くんと知り合いだったんですか?」
横で話を聞いていた若葉が意外そうに尋ねた。
「知り合い……じゃあねーな」
「えぇ?」
恭介は顎に手を当てて少し考えたが、結局否定した。
それに若葉は納得がいかないようだが、恭介からすれば仕事で助けた程度で会話もしていない相手なんて知り合いとは言わない。せいぜい『会ったことがある人』だ。
「けど」
そう呟いて、恭介は小さかった春陽が必死に鬼を睨み付けていた姿や、ヒーローみたいだと言いながらキラキラした瞳で恭介を見上げてきた姿を思い出した。
「真っ直ぐなところは嫌いじゃねーな」
そう言って見たこともないような優しい顔で笑った恭介を見て、若葉の心臓がドキリと大きく跳ねた。
「……うわぁぁ私のばかぁぁぁ」
一瞬でもこの暴君にときめいてしまったことに自己嫌悪し、突然叫びながら悶絶しだした若葉を見て、恭介は一瞬ビクリとした後、うるせー、といつものように若葉の頭を叩いた。
「そういや、さっきはずいぶん好き放題言ってたなぁ?」
「え?」
「あれだけ大口叩くってことは、さぞ自分の実力に自身があるんだろうなぁ?」
「え?」
「俺相手なんて楽勝だよなぁ?」
「え?」
そうしてまた、いつもの対策課の日常が過ぎていく。




