サイラス視点 ①
1話から編集をしております。
のんびり更新にも関わらず、読んでくださる皆様に改めて感謝します。
元気に動き回るフローラ(雪菜殿)を見つめながらあまりの違和感に戸惑いを覚える。
笑顔を振りまいたかと思えば、真剣に土いじりをしている。
手伝い方々彼女について行くと『にわ』と称する立派な畠があった。
いくら身体強化の魔法を使ったとは言え、これほどの畠を短時間で作る力に先程のジェラルドの声が蘇る。
『フローラの緑の目が選んだのだ。』との言葉。
深く考え込んでいたら、彼女から可愛らしい怒声が聞こえる。
「もう!手伝うんじゃないの?
やっぱ、昨日まで倒れてた人には無理かな。
休んでたら?」
怒りながらも段々と俺の体調を気にかけるところが何とも雪菜殿らしい。
そう。
彼女はもう雪菜殿なのだ。
袖捲りをして雪菜殿に言われた場所の水遣りをしながら不思議な縁に 想いを馳せる。
あれは今から一か月前。
当時、他国の調査隊を任されていた俺の元にルスタ国から呼び出しの書状が届く。
あの『緑の目』の問題もあるので、我々聖騎士は彼の国に近づかない。
謂れなき誹謗を受ける事が分かっているからだ。
彼等と我々の考え方にはかなりの隔たりがあるのだ。
だから当然、故国なれど帰る気は無かった。
最後の一行が無ければ。
『フローラの容態悪化。』
大魔法使いにして、『大森林』の守護者ベラの唯一の弟子フローラ。
魔法使いにありがちな成長速度の違いはあれど、尊敬する師でもあった。
俺が、単なる騎士ではなく『聖』騎士になれたのも彼女のおかげ。
あの一行がどうしても頭を離れず、周りの仲間に止められるも、振り切ってルスタ国へ入国した。
無論、手紙には帰れない旨をしたためて返信済みだ。
ただ、彼女に会う為に隠密に行動を取る。
久しぶりに見る故郷の荒れ具合には正直驚いた。まさかここまでとは。
食糧不足は既に飢饉と言って過言でなく、人々の目には力もない。
胸に迫る想いを秘めて、『大森林』の決められた入り口に来てまた、驚いた。
これは…
絶句したまま、立ち止まっていたらあっという間に兵隊に囲まれた。
近衛隊の隊長を名乗る者に
「フローラは死んだ。緑の悪魔はやっと滅びた。
なのになぜ、森は我々への攻撃をやめない!!
このままでは我々の国は完全に滅びる。
聖騎士サイラス。英雄サイラス。
その名を知らぬ者はないお前はこの国の危機を全く省みない!!
逆賊とは、お前の事だ!!」
ショックで最後の方は聞いていなかった。
フローラの事で頭はいっぱいで気を取られたのかもしれない。
だから聖騎士にあるまじきヘマをして、地面に仕掛けられた魔法陣にも気がつかないまま戦い囚われる事となる。
来る日も来る日も尋問は続く。
「言え!!フローラから何を聞いた?
この森の呪いの解呪方法は?答えよ!!」
誤った認識とはいかに恐ろしいものなのか。
フローラは、この国を想いひたすら、森の暴走を止める方法を研究していたと言うのに。
あまりの違和感に笑いがこみ上げる。
怒った捜査官はとうとう飯抜きの罰則で俺の懐柔を狙う。
段々と虚しさに囚われた俺がそろそろ限界を迎える頃。
牢屋の中におかしな物音がするようになる。
ガリガリ。
始めは朦朧とする意識の幻聴かと思いきや、音は徐々に大きくなりやがて、牢屋の天井に丸い穴が開く。
この国のレジスタンスを名乗る男達によって救い出される。
正直、虚しさに囚われていた俺は、逃亡に積極的ではなかった。
だが、真剣な面持ちで命懸けで俺を助けようとする人々にもう一度、身体の力を出す。
追手は迫るがひとり、またひとりと囮を申し出た男達が消えて行くのに助けられてこの『大森林』へたどり着く。
だが、当然入り口は閉ざされたまま。
男達の一人が囁く。
「貴方しか出来ない事がある。英雄サイラスよ。この森は、我々ルスタの民の前にはもう開かない。
どうかお願いです。フローラ様のされていた森の暴走を止められる方法をお探し下さい。
勝手な願いですが、どうか同郷のよしみで。」
切なくなるその願いを聞くや否や、追手との戦いが始まる。
迫る追手と彼等の戦いには、勝機は見えない。彼等はもっと先の未来のために俺に掛けているのだとそう感じる。
今更ながらに自分に腹がたつ。
何の為の『聖』騎士なのかを忘れている自分に。今はやるべき事を。反省など後でするべきもの。ただ、ただ懸命に祈る。
森の入り口へは、精霊しか開けられないのだから。
『大森林』よ。
懸命なる彼等の望む未来のために、俺の生命を賭して働く事を改めて誓います。
どうぞ。
どうぞ、その扉を今一度お開け下さい。
どの位そう祈ったのか?
その後の事は全く覚えていない。
気がついたらフローラが見つめていた。
なんと、俺の口からあり得ない暴言が飛び出す。
やられた!!
前後不覚の俺に植え付けられた『緑の目は呪い』の呪詛が発動し、フローラを傷つけた。
奴らの狙いはこれだったのか。
俺自身をフローラに対する武器にする為に、前後不覚まで飢えさせ、呪詛を掛けるとは。
あまりの暴言に、ジェラルドを本気で怒らせる。
詫びても許されざる事だが、彼女の口からは許しを得る。が、重大な発表もあったような…
『フローラでなく春川雪菜だから大丈夫』と。
フローラの口から出たセリフだ。
まさかの転移魔法を…
禁術である転移魔法を使用してまで、呼んだ雪菜殿は確かに強い魔力を感じる。
だが、それ以上にあまりの前向きな姿勢に感銘を受ける。フローラはこれに掛けたのかもしれない。彼女の特殊能力よりも、もっと魅力に感じたのだろう。
彼女を知るほど、その想いは確信へと変わっていく。
フローラの最後の希望・『雪菜』
俺の聖騎士としての本当の使命を今感じる。
フローラの願いの為に・彼等の為に・この世界の為に全力で雪菜殿を守ろう。
それにしても、雪菜殿の作るご飯は最強だ。
これだけで、世界征服出来る違いない。
その後、次から次へと現れる訪問者に驚くべきことになる。が、俺自身のスタンスは何ら変わらない。
雪菜殿。
この世界にようこそ。