誘拐犯はどこに?!
ー雪菜視点ー
単なるお使いのはずが、大変な事になったわ。
ん?
この人…なんかオカシイわ。
「お前…何者だ!!」
一緒に来てくれたバズールの鋭い声が飛んだ。
やっぱり。この人何処かオカシイもの。
どこがって言えないんだけど。
『流石、この国一の腕前のバズールだな。
私の事は…よい。
早くせねば、ヤツ等は国外へ逃がれる。
と。なればあの刀が別のモノに渡る。
それだけは、許されないのだ』
あ、分かったわ。
この人、顔がどうしてもハッキリ見えない。
目鼻立ちとか、どんなに見てもハッキリしないなんて。
まさか…。
『良い勘は、そこまでにしておく事だ。
さあ、急げ!!』
最後に囁きかけた男は、輪郭が緩みだし、最後にそのまま影のように溶けていった。
ぎゃぁーー!!
ダメ!!!
これだけは、無しで。
本当に弱いのよ、お化け関係は。
「コレが本性だったようです。
なるほど、さすが『オゼルの大刀』」
バズールのその言葉に、手のひらに乗っているモノを見て気づいた。
それは確か根付みたいな人形。
と、言うか見た事の無い動物を似せたモノかな?
「そうか。
雪菜殿はご存知なかったのですね。
コレは、我々剣士の護りとして有名な『ガブゼ』と言う架空の動物です。
戦う者の意思を護る、と言われてます」
え?
戦う者の意思を護る?!
聞いた事ないけど。。
「我々剣士は、己の矜持に懸けて戦いますが我々とて人の子。
迷いも、恐怖もあります。
そんな時でも、己の護るモノの為に戦うモノでいたい。その望みを護るモノ。それこそがガブゼです」
うぉ!!
来ました!!!!!
剣士…矜持…。
ラノベのオタク心が燃え上がるわぁ。
と、以前ならそれだけだったけど。
めっちゃ、カッコいいけど。
でも…。
少しだけ戦いを覗いたからかな。
剣士の皆さんの活躍の場面を見たくないのが今の本音ね。
やっぱり、本の中だけで私はいいかも。
「雪菜殿、知らぬフリで店内に入ります。
何処で誰が見ているか分かりませんから決して自分から離れないで下さい」
柔らかな笑顔のバズールの発する小声のみが真剣さを秘めていて、キョロキョロしそうになる自分をやっとこ、止めた。
誰か見てるの?
まさか…誘拐犯?!
怖がらない顔を出来ているか分からないけど、とにかく店へ。
「こんにちは、バンブルさんはいますか?」
店内に争った後は無いわ。
その上、可愛らしい店番もいるし。
もしかして、ドッキリ?
ホッとした私は、武器の沢山飾ってある店内を見回わることにした。
槍
大刀
レイピア
剣
盾
様々な武器は、ゲーム内で見た事のあるモノだけど、実物は鋭く切れ味抜群さが不気味に思えるわ。
やっぱり、私には薬が合ってる。
この用事が、終わったら市場で仕入れをしたいとギャビンに頼んであるの。
店番と仲良く武器談義をしてるバズールに飽きた私が、暇だからと店の外へ出ようと思ったその時。
あれ?
なんか転がってる?!
四角い箱は、指輪ケースくらいの大きさ。
もしかしたら、落とし物かも。
そうだ!!
店番さんには、ちゃんと渡し…ええーー!!
無い。
いや、今ちゃんと手の中に握っていて。
あーーー!!
もしかして、アーノルドの所へ送っちゃったかな?
不味いわ。
ネコババになる。
ど、どうしよう。
「さあ、お約束の市場ですよお嬢さん。
行きましょう!」
あら、バズール。
急にお嬢さんとか言い出したりして。
ちょっと照れるし、恥ずかしいわ。
照れたついでにツッコミを入れようとした私を抱き抱えるように、足早に店を後にしたバズールに文句を言おうとして、固まった。
蒼白だったからだ。
え?
何かあったの?
あーー!
ネコババに気づかれて、私の代わりに叱られたのかしら?
わぁ…どうしよう。。
バズールについて行こうとする市場へ向かう私の足は最早駆け足で。
必死に急いだんだけど、足手まといだったのかなぁ。
だって!!
途中で、突然「失礼します」と言ったバズールに抱き上げられたまま駆け出したもの。
ぎゃお!!
そんなにピンチなの?
しかも…
お、重くない?…いや、重いよね。。
足手まといな自分を謝ろうにも、事情を聞こうにも。
バズールのあまりの駆け足ぶりに口も開けないまま、町外れに出た。
何で急いだか、それで理解したわ。
だって…
沢山の人に囲まれたもの。。
あ、これは私も分かる。
たぶん、誘拐犯の仲間よね。
めっちゃ凄い殺気が溢れているし。
なるほど。
あの店からつけられてたのね。
誘拐犯たちが私たちに向けている鋭い武器は、あの店で見たモノと同じ鈍い光を放っていた。
目つきがキツい以外は、布に覆われている覆面の集団の殺気は真っ直ぐ私達の方に向けられている。
怖い。
バズールに地面に下されて「ジッとしていて下さい」って言われたけど、正直、足が震えて前にも後ろにも動かないから。
恐怖に囚われた私が縋るような気持ちでバズールを見たら。。
え??
先程の蒼白な顔とうってかわって、生き生きした顔で嬉しそうとか、何で?!
バギッ!!!!!
はい!!
理由は、分かりました。
そりゃ一瞬でしたからね。
目の前の誘拐犯の仲間は、全員あっという間にオネンネです。
もう、何が起きたかも分からない位で。
なんて言う強さ!!
「バ、バズール。
この人達って….」と聞いた私に隅々まで笑顔になったバズールがあっさり一言。
「誘拐犯の仲間ですが、雇われたチンピラですね。
まぁ、単なる雑魚です。
問題は。。。
相手が『最果ての一味』だと言う事です。
彼等は手掛かりなど残さない。
更に言えば、非情な奴等だと言う事です。
バンブルの親方の安否が不安です」
さ、最果ての一味?
なんか厨二病みたいな名前ね。
どうやら、あの店番は既に敵方のモノで。
何人もの人間が店内に潜んでいたらしいのよ。
危機一髪だったみたいだけど、あまりに私が場違いだから敵も見極めがつかなかったみたい。
そ、そうだったのね。
全然気づかない事に反省してると。
「そんなのは、当然です。
貴方は騎士では無いのですから」
そんなやり取りをしていた私達は、とにかくギャビンに連絡を取らなきゃと話していたらバズールが急に黙って剣を大木へ向けた。
え?
木の影に誰かいるの?
「出てこい。私の目は欺けない!!」
大木から現れた人に私はまたもや、ギャアーーーー!!と声が出たわ。
「お久しぶりです、スノー殿。いや、雪菜殿。お力になれる時が来ました」
どっから現れたの?
エイダムさん?!




