人生は分からないモノ?!
ーエイダム視点ー
ただ、目指すべきは出世あるのみだった。
それこそが、人生。
それこそが、生きる価値。
身分制度のドルタ帝国に於いて、『陛下のお目に止まる』その事の意味。
それしか、見えぬ日々はもう遠い…。
身一つで逃げるしかなかった。
誘拐された工作を願ったのはベレット。
彼奴の手管の凄まじさは、敵でいた過去より学んでいた。
だから、絶対だと思う。
思うが…コレは。
ある意味の復讐ではないのか?!
農民ならば、理解出来る。
なのに彼奴と来たら。
「そんなヒョロヒョロの農民など居りません。農民を舐めないで貰いたい!!
商人と言うには、愛想も足りぬ。
そんな身で良くも文句が言えますね」
言い返せる言葉も無いまま、ひたすら俯く。
だが、悔しさよりも先程の毒殺未遂の衝撃の方が大きい。
だから、ただ従った。
流浪の民。
それが私の逃亡の姿。
彼奴が似合いますとか、嫌味を言おうとも差し出された一つの箱に黙り込む。
コレは…。
スノー殿が私にくれた箱ではないか?!
何故、それを今?
「貴方にコレの価値が理解出来るとは思えないので」
そう言って、彼奴が説明した内容に私は目眩を覚えた。
なんと…。
魔法使いの治癒以外にも、人々を救う方法があると言うのは聞いていた。
だが、それを素人が扱えるとは。
薬屋なるモノしか扱えぬのでは?
と聞けば。
「怪我や病気は何処いても起こり得る。緊急処置をすれば助かる命も多いはず。
スノー殿は、そう言っておられた。それを広めたい。
それが彼女の願い」
ショックだった。
私を毒殺から助けてくれただけではない。
彼女の目指す先が、あまりに私のいた世界と異なる。混沌とした思考の渦下の中にいた私は、気がつけば旅の空の下だった。
お付きは一人。
我がままは言えぬ。
そう思えど、宿屋にも泊まれぬ旅など出来ぬ!!
そうキレるまでさして時間はかからなかった。
追手を恐れ、彷徨う日々に疲れ切った私は、付き人のジェイダムの故郷に身を隠す事にしたのだ。
それが彼にとり故郷をも危険に晒す行為だと気付かない私は田舎の不味いメシだと文句すら言う日々。
そんな中、ある日事件は起こった。
なんと、村人が高熱を出して次々と倒れていったのだ。
広まるまで時は要らず、あっという間に村人の8割が倒れる有様。
逃げる先もない私は、文句すらも出なくなりひたすら、自分の身に降りかかるであろう病を恐れる日々となる。
しかし、不思議と私は無事なままやがて、ジェイダムも倒れた。
食べ物もない。
家の者たちは、倒れ危機的状況。
為す術もない私は、ふとスノー殿の言われた箱を思い出した。
ベレットの説明を思い出しつつ開けてみれば…。
ギッチリと詰まった薬・薬・薬!!
その一つ一つに、丁寧な使い方の説明文。当然ながら効用も細かく記載されていた。
驚く事に、メモはそれだけに留まらない。
なんと!
病の看病の仕方や防ぎ方まで詳しく記載されていた。
それはもう!
誰でも分かる工夫の行き届いたモノだった。
私がその中の一つの薬を持って、マスクなるモノを手作りしてある室内へと入った。
狭い室内にベットが一つ。
そこには、痩せ細ったジェイダムが寝ていた。
「旦那様。
この様な場所へおいでになってはいけません。お早くお逃げ下さい。
私はもう、仕える事は叶いません」
弱々しい声のジェイダムの言葉は辛うじて聞こえる程度で。
こんな事になっているとは…。
私はそのまま、少し震える手で彼にひとサジの薬を飲ませた。
見た事のない表情のまま、ジェイダムはその薬を飲んだ。
それからの日々ほど、忙しくそして必要とされる人間でいた月日はなかった。
一人、また一人と元気になる村人達と力を合わせて戦う日々。
村は救われた。
最後のひとサジまで使い切って…。
誰も知らなかっただろう。
アレがあの美しい儚げな少女の手によるモノだと。
私とて、実際に彼女に会わねば信じられななったのだから。
それからは、情報を仕入れる為にジェイダムを各地に遣わし己はひたすらに自己研鑽に努めた。
ギャビン陛下のお役に立つ日こそ、スノー殿の御心に沿う恩返しと信じて。
そして、驚愕の事実を知る事になるだ。
彼女こそが、フローラでありスノー殿であり。
そして雪菜殿であると。
その真意も。
暫くして、ジェイダムが驚くべき情報を知らせてくれた。
ドルタ帝国に奇跡が起きたのだ。
そう。
ギャビン陛下はやったのだ!!
その一報を受けて私とジェイダムは、いち早く王都へと戻った。
そして、新たなる世を目撃する事になる。
苦しみから解放された王都の人々の喜びを。
未来を夢見る街の子供達の明るい顔を。
久しぶりの明るい王都だった。
だが、王都で拾ったニュースは、良いニュースだけではなかったのだ。
あの、雪菜殿が行方不明になっているらしいのだ!!
私に探し当てられるとは思ってもいないが、いても立ってもいられなかった。
だから、本当に偶然だったのだ。
バンブル殿の誘拐の一幕に出会ったのも…。
その緊迫のシーンを見ても、チャンスだと思う心のみたった。
何故なら、あの日から変わろうとしていた私の唯一の恩返しへの道だからだ。
更に言えば…
雪菜殿に再会出来る、唯一の道。
それなのに。
今、何故私はこの場所にいるのか?
彼女が私の手を握りしめてくれるという僥倖に湧き上がっていた記憶しかないのに…。
この場所に…知っているカモ…。
恐らく…図書館?
しかし。
この有様はなんだろうか?
この場所に何かが起きたのか??
目の前に広がる光景は、まるで大型の蜘蛛の巣のように、張り巡らされた糸に埋め尽くされた室内だった。
「なんで、繭?!
ブルーレル!!
まさかの羽化なのーー!!!
碧の真似なのーーーー????」思わず叫んだのは、雪菜殿。
雪菜殿のその叫びの意味も本意はしかとは分からないが…。
一大事である事と。。。それだけは、確定している。
ここがまさかの。
ルスタ国の『大森林』
ベラ殿のあの図書館だとは。
人生は分からないモノだ。。。




