本当の主人とは。
ーブレン視点ー
幾つもの事が連続して起きていた。
そして、長い間諦めていた風景を連れてきた。
諦めかけていた未来が薄っすら見える気がした。
夢を持って生きる、そんな未来が。
ーベレット視点ー
真っ二つに分かれた第三騎士団の真ん中を堂々とした足取りで歩くのは、我が君。
ただ見慣れた風景と大きく違う様に見えるのは、そばに居る人間のせいだろう。
それは、警護団のバズールが傷だらけで付き従っている図に違和感を感じているからでは無い。
付き従っている人間がこの街に市井の人々だからだ。土産物屋の親父や子供を抱いた母親。腰の曲がった年寄りもいる。
この先にある王宮は、彼らの及びつかない魔宮。
一瞬の隙で命の奪い合いをする愚かな場所。
例え、王宮と無縁の市民であろうと危険の度数は心得ているのだと思う。
それでも。
尚のこと進もうとする人々の想い。
手筈では第二騎士団のクライスが内側から崩す予定だった。
この様子だと上手くはいっていない。
と、ならば危険は更には高まる。
良いのだろうか?
この人々を連れて行って…。
能面と揶揄される私だが、この時は顔に不安が出たのだろう。そうでなければ、我が君が返事をされまい。
「ベレットよ。
お主は勘違いしておる。
ここの主人は、元々我々では無い。
彼らだ。
私は自身のケジメをつけるのみだ」
ギャビン…。
気軽にこの名を呼んだ昔から、彼はいつもこうだ。
私が幾ら努力して手を伸ばしても、彼は一歩も二歩も先へ進んでいる。
ピィーーー!!
慶鳥のひと鳴きに見上げれば、王宮と何本もの煙が見える。
もしや。
今までこの場で唖然として我々を見ていた第三騎士団も異変を感じとり急ぎ全員が王宮へ駆け出した。
追う形で我々も追いかける。
見えて来たのは、王宮の入り口に並び跪く騎士団。
まさかの第一騎士団まで?
何があったのだ?
皇帝の近衛を誇りとする一団だ。
この蜂起に応えたはずは無い。
ならば何故?
「陛下は…。
ガランド陛下は王宮のあちこちに火を放ち、他国へ逃げ延びました。
この国も我らも捨て。
もちろん、ランバル様も共に御出奔でございます。
事ここに至っては、如何なる裁きも受ける所存。
ただ…」
一瞬言い淀んだ第一騎士団の隊長マスカルドは顔を始めて上げて真っ直ぐ我が君を見て。
「我が名誉に懸けて、この国を捨てた者共とは違うとだけ…」
捧げた忠誠心すら唾棄された彼の目にはもう、何もかも全てが意味のないモノなのだろう。
振り返ると、第三騎士団のナックルなどあまりの出来事に固まっている。既に、彼は二度、矢を放ったのだから当然だろう。
「だからお前たちは、騎士失格だと言うのだ」
我が君の言葉に怒声が幾つも上がる。
この対立は、前から変わらないのだ。
だが、今日の我が君は違っていた。
「騎士とは、己の命を懸けて守るべきを守る。
では守るものは、何だ?
ガランドか?
ランバルだと言うか?
それとも私か?
いや、それこそが違うのだよ。
守るべきは、
ここにいる人々。
この国に住む人々。
この国を形づくっているのは、我々では無い。
彼等だからだ。」
ゆっくりと騎士団を見回す我が君。
その中には、あの日毒を盛った者。
刃を向けた者もいる。
「我はここに宣言する。
再び皇帝に即位すると共に、最も重要な宣下す。
我が身をもって、この国に皇帝は無くなる。
人々のために働く者達がこの王宮の主人になるのだ」
人々が騒めき、マスカルドなど手の中にある刀に力を込めていた。、
やはり。か…あ!!
『やっと来たね。
離宮も無事に我らの手に戻った』
我が君始め、全員が跪く。
リュカ様!!




