鍛冶屋バンブルの独り言…
アイツはクソ生意気な餓鬼だった。
口も悪いし、イタズラはエゲツないし。
だが、
ただ一つだけ。
奴は他の悪ガキとは違っていた。
それは、仲間の為なら命すら懸ける。
一途さだっただろう。
だから、奴の幾つものコソ泥も見逃してやったのだ。
俺の作った武器を盗み使うのは、いつも仲間の為だからだ。
使った後は、両手を差し出していつもこう言う。
「俺を…俺だけを捕まえてくれ。他の奴は俺の命令に従っただけだ」
奴はこの街に巣食う本物の悪党に立ち向かっていた。
ある日、奴はかなりの手傷を負って俺の所へやって来た。
奴が差し出した刀『真斬刀』
その頃の俺の打った中では、名刀の一つだった。数日前に、奴がコソ泥しやがったヤツだ。
そろそろ、我慢の限界となっていた。
はずなんだがな。
あの手傷。
奴の腕でも、敵わない相手。
そうさ。街のゴロツキじゃねえ。
噂じゃ、どっかの男爵家の馬鹿息子が大怪我をしたとか。
俺は、悟りきった顔をしたヤツを見た途端。
何かが切れた。
ぷっとな。
「馬鹿共が…。
そんなボロい刀。俺のじゃねえ、持って帰れ!!
まぁ、ボロい刀を見逃すのは鍛冶屋じゃねぇな。置いてけ。
必ず元どおりにしてやる。
は!!
お代だと!笑わせるなよ。クソ餓鬼が。
お前らなんぞから、金なんか取ったら末代まで祟られるわ!!」
大人を舐めやがって。
俺がお前らを貴族になんぞ売ったりするわきゃねぇだろ?
その時の奴の間抜けなツラ。
あー。一生忘れられねぇな。
大笑いした俺は、その後丸二週間の時間没頭して刀を打ち直した。
まぁまぁ良い出来だ。
(元は、奴と同じボロボロだったが…な)
刀を元通りにして渡した時、初めて年相応の顔で笑いやがった。
だが、それが別れの時だった。
奴に迎えが来たからだ。
笑っちまうよな。
奴がデルトライト家の血筋で次期皇帝陛下なんてな。
まぁ、庶子で生まれたヤツは下町で悪ガキのまま育った。おっかさんは黙ってたらしい。
出来れば魔窟に奴を盗られたくなかったのだろうがな。
だが、ヤツは魔窟へ向かった。
「腐った王宮を掃除しに行ってくるよ」
カッコつけた馬鹿は、振り返りもせず去った。
あれから数年。
いや、数十年になるか…。
奴は苦労の末に、本物の皇帝になりやがった。下町の悪党まで、喜びに沸くそんな皇帝に…な。
そんな奴が急に連絡してきた。
そうだ、確か一番子分のベレットだったか。
打ち直して欲しい刀があると言うのだ。
訳ありだとすぐに分かった。
ベレットの表情は、あの頃と同じで冴えなかったからだ。
「無理だったら断ってくれて良いんです。
親方なら、絶対出来るって我が君が言い張るから。
アイツは未だに馬鹿なんです。
危険もあります。
いや、危険ばっかりだとも言えます。
コレの名は…」
俺はひと睨みした。
そうだろう。
例え壊れていても、アイツを知らぬ鍛冶屋などいねぇ。
『オゼルの大刀』
こりゃ、確か聖騎士のサイラスが受け継いでいたはずだ。
騎士の命とも言うべき刀がこの有り様。
なるほど…。
「分かった」
「いえ、だから断って欲しいんです。
貴方が断わればアイツだって…」
ベレットには、見える危険は俺にも見えている。
だからこそだ。
俺しかいめぇよ。
この刀を仕上げられる鍛冶屋などな。
ベレットが俺の心持ちを察して苦虫を噛み潰したようないつものは顔になる。
苦労性とは、コイツの事だな。
アイツの分もいつもいつも、苦労を背負い込んで奔走してるのか。
昔と変わらず…。
騎士を配置してくれると言うのを断った。
無駄な犠牲者を出すのはお断りだ。
刀と鍛冶屋。
真剣勝負が始まるのだ。
誰も入れない。
二人きりの戦いだ。
俺に『オゼルの大刀』の声が聞こえるか?
声に応えられるか?
そんな戦いが。
それでもベレットは、折れなかった。
家の周囲に私服の騎士を配置したようだ。
真剣勝負の結果か?
ふふ。
俺が負けるかよ。
勝ったのが、運の尽きだったとはな。
油断が悪党を招き入れた。
「貴方に用は無いのですが。
その刀の扱える者がおりません。
申し訳ないのですが、ご同行願います」
そう、悪党は丁寧に言葉と共に俺に背中に刀を突きつけた。
「オメェら。この『オゼルの大刀』の本性を知ってるとはな。
悪党にしては、上出来だな」
悪党は、意外にもクスクスと笑いながら返事をした。
「バンブルの鍛冶屋の親方と言えば、この世界でも一二を争うモノ。
そして『オゼルの大刀』は知らぬ者が持つのを許さない。もし。
持てば…」
そうだ。
この刀は我がままなヤツで、己の選ばない者や主人の意思に反した相手に渡るとソイツを殺るのだ。
逃がれる事は決して出来ない。
それこそが…
『オゼルの大刀』が魔剣と言われる所以だ。
しかし。
命は無事でも、奴の依頼に応えられねぇとはな。
そうだ!!
ひとつ、手掛かりを残すか。
もしかしたら、アイツなら…
アイツならば気づくかもしれねぇからな。
連れ去れられる時に突転がした箱がひとつ。
『最果ての一味』でも気づかねぇな。
よし!!
頼んだぞ、からくり箱…。
すまねぇ、ギャビン。頼んだぞ!!




