再び、訪問者あらわる。
「本当にやるの?」ジェラルドのジト目を無視してまずは土作りからだ。
祖母から教わった事は沢山あるが畠仕事はその最たるものだから。
倉庫から持ち出した肥料を土に混ぜながら久しぶりの鍬使いに専念中。
小さい身体は不便かなと思いきや流石は魔法。身体強化的なものを掛けたら以前と変わりなく働ける。
そろそろお昼かしら。
ふわふわになった黒々した土に満足して昼ご飯作りに。
居間にはサイラスの姿はない。
あの量だから二日三日はかかるだろうけど。
二人の食べっぷりから、昼はボリューム重視。
肉を叩いてミンチにして肉団子を作る。
野菜と炒め煮してまずは一品。
とにかく野菜の宝庫だから、野菜スープは外せない。フローラの記憶を頼りに肉詰めも作る。
ピーマンに似た野菜を発見したから。
皿にてんこ盛りの肉詰めを並べたところでサイラスが地下から上がってきた。
「あー、いい匂いがすると思ったらやっぱり雪菜殿の手料理だ。
こんなご馳走ばかり食べてたら身体が鈍りそうだな。」
サイラスの目はテーブルに釘付けみたいだ。
身体もだいぶ元気になってきたみたい。
「どう?倉庫の整理は時間がかかりそうかしら?
私も畠仕事が一段落したら手伝うわ。」
スープをよそいながら声を掛けた。
「いえ。たぶんあと一時間くらいで終わりそうなので俺の方がお手伝いしますよ。」
口からはみ出るほどの肉詰めを頬張りながらよく喋れるよね!
いや、違う。気にするところはあと一時間ってとこよ。
あの量よ!!
…まさかそんなに簡単に。
私の逡巡は全部顔に出ていたようでサイラスが笑う。
「我々『聖騎士』はこのくらいの事は朝飯前ですよ。雪菜殿は何でも私に言いつけて下さればいいんです。」
幸せそうな顔でスープをがぶ飲みしながら笑いかけられても。
どんなに話しかけても食べるのだけは絶対にやめないね(大食感は、どんな時も発動中ね…)
しかし、これが朝飯前とは。
『聖騎士』凄さ改めて実感して嬉しくなってきた。
頼り甲斐のある同居人に笑いかけていたらサイラスの顔が赤らむ。
「いや、雪菜殿の笑った顔を初めて見ました。
可愛らしいですね。
フローラさんだった時には一度も笑った顔は拝見した事がなく」
バタン!話の途中で乱入者有り!
勢いよくドアが開いて見慣れぬ男性が突入して来た。
クリーム色の髪の毛が肩まで届いてサラサラしている。目は菫色とこれまたハンサム。身体つきはサイラスほどでなくても意外に筋肉質っぽい。
まるで王子様風だ。
「その通りだよ。サイラス君。
君もよくやく分かったようだね。フローラの笑顔は最高だろ。いや、今は違うよね。失礼。
あ、君には初めてましてかな?
僕の名前はアーノルドだ。
此処より西に行った『ルーベント精霊強国』と言う国の第3王子だ。
あーいいんだ。敬うために跪く事はない。
安心してくれ。」
腰に手を当て胸をそらすあまりにもパターン化した王子っぽい男の登場に唖然として口が塞がらない。
ツッコミはサイラスがする。
「黙れ!この馬鹿者が。
お前には常々常識が全く感じられないと言っていたが今回ばかりは酷すぎる。」
威張った様子のアーノルドを他所に、サイラスは頭を抱えている。
そこへ更なる混乱を齎すジェラルドの登場。
「雪菜〜。お腹空いたよ。
お昼ご飯ちょう…
あーー!!コイツはアーノルドじゃん!
なんでここにいるの?とうとう国を追い出されたのか?」
遠慮ないツッコミはジェラルドの得意技ね。
そろそろ学習したわ。
「煩いわ!この僕を父上や兄上達が追い出す訳ないじゃん。愛されて過ぎて僕の方で飛び出してきたんだよ。
それにね、サイラス。
非常識は君の特権だろ。だいたい聖騎士ともあろう者がルスタ国如きに監禁されるなんて何をやってるんだよ。いくら母国だからって甘過ぎだろ。」
頭を抱えていたサイラスのひと睨みでアーノルドは首をすくめる。
ジェラルドに対しては当面無視を決め込むつもりのようだ。
ぎゃあぎゃあ騒いでるジェラルドに昼食を勧めるとやっと静かになった。
サイラスもアーノルドを無視して昼ご飯を続行中。
「やっと落ち着いたわね。
初めてまして。アーノルド。
私はフローラの身体にいる春川雪菜よ。
そしてこの家の主人なの。
と、言う訳で反省するまで家の中に入るのは禁止!
反省出来たら、静かに戸を叩いてね。」
言い終えるとアーノルドを外へ追い出す。
本来なら大人の体格のアーノルドを子供の身体を持つ私には手に負えない。
けど、キッパリと言われるのに慣れてないアーノルドの隙をついて外へ。
「サイラス。扉に魔法で鍵かけて。」
と頼むと
「貴方が望めば、この家自体が彼を受け入れません。私の出る幕ではありません。
そ、それよりこのスープのお代わりはありますか?」
遠慮がちに聞いてきたサイラスにお代わりをよそいながら尋ねる。
「家自体がって何?この家そのものに魔法でもあるの?」
「そうか。雪菜は知らないんだね。
この世界では、家にはそれぞれ住む人を守る妖精が付くんだ。
ただ、普通は見守るだけで特別な力を持たないんだけどこの家は特別だよ。
なんたってベラが300年前から大切にしてきたからね。」
ジェラルドの説明を聞きながら妖精というキーワードにちょっと嬉しくなる。
まあ、オタク系女子なら憧れるよね。
そんなのほほんとして雰囲気の家の外では、アーノルドの叫びが辺りに木霊する。
「どうしてだい?
いったい僕の何がお気に召さないのかな?
ねえ、雪菜君。追い出すのはあんまりだよ。
入れてくれー!」
扉を叩こうにも、家自体に忌避されたアーノルドに近づく術もなく。
立たされたアーノルドは、寂しそうに呟く。
「行くところはないんだ。
もう、国に帰る事は出来ないのだから…」