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1:00pm/特別対策室

 恭介と若葉が部屋に入ると、中には二人の男女が待っていた。


「お、早かったな」

 二人に声をかけてきたのは八尾忠久(やおただひさ)という総務課の男だ。

 忠久は豪快な性格で、無精髭を生やした見た目も相まって『おっさん』という言葉がとてもよく似合う男である。

 一方のもう一人の女も総務課所属で、片瀬涼子(かたせりょうこ)という。

 涼子は所謂癒し系といった雰囲気で、胸の辺りで切り揃えられた黒のストレートヘアに垂れ気味のぱっちりとした瞳の美人で、職場内の憧れのお姉さん的存在だ。

 二人で並んでいると正に美女と野獣という言葉がピッタリだが、忠久と涼子は同じ年で同期ということもありとても仲が良く、大抵一緒にいるため実は付き合っているのではないかと噂されている。

 しかし涼子に憧れを抱いている男達は真相を確かめる勇気がないため、実際のところは誰も知らない。


「八尾さん、状況は?」

恭介が状況を知っているであろう忠久に尋ねた。

「まぁまぁそう焦りんさんな。皆が集まったら説明するよ。じゃないと何度も説明しなきゃならなくなって俺が面倒だ」

「あんたがかよ」

 忠久の言葉に恭介は明らかに不服そうな顔をした。恭介は忠久のことは嫌いではないが、ちょっといい加減な性格と一言余計なところがあるため尊敬はできないと思っている。


「三森ちゃん、怪我はもう平気?」

「あ、はい! ご心配おかけしました」

 涼子が心配そうに尋ねてきたため、若葉は笑顔で、この通り! と言って跳び跳ねて見せた。

 それを見て涼子は安心したようにほっと息を吐いた後、わざと少し怒ったような表情を作った。

「本当よ、皆とっても心配したんだから! だから、今度からは絶対に気をつけること!」

「はい、ごめんなさい」

「分かればよろしい! 約束よ?」

 若葉が反省の意を伝えると、涼子は優しく笑って答えた後、茶目っ気たっぷりに小指を差し出した。

 若葉はこういうところが男心を掴むんだろうなと納得し、密かに今度真似してみようと心に決めた。



「すいません遅くなりました!」

 恭介と若葉が到着して遅れること数分、一華と雲雀が部屋に飛び込んできた。

「あーよかった! まだ皆揃ってないんですね」

「ていうか、ほとんどいないわね」

 二人は部屋の中にまだほとんど人がいないことにほっと息を吐いて、そこにいた若葉の存在に気づいて駆け寄った。


「やっほー、さっきぶり」

「若葉ちゃん、お疲れさま……んん? ホントになんか疲れてる?」

「そうかしら? 若葉はいつもこんなものじゃない?」

 明るく声をかけた若葉に、一華は違和感を覚え首を傾げた。

 雲雀はそれを聞いてまじまじと若葉を眺めたが、特に何も違和感は感じなかった。

「あはー、一華は相変わらずよく気がつくよねー。実は二人と別れた後、みっちり瀬戸さんの特訓受けてて」

「諏凰と特訓なんて、若葉もよくやるわね」

 若葉の話を聞いて、雲雀はうわぁ、と嫌そうに顔をしかめた。

 雲雀と恭介は昔からの知り合いらしく、雲雀は恭介のことを諏凰(すおう)と呼ぶ。

「おい、俺は諏凰じゃねーって言ってるだろ?」

「あら、ごめんなさい。昔の癖でつい」

 恭介はそう呼ばれるのが嫌らしく毎回こうして訂正するのだが、雲雀は変わらず諏凰と呼んでいる。

 昔の癖で、と言っているが、十中八九わざとだろう。


「ってか、三森に余計なこと言ったのお前だろ」

「余計なこと?」

「幼なじみの話だよ」

 最初はピンと来ていなかった雲雀だったが、恭介の言葉を聞いて思いあたったようだ。

「あぁ、別にいいじゃないですか。それに、私が言わなくても彼らが言うでしょう?」

 雲雀の指摘に、恭介は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「あれ? 雲雀も瀬戸さんと昔からの知り合いなんだよね? ってことは雲雀と神谷さんたちも知り合いだったの?」

「そういえばそうね」

 若葉の問いかけに一華も同じように思って雲雀を見たが、雲雀はそれを否定した。

「黒崎さんたちと瀬戸さんは学校で仲が良かったみたいだけど、私と瀬戸さんは家の関係で知り合いだったの。だから噂では聞いていたけど直接会うことはなかったわね」

「家の関係……」


 雲雀の家は所謂大富豪で、西條グループといえばそういう情報に疎い若葉でも名前を知っているくらい有名だ。

 そうなってくると、家の関係で知り合いという恭介も必然的にそっちの人間であると推測できる。

 そして若葉は瀬戸の名には聞き覚えはないが、諏凰なら聞いたことがあった。世界的に有名なリゾートホテルの他、幅広くビジネスを行っているという会社の経営者がそんな名前だったはずだ。

 若葉は少し気になったが、恭介が現在瀬戸と名乗っており、諏凰と呼ばれるのを嫌がっていることから、何か事情があるのだろうと思い確認はしないことにした。



「あ、やば。もうみんな揃ってる感じ?」

「わわ、すいません! 遅くなりました!!」

 一華たちが到着して更に数分後、特に慌てる様子もなくマイペースな千紘と、千紘の言葉を聞いて焦って勢いよく謝る春陽が入ってきた。

 二人も皆が集まる部屋の中央部まで来たところで、千紘がぐるりと集まっているメンバーを見渡して首を傾げた。

「あれ? シュウも呼ばれてなかった?」

 千紘がそう疑問を口にした直後、再び扉が開いて人が入って来た。

 しかしそこにいたのは今話題になっていた秋也ではなく、疲れきった顔をした準太一人だけだった。


「すみません、遅くなりました。あとすみません、黒崎さんは来ません」

「は? 何で?」

 準太がばつが悪そうにそう忠久に報告すると、忠久ではなく恭介が間髪を容れず聞き返した。

 それに対し恭介とあまり相性が良くない準太は一瞬嫌そうな顔をしたが、渋々と答えを返した。

「黒崎さん曰く、今回は俺が出なくても問題ない、お前だけで十分だ、らしいです」

「何だそれ? 舐めてんのか」

 普段だったらその反応に噛みつく準太だが、今回はぐっと押し黙った。いつもは何だかんだ秋也を尊敬している準太だが、そんな準太でも少なからずそう思ったからだ。

「まあまあ、じゃあ黒崎は来ないってことで、みんな集まったから話始めるぞ。時間もあまりないからな」

 険悪な雰囲気の二人を忠久が苦笑しながら取りなして、召集をかけた目的を話し始めた。



「南南峠に赤鬼の目撃情報が出た。体長は三メーター。恐らく子鬼だ。今のところまだ被害報告は出ていない。目撃情報から割り出した進行方向から推測するに、目的地は昨日お前らが行った南区の保育園だ」

 忠久の説明に、皆真剣な顔で頷いた。

 鬼の生態は未だ詳しくは分かっていないが、好ましくない情報としていくつか分かっていることがある。それがどうやら彼らは肉食であるということと、特に子供が好物だということだ。これまでも高確率で小学校や幼稚園、保育園などが標的となっている。


「と、いうことで園児と職員の護衛は神谷、藤咲に任せる」

「りょーかい」

「分かりました」

 忠久の指名に、千紘と春陽は即座に答えた。

 広報課のもうひとつの仕事というのが、この民間人の護衛である。広報課は広い意味で大衆に近く、安心感を与えるように、という意図があるとのことだが、これも本当かどうかは定かではない。


「次に駆除だが、どうする? どっちでもいいぞ」

 忠久は恭介と若葉、一華と雲雀のペアをそれぞれ見て、好きに決めろ、と丸投げした。

 それに対し恭介は嫌そうに顔をしかめ、若葉と一華は苦笑し、雲雀は呆れたようにため息をついた。

「子鬼って言ったな? 一匹か?」

「そうだな、複数の目撃情報からしても、間違いないだろう」

 忠久の返答に、恭介はつまらなそうな顔でふーん、と呟いた。

「なら四人もいらねーな。俺はパス。お前らに任せる」

「えぇぇ、パスって……一華たちの意見も聞きましょうよ……」

 一人で完結してしまった恭介に若葉がそれはないだろうと抗議の声をあげたが、恭介はめんどくせーと言って聞く耳を持たない。

「けど八尾さんも、四人で行った方がいいと思ったから呼んだんですよね?」

「いや? とりあえず行きたい奴が行くだろーと」

「適当!!」

 忠久に助けを求めた若葉だったが、相手が悪かった。

 最終的には笑顔の一華と呆れ顔の雲雀に大丈夫だからと言われ、一人不満そうな若葉を残し駆除は一華と雲雀が行うことで落ち着いた。


「七尾、お前らのところに対赤鬼用の武器を発注してたって聞いてるんだが」

「ああ、来てましたけど、それは三森さん用のですね」

「なんだ、そうなのか」

「はい、前回の三森さんの怪我は武器が合わなかったせいもあるということだったので。三森さん用に作ったので藤咲さんと西條さんには使い辛いと思いますし、そもそもお二人は新しい武器なんて必要ないですよね?」

「なんか馬鹿にされてる気がするわね」

「気のせいだろ」

 不服そうな顔の雲雀に、準太は涼しい顔ではぐらかした。


「それでお前だけで十分、ね」

 準太の話を聞いて忠久は納得がいったようににやりと笑い、何かに気づいた恭介は盛大に舌打ちをした。

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