1:30pm/第三研究室
「おーご苦労」
準太が第三研究室に戻ると、部屋の隅のパソコンに向かっていた秋也が顔を上げて声をかけてきた。
「おーご苦労、じゃないですよ! 全く……」
準太の不機嫌な返事に対して秋也は悪い悪いと言いつつも、全くそう思っていないことは笑いを堪えるような表情とその態度で丸わかりだ。
「で?」
「赤鬼の子鬼が一匹だそうです。神谷さんの班と対策の藤咲さんの班が対応することになりました」
「そうか」
促されて準太は先ほどの情報を報告したが、秋也は一言そう言っただけで特に何を言うでもなく再びパソコンに向き直った。
「……黒崎さん、分かってて僕を行かせましたね?」
準太が胡乱げに尋ねると、秋也は何のことだ? と楽しそうに返した。
「今回黒崎さんと僕が呼ばれた理由は十中八九三森さんの武器の件でした。そして黒崎さんは僕が医務室に行ったとき、五十鈴さんに三森さんのこと聞いてこさせましたよね?」
「なんだ、気づいてなかったのか」
さも当たり前のように返されて、存外負けず嫌いな準太はぐっと言葉に詰まった。
「……だって、それを黒崎さんが頼んだのは呼び出しがかかる前だったじゃないですか。武器を作るのに参考に聞いたんだと思ってましたし、呼び出されたときにはそんなこと気にしてる余裕なかったですし」
不満そうにぼそぼそと言い訳を並べる準太を見て、秋也は小さい子どもを見るように仕方がないなぁと苦笑した。
「それに、瀬戸さんが三森さんに気を使うなんて完全に想定外です」
「あいつは結構そういうことするぞ。ただ分かりにくくて面倒くさい奴だから周りには気付かれないけどな」
「……黒崎さんって瀬戸さんのこと嫌いっていう割にはよく解ってますよね」
「名誉毀損で訴えるぞ?」
秋也は心底不快そうに眉間にシワを寄せた。
「どれだけ嫌いなんですか」
秋也の態度に準太が呆れて呟くと、秋也は不快そうな顔からきょとんとした顔に変わった。
「というか、俺は別にあいつのこと嫌いだなんて一言も言った覚えはないぞ?」
「え? 嫌いじゃないんですか?」
大体聞くのは悪口だし、顔を合わす度に良くて口論、酷い時には手まで出るくらいだから、準太は当然のように秋也は恭介のことが嫌いなのだと思っていた。
確かに秋也の言う通り、彼の口から嫌いとは聞いたことはない。しかしだとしたら何だと言うのか?
「嫌いな訳じゃない。気に食わないんだ」
「どっちも同じじゃないですか」
ニュアンスが全然違うだろう、と語る秋也に、準太は真剣に聞いて損したとおざなりに秋也の話を聞き流した。
「そういえばもう一つ気になったんですけど、瀬戸さんが今回パスしたのって、前回三森さんが襲われたのが赤鬼だったからでしょう? それを想定してたってことは、黒崎さんは今回出たのが赤鬼だってわかってたってことですか?」
そろそろ仕事を再開しようと作業の準備をしながら、準太はふと気になって秋也に尋ねた。
「ああ、二階堂さんに聞かれたんだよ。『武器は完成してますか?』ってな」
「それいつの話ですか?」
「今朝の二時だ」
「にっ!? また徹夜で作業してたんですか!?」
準太は秋也の予想外の答えに思わず声を荒げた。
「だから朝あんな状態なんでしょう!? 倒れられでもしたら困るんで、夜はちゃんと家に帰って寝てください!」
「どうせ帰っても誰もいないんだから、帰る意味なんかないだろう?」
秋也は面倒くさそうに返事を返すが、準太が怒っているのはそこではない。準太は家に帰って欲しいのではなく、ちゃんと寝ろと言っているのだ。微妙に論点がずれている。
「じゃあこの際泊まりでも構わないですから、ちゃんと睡眠をとってください!!」
わかりましたか!? と真剣に説教をする準太に、わかったわかった、と返事をしながら、秋也はまるで母親のようだなと思い密かに笑った。
「まったく、黒崎さんのせいで話が逸れたじゃないですか」
「逸らしたのは準太だけどな」
「そうさせたのは黒崎さんです」
思わず止めてしまった作業を再開させながら、準太は何の話だったかとしばし考えた。
「ええと、二階堂さんと会って作業の進捗を聞かれたんでしたよね? 朝の二時に。けどそれはただの偶然でしょう? 最初の目撃情報はお昼の十二時頃って話ですし」
「……そうだな」
準太の指摘に対して秋也はそう呟いた後、暫く何かを考えるように黙りこんだ。




