皇帝になる責務を負ってー祝卵の奇跡と共にー
ーギャビン視点ー
リュカ様のお叱りに、愚鈍な自分でも理解出来た。
この国の主人である…無辜の民
その者達を守る者こそが、皇帝。
この国の頂点にいると勘違いする者達が多いが、実は無辜の民に仕えているのこそが、皇帝なのだ。
小さな少年に庇われながらも、リュカ様の拗ねた様子に思わず笑みが溢れる。
この魔宮とも言える場所で、リュカ様の明るいお顔を拝見するのは初めてだ。
集う民にも笑顔が見える。
少年の頭を撫でながら、肩に乗った責務を感じる。
今まで感じた事のない…心の底から引き締まる思いが。
この状態ならば…いよいよ、雪菜殿を迎え入れる事が出来る。
約束通りに…。
あの優しい女性を…。
?
あれは!
雪菜殿?!
あり得ない方向から、駆け出して来るのは今、思い浮かべたばかりの女性
何というタイミング…、
それにしても、あの離宮の方向から来るとはまたしても、彼女はトンデモナイ事を成し遂げたに違いない。
笑顔いっぱいでこちらに手を振りながら走って来る彼女にポーカーフェイスも崩れる。
胸の奥から湧き上がる嬉しさが、付けている『皇帝』と言う面など軽々と剥がしていく。
だが、抱きとめる為に広げた手はそのまま宙ぶらりんに。
慶鳥。
彼女の頭上高く集ったかと思えば、羽毛を大量に降らせて何かを落とした。
いったい何を…。
あれは…『祝卵』
『祝卵』と言う奇跡のアイテムは、瞬く間に効果を発揮していた。
誰の目にも見えないだろう。
卵から広がる光の波を。
広がる度に清められ、エネルギーを蓄える大地。
この魔宮と言える場所が、本来の聖なる場所に戻るように感じるほどの威力だ。
「慶ちゃん〜!
この卵から、雛が孵るの?」
いや。
雪菜殿。
あの卵は、単なる聖なるエネルギーの集積。
本物の慶鳥が産まれる訳では…。
え?
彼女が手を伸ばすとクルルルル〜と音をたてて卵が縮まった。
彼女の手のひらの上にちょこんと。
き、聞いた事がない。
この世界でも、稀なる鳥…慶鳥。
その類稀なる力は、奇跡の卵を産む。
それが『祝卵』
ただ、太古の記録にも見た者は無く。
精霊からの伝承に過ぎないモノだったのだが。
「ねぇ、ギャビン。
この卵、可愛いわね。
私が育てても良いのかしら?」
手のひらの上の卵を手に、雪菜殿が近づいて来る。
「あ、危ない!!」
足下の木の根につまづいた雪菜殿!!
よろけた彼女を支えようと一歩前に出て、またもや空振りをする。
卵を庇った彼女が手のひらを卵ごと握りしめた途端、消えた。
そうか。。
手のひらを握りしめた彼女は、ベラの家へと転移して行ったのか。
あまりの出来事に固まる民や部下達をよそに意識を戻す。
「さぁ、我らの手に王宮を取り戻す時が来てのだ!」
私は踵を返すと、焦げ臭い王宮へと歩を進めた。
そうだ。
約束通り、歩みを進めるのが私の責務。
雪菜殿。
お待ちしております…。
誤字脱字情報をいつもありがとうございます。
王宮が、皇帝の住まいの為皇宮ではとのご指摘を頂きました。
実はこのドルタ帝国には、帝国となる前王様の治める地でした。そんな訳で王宮と名があります。
紛らわしくてすみません。
いつも、誤字脱字情報を有り難く頂戴しております。
今後も宜しくお願いします。




