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1:50pm/南区保育園

「あら、鬼退治のお兄さん達」

「こんにちは、園長先生。昨日ぶりです」


 保育園に到着した千紘と春陽は、まず園長を訪ねた。

 園長は茶目っ気たっぷりのお婆ちゃんで、昨日も園児達に混ざって楽しそうに千紘の話を聞いていた。

 今回もアポなしの急な訪問だったにも関わらず二人を笑顔で迎えてくれ、千紘と春陽はホッとした。

 先生達が、彼女と話しているととても暖かい気持ちになる、と言っていたのも納得だ。


「今日もお話に来てくれたのかしら?」

 何も知らず楽しそうにそう尋ねる園長に、春陽はこの暖かい空間を守ってあげたいと強く思った。

「実は、少し困ったことになっていまして……」



「あらまぁ」

 千紘が赤鬼の目撃情報があったこと、そしてここにその鬼が向かっていることを告げても、園長は変わらずのんびりとした雰囲気のままだった。

「怖くないんですか?」

 不思議に思い春陽が尋ねると、園長はふふっと可愛らしく微笑んだ。

「驚いたけど、怖くはないわね。だって、お兄さん達が守ってくれるんでしょう?」

 信頼しきったその言葉に、二人はぱちりと瞬いた後、千紘は自信満々に、春陽は一生懸命に力強く頷いた。



『……これ押したら次はどれ押したらいいんですか? 神谷さん神谷さん、もうこれ流れてますよ。え、あ、そうなんですね、あー、おっほん……ぴんぽんぱんぽーん、よいこの園児の皆さんにお知らせです。緊急召集、緊急召集。お遊戯ホールに集まってくださーい。よいこの皆さん、お遊戯ホールに集まってくださーい。あ、先生達もお願いしまーす。危ないから走っちゃだめですよー』


 保育園全体に流れたのは、そんな気の抜けた千紘の放送だった。

「昨日のお兄ちゃんの声だ!」

「きんきゅーって早くって意味なんだよ! 早く行かなきゃ!」

「走っちゃだめって言ってたでしょ!」

「今日もでしたっけ?」

「いや、何も言ってなかったと思うけど」

 突然の放送に先生達は事態を把握出来ず困惑しながらも、言われた通りに園児達を連れてお遊戯ホールへと向かった。

 昨日の講演で彼らの仕事を把握しているため先生達の間には若干不安が広がったが、千紘の緊張感のない声によって園児達は全く不安を感じなかったようだ。皆一様にこれから何があるのかと楽しそうにはしゃいでいる。


「これで皆ですかね? りょーかいです。ではでは、よいこの皆さん、こーんにーちわー!」

「「「こーんにーちわー!!」」」

 千紘が挨拶をすると園児達から元気な返事が返ってきて、二人はほっこりした。

 そして同時に春陽は不安になった。千紘は一体何をどう話すつもりだろうか?

 何も話さないまま園児達をここに留まらせるのは難しいが、かといって正直に話してしまうと恐怖と不安でパニックになる恐れがある。

 そんな春陽の不安を感じとったのか、千紘は横目でちらりと春陽を見て、任せろと言うように後ろ手でピースサインを作ってみせた。


「今日は皆さんにお知らせがあって来ました。大切な話だからよーく聞いてね」

 千紘が再び園児達に話しかけると、はーい、と小さな手を挙げてちゃんと耳を傾ける。

 千紘はそれを確認してにっこりと笑うと、次に真剣な表情で話始めた。

「お兄ちゃん達の仕事は覚えてるかな? そうそう、悪ーい鬼をやっつけるお仕事だね。それでね、お兄ちゃん達の中に、鬼があそこにいるよーって探すお仕事をしてる人もいるんだ。うん? うん、後で教えてあげるね。それでそのお兄ちゃん……じゃないな。おじちゃんが、鬼を見つけちゃったんだよね」

 園児達は時折疑問を口にしながらもちゃんと話を聴いてくれている。

 千紘は昨日も思ったのだが、改めてここの園児達はとても賢く良い子ばかりだと感心した。彼らを見ていると、毎日いたずらばかりして、あまり大人の言うことを聞かない自由な子供だった自分が恥ずかしくなってくる。

 これが時代の差かとも思ったが、隣に立つ春陽はきっとここの園児達と同じ様にいい子だったのだろうと容易に想像できて、時代の差ではないな、と秒速で自分の考えを否定した。いい子はいつの時代でもいい子だ。


 千紘がそんな脇道に逸れたことを考えているうちに、鬼が出たという話でざわついた空間も少し落ち着きを取り戻した。

 千紘が彼らが静かになるのを黙って待っているのだと気づいた園児達はおしゃべりを止め、再び静かに千紘を見つめた。やはりこの子達は賢い。

「静かにしてくれてありがとう。実は鬼を見つけたって言うのは嘘なんだよね。びっくりさせちゃってごめんねー。けど、今みたいに突然鬼が出たぞーって言われたらすっごく怖くなっちゃうよね? だから、今日お兄ちゃん達が来たのは、皆に鬼が出た時のための練習を一緒にやってもらうためでした! ということで、一緒に練習してくれるかな?」

 はーい、と元気に手を挙げる園児達を見て、春陽は感心した。

 練習のふりをすることによって園児達を違和感なく守ることができるし、練習だと完全に信じている為に恐怖に怯える様子もない。

 園児達だけではなく、先生達も信じているようだ。


「神谷さんってちゃんとできる人だったんですね」

「はるちゃん、俺のことなんだと思ってたの……」

 思わずといった感じでぽつりと呟いた可愛い後輩の言葉が耳に届いてしまい、千紘はこれからは少し態度を改めるべきかと真剣に考える羽目になった。

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